夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第8回 黒船(3)
    海底に眠る黒船


前回は、海底で「黒船」を発見したところまで、
お話をしました。
この前の探検に引き続き、僕たちは、
さらに西の方へ行ってみることにしました。
海底はでこぼこしていて、見るからに硬そうな地質です。
茶色の海底には、大小の岩や小石が
ゴロゴロころがっています。

僕たちは、カジメ類(海藻)の林を
すりぬけるようにして進みました。
まるでワシやタカが、上空から獲物を探すように、
瞳を左右に動かし、海底にある黒船の残がいを
追いかけるのでした。
そうこうしているうちに、僕たちが最初に見つけた
ハンドマイクに似た金属棒を次々に発見しました。
それらはまるで亡霊のように、
うすぼんやりとした海底に立ちつくしていました。

金属棒は、丈が短めのものや、太さがやや細いもの、
上部が欠損しているものなど、いろいろです。
しかも、これらの棒は、ある一定の間隔をもって、
西の方向へと、一列にならんでいるではありませんか。
人工的に配置されたものとみて、間違いありません。

しばらくして今度は、
灰色をした船の板のようなものを見つけました。
長さ5メートル、幅1メートル、厚さ20センチほどの、
かなり大型の船体材です。
長い年月、海底にあったためでしょうか、
板の表面はザラザラした手触りで、
かなり荒れています。
表面にはびっしりと砂や小石が付着し、石化しています。


木の板を発見

板のところどころには、
赤く錆びた鉄製のボルトらしきものが突き出ています。
その上部は、ほとんどが欠損していて
原型はわかりませんが、
取り付け用に使われたボルトにちがいありません。

つづいて、タタミ2〜3畳ほどもある、
かなり大型の金属の塊に出くわしました。
ちょっと見ただけでは、大きな岩のようで、
うっかりするとつい見過ごしてしまいそうです。
その表面は、まるでカニの甲羅のようにデコボコで、
ゴツゴツしています。
これも鉄でできたもののようです。
注意して見ると、
下部が30センチほど空洞になっています。
空洞の奥は、暗くてよく見えませんが、
物体には、脚らしきものがついています。
真正面から見ると、ちょうどカニが口元から泡を出して、
脚をふんばった姿に似ています。
うまく表現できませんが、
“テーブルの脚”のような形といったところです。


テーブル状の金属塊

また、高さ30センチ、直径が2センチくらいの
細い銅の管のような金属棒も数本見つけました。
それらもすべて、海底からまっすぐに立っています。
表面が青ずんだ色をしています。
後でわかったことなのですが、
これは緑青(ろくしょう)によるものです。
緑青とは、銅の表面に生じる、緑色で有毒の錆です。
不思議といえば不思議なのですが、
銅の棒の表面には、石灰質の凝固物が
ほとんど付着していません。
その毒素によって、海中の生物がつかないのでしょう。


青い銅製の棒にメジャーをあてる

そのほかにも、鳥居のような形をした、
大型の金属棒が見つかりました。
これも鉄でできた物のようで、
先ほど発見した、鉄製の金属棒の列の外側に、
2個並ぶように、海底から垂直に立っています。


鳥居型の金属棒

船体材の南側に、周囲よりも1メートルほど
盛り上がった場所があります。
試しにその表面をナイフで削ってみました。
すると、赤茶色の土煙? が
パーッ! っと海中に舞い上がりました。
どうやら、この下には鉄板のようなものが
埋まっているようです。
この物体は、いったい何なのでしょうか?

さて、これらの物は、そもそも黒船の
どこの部分に当てはまり、
何に使われていたものなのだろう……?
謎めいていて、すぐには判断しかねる物ばかりです。
続きは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2000-09-24-SUN

BACK
戻る