夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第10回 黒船(5)
     黒船と出会うまでの日々


前回は、米国の友人サムが
日本に蒸気船が沈んでいることを
教えてくれたところまで、お話をしました。
ただ、沈んでいるといっても、どの場所に沈んでいるのか、
サムの話だけでは漠然としていて、
詳しいことまでは、わかりません。
そこでまず、その船の遭難当時の状況が
どうであったのかを、詳しく知る必要があります。
そのための資料集めを進めることにしました。

まず、サムが教えてくれた「米国の蒸気船」という
題名の本を手に入れることから始めました。
本は専門書に近い内容のものですから、
僕たちの住む片田舎の書店で入手するのは困難です。
そこで出版社に直接注文をしました。
代金は85ドルでしたから、当時の為替に換算して
およそ13500円です。その出費は、私費留学中の
無収入で貧乏な身の上の僕にとって、
決して安いものではありませんでした。

次に、その本を書いた著者に、
詳しい状況を尋ねてみることにしました。
むろん、著者の現住所などは一切わかりません。
サムのアドバイスで、いくつかの質問を添え、
その出版社気付で、直接著者に手紙を送りました。
が、僕の期待に反し、いつまで待っても
返事は戻ってはきませんでした。

後からわかったことなのですが、
残念なことに、その著者はすでに亡くなっていました。
大切なコンタクトの糸口が絶たれ、がっかりです。
しかし、その本には、著者が参考にした資料が
巻末に載っていました。その結果、船の遭難時の模様は、
当時の「ニューヨーク・タイムス紙」から
引用していることが、わかってきました。

さっそく、大学の図書館に出向いて、
当時のニューヨーク・タイムス紙が
保管されているかどうかを調べてみました。
新聞の現物そのものは、無かったのですが、
幸いなことに、マイクロフィルムで保管されていました。
ドキドキしながら、マイクロフィルムの入った
小さな箱を開けてみました。
嬉しさでワクワクする一瞬です。

フィルムを取り出し、すぐに専用の機械に
かけてみることにしました。
昔の映写機のように手回しで操作するのですが、
スクリーンに写し出されてくる
白黒の活字を目で追いかける動作でさえも、
もどかしく感じられるひとときです。

続いて、いかにも古ぼけたような
その原文をコピーしました。
ちょうど、ゼロックスの機械にかけるのと、同じ要領です。
こうして手に入れたニューヨーク・タイムス紙には、
一体どんなことが書かれているのでしょうか?
つづきは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2000-12-04-MON

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