夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第13回 黒船(8)
続船長の手記


前回は、横浜港を出帆した黒船ハーマン号が、
相模岬をかわした後、
名もない暗礁地帯にでくわすところまで、お話をしました。

船の進路は、陸地からおよそ8マイル付近を
航行するように操舵されていました。
が、船長は、南西からの大きなうねりの影響で、
船が予定のコースよりも少し岸側に流されていると
判断していました。
そのため、実際の陸との距離は、
およそ5マイルほどにちがいないと、考えていました。

見張りのため、当直の二等航海士が
船首前方甲板に張りついていました。
海は相も変わらず暗く、もやのかかっている状態でした。
そのじつ、船長にも、うすぼんやりとしか
陸地を確認できませんでした。
そして、できるだけ陸に近づかないようにと、
船の進路を東寄りに変えたのです。
船長は、この航路にいくばくの不安も
持ってはいませんでしたが、念のため、
備えつけの羅針盤で確かめようと
船尾に行ってみることにしました。

この時です。
船首前方と左舷付近に白いくだけ波を発見しました。
思わず我が目を疑いました。
血の気がスーッと引く思いです。
慌てた船長は、「とり舵いっぱい!!」と大声で命じると、
直ちに船を左舷に大きく転進させました。
しかし、想像を絶するような巻波の力でした。
ほんのつかの間の出来事で、「しまった」と思った時には、
もう後の祭りでした。
ドドドドーン!!
船底をギシギシときしませながら、船は、なすすべもなく、
一瞬のうちに暗礁に乗り上げてしまいました。

それに続くかのように今度は、
はるか沖からやってきた巨大なうねりが、
渦を巻くような激しい水流になって、
その船を急激に波間に押し上げました。
さしもの船も、たまらず、初めに船首が、続いて船尾を、
次々にそのむきだしの岩礁に
叩きつけられてしまったのです。

黒船ハーマン号は、そのような逃げ場のない岩礁地帯から
抜け出せるのでしょうか?
風はまるで吠えるかのように、
ビュービューとさらに強さを増して、吹きすさびます。
船は、またたく間に浸水をし始めました。
乗組員たちは、それこそ必死の形相で、
船底にたまった海水を汲み出すのに、
やっきとなっています。

どのくらい時が立ったのだろうか。
真夜中になると、船はあたかも幽霊船のように、
あたりを漂い始めました。
船首には穴があき、船の破損は、
船体中央部にまで及びました。
船べりがバリバリと音をたてて壊れるのも
目のあたりにしました。
煙突や前帆柱もボロボロに破損し、
船はまるで抜け殻のように
みじめな姿をさらけだしています。

さて、人々は船と命運を共にするのでしょうか?
つづきは、次回をお楽しみに。

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2001-02-28-WED

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