夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第17回 黒船(12)
黒船との再会


読者の皆さんに
今回はホットなニュースをお知らせします。
僕たちはこの夏、海底の黒船調査を行いました。
関東地方は、例年より9日も早い梅雨明けでした。
僕たちにとっても暑い夏となりました。
いざ調査をするとなると、
事前の準備でにわかに忙しくなります。
現地との打ち合わせや機材の調達、
宿泊所の確保や人の手配など、
まさにネコの手も借りたいぐらいです。

今回はスタッフ7名で調査をすすめることにしました。
都合3日間の日程です。
手始めに先発隊として4名が現地に集合しました。
全員が合流してくる前に、
あらかじめ海底に降り立って、現場を再確認し、
いつでも作業に取りかかれる状態にしておく。
それが僕たち先発隊の役目です。

チャーターした漁船に調査用の機材や
エアータンクを積み込んで、
3名のスタッフたちと共に出航しました。
目的地は港から船で10分ほどの距離にあります。
海上のあたり一面には、靄がうっすらとかかっています。
しかし、上空の雲は岬をかすめるように、
東の方へかなりの早さで流れています。
前にもお話しましたが、海域は名にし負う岩礁地帯です。
時には南西からのうねりや速い潮流にさいなまされ、
潜水ができないこともありました。

その苦い経験を活かして、
今年は比較的潮の干満が緩やかな
小潮の時期を選んでみました。
潮汐表で確かめてみましたが、
干満の差は60センチほどです。
この程度であれば、なんとか安全に潜水できそうです。
めざす海底には、
およそ長さ20メートル、幅10メートルの
長方形の範囲で沈没船が横たわっています。
手始めに、沈没船を確認し、その位置を示す
浮標を設置することにしました。

先導役のT君がまず最初に潜って、
その場所を確かめることになりました。
彼は、ドッボーン!とばかりに、水音も勇ましく、
海底に向かい潜っていきました。
頼もしい限りです。
彼の高度な潜水技術をもってすれば、
その遺跡に間違いなく到達できるものと
みな信じて疑いませんでした。

ものの20〜30分もすると、
彼が水面に浮上してきました。
てっきり遺跡が確認できたものと、みなが瞳を輝かせ、
船べりから身を乗り出すようにして吉報を待ちました。
ところが彼は開口一番、
「スミマセン、見つかりませんでした」と
言うではありませんか。
固唾をのんで見守っていた僕たちも、
肩から力が抜ける思いでした。
「君が潜ってダメなら、他の人でも探せないさ」
責任感の強い彼の気持ちを思いやって、
僕はとっさにそう言いました。
果たして黒船とは、再会できるのでしょうか?
続きは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2001-08-28-TUE

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