夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第18回 黒船(13)
再び見る黒船


前回は残念なことに、海底の黒船を
再確認できなかったところまで、お話をしました。
僕たちは母船の停泊位置を
再度チェックしてみることにしました。
調査船が海底に横たわる黒船の
ちょうど真上に来るように停泊できれば、ベストです。

検討の結果、船首前方に更に10メートルほど
船を進めてくれるよう船長に頼みました。
「オーケー、少し動かしてみよう」
早速、同乗の数人の船頭らが船首に駆け寄ってきて、
いかり綱を「ヨイショ、ヨイショ!」とかけ声も勇ましく
手繰り寄せてくれました。
今度はどうやらいい位置に着けることができたようです。
さあ、2度目の潜水の始まりです。
今回はT君とO君がペアで潜ることになりました。
今度はきっと首尾よく見つけてくれるに違いありません。



海面にひとみを凝らしていると、海上に漂う目印の
赤い浮標がグイグイと引っ張られていって、
船首から10メートルほど先で止まりました。
どうやら沈没船が見つかったもようです。
その浮標から海底に伸びる綱を伝わって潜行すれば、
目標の黒船に容易にたどり着くことができるのです。
やれやれ一安心といったところです。
幸い透明度もバツグンです。

今夏は歴史的な猛暑が続きました。
海底はさぞ涼しいに違いないと思っていたのですが、
潜ってみてびっくり。水温がやけに冷たいのです。
それもその筈です。
例年よりも7度も低いセ氏14、5度しかないのです。
僕たちにとって、予想もしない出来事でした。
水温が低ければ僕たちのような素人ダイバーでは、
1回せいぜい10〜15分程度潜るのがやっとです。
ドボンと水中に入った途端に、手足がかじかむ。
そんな冷たさでした。



仕方なく、僕たちは宿に帰って、
寒さ対策を練ることにしました。
漁師さんの話では、
水温がすぐに平常に戻るきざしはないとの予測でした。
僕たちは、テレビの天気予報を
食い入るように見つめました。
「海水よ、暖かくなれなれ」。
神頼み以外に策はなさそうです。

翌日になると、私たちの窮状を見かねた地元の漁師さんが、
「着てみろ」とババシャツならぬ
海女シャツを貸してくれました。
潜水服の下に重ね着すると、ネル地のためか保温性に富み、
今度は40分ほど海中にとどまることに成功したのです。



海底の周囲には背丈が2メートルほどの
カジメ(海藻類)が繁茂していました。
海藻の林をかき分けながら目標の沈没船に到達するのは、
至難のワザです。
今度は全員がノコギリがまを海中に携え、
除去する作業が待っていました。
果たして僕たちの調査は、うまくゆくのでしょうか?
続きは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2001-09-30-SUN

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