第19回 黒船(14)
黒船を掘りたい
前にもお話しましたが、難破船の残骸は
長さ20メートル、幅10メートルの長方形の範囲に
横たわっています。
蒸気船といっても、黒船の船体は木でできています。
海底の表面に露出している船板はかなり劣化していて、
ちょうどザラザラに固まった化石のようです。
昔の木造船の一番の大敵は、何といっても船食い虫です。
船食い虫は、白くて長い体長が30センチぐらいの
二枚貝の仲間で、木造船に食い込んで穴をあけます。
海底でみる沈没船の船体には、必ずといってよいほど、
この船食い虫に荒らされた跡が残っています。
でも僕たちの見る限り、これらの船の板には
その痕跡がありません。
ゴツゴツとして、カニの甲羅のような形をした、
タタミ2〜3畳ほどある大型の金属の塊は、
原形をとどめていないので、
外見だけでは判断が難しいのですが、
恐らく蒸気機関のエンジンの一部に違いありません。
そのような鉄製のものは、海水に長い間さらされると、
その外側に貝殻類などが付着し、全体がすっかり覆われて、
まるでイボイボのついた海牛のような形に
なってしまいます。
金属の塊のさらに下には、その船の船底部や積み荷を含む
大量の遺物や遺品が堆積している筈です。
昨年までは、海底のごく表面的な調査でしたから、
今年は2ケ所ほど掘り下げてみたいと思っていました。
そのために僕たちは、調査用の枠を作ることにしました。
枠の素材はアルミ製のものが軽くて扱い易いのですが、
なにせ僕たちのような貧乏なプロジェクトの資金では、
思うにまかせた機材を取り揃えることができません。
そこで、会員の0君の提案により、
建築現場などで使う足場用の鉄製の単管パイプを使って
組み立てることにしました。
格子状に1メートル四方に枠を組み、
4本の脚を垂直に取りつけ、それらを金具で締め付けて、
ベースジャッキという台座をつければ完成です。
僕たちは材料費をさらにケチるために、
中古の単管パイプで代用することにしました。
これならば1セット3000〜4000円で組み立てが可能です。
僕は隣町にある鉄骨やさんを訪ねて
それらを手に入れました。
正直なところ、
夏場のかんかん照りに近い日射しの下での組立ては、
ただでさえ暑さで気が狂いそうで、
途中で投げ出したくなるほどやるせない作業でした。
いよいよこの調査枠を実際に試す日がやってきました。
カジメ類を除去した後の勝浦の海底に、
僕たちが自作したこの調査枠を設置することにしたのです。
さて、つづきは、次回をお楽しみに!
井上たかひこ
「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6
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