夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第22回 黒船(17)
作戦変更


前にもお話しましたが、今回の調査の一番の大敵は、
水温が極度に低いことです。
潜るとすぐに手足がかじかんでしまう、
そんなまるで真冬並みの冷たさでしたから、
十分な潜水時間がとれません。 
そのうえに今度は、船酔いや水中酔いに襲われて、
途中でのリタイヤ者が続出しました。
その結果、人手不足が生じ、
調査が思ったようにはかどりません。
そのため、当初の計画を
大幅に変更せざるを得なくなりました。

ボクたちは思案のあげくに、
残り2回の潜水を1回に短縮し、
ラストダイブに調査の正否を賭けることにしました。
汗水をたらして、苦労してせっかく作った調査枠も、
結局は使わずじまいで、ただの骨折り損のくたびれもうけに
終わってしまいそうです。
調査の一番の目玉であった、一部を試掘する試みも
見送らざるを得ません。
ターゲットに選んでおいた2ケ所も、海底を掘り下げてみる
時間的なゆとりがなくなってきました。
思わず口からため息がでるほどがっかりして、
気が抜けてしまいました。

気を取り直して作戦変更を考えた結果、
写真撮影による遺跡の測量図を作ることにしました。
全員総出で分担して作業を進めることにしました。
片腕のT君がデジタルVTRカメラを、
O氏がデジタルカメラを使って、
遺跡上の東西に張られている基準線に沿うように、
泳ぎながら、頭上から撮影を開始しました。
ボクと大学生のK君は、二人三脚よろしく、
遺跡の表面に落ちている遺物を拾って、
その位置を計測し、水中ノートに書き込む作業の担当です。

ボクたちを追いかけるように、
H氏が愛用の35ミリカメラを使って、その調査風景や
海底にでている黒船の残骸を
丹念に撮影し続けてくれました。
ボクたちは、陶磁器類の破片7つに加えて、
金属でできた船の装飾品らしき物を1つ見つけました。
お皿の破片のひとつには、
表面に花柄のモチーフが描かれています。
海中でザッと見た感じでは、その絵の紋様からいって、
和製のものではなく、洋風のものであることは明らかです。
金属の装飾品の方は、鉄か銅の素材でできています。
アルファベットのS字のような形をしていますが、
その表面の大半は、
海の付着物でビッシリと被われていますので、
それが何であるのか、とっさには判断がつきません。

海中は、潮の流れのためか、渦があり、
身体がユラユラと動くので、
海底に両膝をしっかりとついて、
腰を落とすようにして踏ん張り、
身体を支える必要があります。
また、時には、流されないように、
腹ばいになって、作業をすることもあります。
海に慣れていないと、
これらの海中特有の事象が引き金となって、
水中でも酔ってしまう不可思議な生理現象が
起きてしまいます。
さて、つづきは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2002-02-24-SUN

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