第24回 黒船(19)
会の発足
今回から、いま僕たちが行っている最新の話題をテーマに
1回読みきり形式でお届けします。
じつをいうと、僕たちは今から3年前に、
日本水中考古学調査会という会を発足させました。
初めは、黒船を調査するための体制づくりを目的に、
仲間2〜3人でスタートしたのですが、
今では会員数が40人ほどに増えて、
活動の輪が徐々に拡がってきました。
会を構成するメンバーも社会人から大学生まで幅広く、
さまざまな職業の人たちが参加することによって
運営されています。
たとえば、考古学にたずさわる人たちを含めて、
ごく普通のサラリーマンから神官、医師、企業経営者、
料理店の主人や料亭のおかみさん、
果ては八百屋さんまでとバラエティに富んでいます。
みな僕たちのやっていることに
賛同してくれる人たちばかりです。
自分たちがなんらかの形で会の運営に参加する、
あるいは参加しないまでもプロジェクトを成功させることに
生きがいや喜びを感じてくれている人たちです。
「でも、それって趣味なの?」と言われそうですが、
けっしてそうではないんです。
むしろ、職業としてやってゆければと
思っているのですが・・・。
まあ、いまのところは、
任意の学術団体といったところでしょうか。
昔から水中は遺跡の宝庫とよばれてきました。
わたしたちの周辺の海辺には、まだ陽の目をみていない
遣唐使船のような沈没船やなぞのムー大陸などの
豊かな伝説にまつわる古代遺跡がたくさん眠っています。
このような、海中に沈んでしまった
昔の遺跡を調査する学問が水中考古学なのです。
でも現実はどうなのでしょうか?
陸上の発掘調査は頻繁にあるのに、
どうして海の発掘調査はないのでしょうか?
難破船や海中に沈んだ島や港、
あるいは石造りの建造物などを調べることは、
意味のないことなのでしょうか?
それとも、邪道なのでしょうか?
たとえば、青森県の三内円山遺跡が
縄文時代のこれまでの定説を
つぎつぎとくつがえしたように、
たった一隻の難破船が古代の歴史を塗りかえるほど
重要なものに変わることだってあるはずです。
でも、多くの人たちがまだそのことに気がついていません。
あるいは気がついてはいても、
その重い腰を一向に上げようとはしません。
それは、今なお、水中考古学と本格的に取り組もうとする
大学や研究機関が見当たらない日本の現状からいっても
歴然としています。
僕たちは、封印された水底遺跡の入口の扉を
あけたいと願っています。
「そのうちに、大学や公的な機関が動いて
なにかをやってくれるにちがいない」
と期待して待ってはみても、いつまでたっても
誰もこの難問に手を染めようとはしないでしょう。
水中考古学を取りまく、今の環境をたとえていえば、
「オギャー!!」とうぶ声を上げてはみたものの、
そのまま道ばたに放置された
赤子のような状態といったらいいのでしょうか。
そのヨチヨチ歩きの赤ん坊を、
一人前の確立されたものに育てていこうと、
僕たちは考えているんです。
「誰もやらないなら、せめて僕たちだけで、
活動を始めようよ。
とりあえずやれるところからやってみようよ」
というのが、そもそもの会の発足の原点でした。
だから、自分たちで資金を集めてやっているんです。
まだまだ力不足で、活動の規模も小さいのですが、
希望の灯火だけは絶やさずに
ともし続けたいと考えています。
僕らの育てる赤ん坊が、
いつか認知される日がくることを願って・・。
だから、いま頑張っているのです。
でも逆に、未知数だからこそ楽しいとも言えるんですがね。
そして、その啓蒙・活動拠点として
この調査会をスタートさせたのです。
いまでは多くの人たちが、
それこそ手弁当で汗水を垂らしながら、
会の運営に参加してくれています。
遅くなりましたが、当会への加入も受け付けています。
インターネット発信中です。
詳しくは下記をご覧ください。
さまざまなボランティア活動がしたいと思う方は、
ぜひアクセスしてみてくださいね。
http://www.radmac.co.jp/kurofune.html
それでは、次回をお楽しみに。
井上たかひこ
「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6
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