夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第26回
「大理石の円盤」はオリンピックに使われた?
―古代ギリシャの難破船



アテネオリンピックもいよいよ開幕です。
戦いにいどむ選手たちの熱い想いが、
ボクたちのところにも伝わってくるようです。
第1回古代オリンピックは、
紀元前776年にギリシャで開かれましたから、
アテネオリンピックはそれから数えて、
およそ2800年目にあたる記念すべき大会です。

今日の舞台はエーゲ海の海底です。
ギリシャ本土の東にあるエーゲ海には
多くの島々が列なっています。
ギリシャの船乗りたちは、
航海術の発達していなかった大昔でさえ、
これらの島々を伝わるように航海することによって、
古くから黒海やエジプトとの海上交易を始め、
海洋民族として栄えてきました。

その伝統をうけつぎ、いまでも船乗りとして、
七つの海で活躍するギリシャ人は多いのですが、
だからこそ、世界一の海運王として知られる
オナシスのような人物を輩出できたのかもしれません。

いまから5年前の夏、
エーゲ海のトルコ側にあるテクタシュ・ブルヌの海底で
紀元前5世紀のギリシャの難破船の
発掘調査がおこなわれました。
調査の指揮者は、ボクたちが水中考古学の父と敬う
ジョージ・バス博士です。

荒海に面したテクタシュ・ブルヌの乾いた丘陵地帯。
そこは、電気も水もない孤島のような無人の岬でした。
陸上の発掘調査とは比べものにならないほど、
きびしい環境です。
切り立った荒涼たる岩場への、
2ヶ月間にもおよぶ宿舎設営は、
まるで流人に強いられる過酷な労働のようでした。

ナショナル・ジオグラフィック(2002年3月号)によると、
深さ45メートルの海底に、その難破船は、
朽ち果てた残骸をさらしていました。
気の遠くなるような深さです。
海底で作業をするダイバーたちに許される時間は、
この水深だと20分ほどしかありません。
潜水病の危険とも闘わなければなりません。

やがて、バス博士たちは、
海底からとても珍しいものを掘り出しました。
直径14センチのまるい円盤です。
しかも大理石でできています。
いったいこれは何なのでしょうか?
もしかしたら、古代オリンピックの
円盤投げ競技に使われたものだったのでしょうか?
さらに少し離れた場所で、
おなじ円盤がもうひとつ見つかりました。

最近上映された映画『トロイ』に出てくる
ギリシャの軍船の船首の部分に、
眼が描かれているのに気づいたでしょうか?
ギリシャのつぼの絵から、古代の船に
こうした眼があったことが知られています。
航海の安全を託し、船の行く手が見渡せるようにと、
船体に眼をつける習わしがあったことを物語っています。

船首の眼は、ただ単に
船体に塗料で描かれていたにすぎない、と
思われがちですが、実際はこの難破船とおなじように、
「大理石の円盤」が使われていました。

ギリシャでは聖火を運ぶために、
古代の軍船が復元されたそうです。
当時おもに奴隷や罪人にかいで漕がせた
ガレー船とよぶ型の船です。
つい先日の聖火リレーを知らせるテレビ画像では、
その船に眼がつけられていたかどうか
確認できませんでしたが、
聖火リレーに昔の軍船を使うなんて、まさに海の民ですね。

さて、つづきは、次回をお楽しみに!

井上たかひこ



「水中考古学への招待」
井上たかひこ著 成山堂書店
2000円(税別)
ISBN4-425-91101-6

2004-08-22-SUN

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