夢か馬鹿か。
水中考古学って、知ってますか?

第29回
潜水艇で深海にもぐる気持ちは
どんなだったのでしょう
〜「タイタニック・ツアー」2004〜



前回は、世界的水中考古学者のジョージ・バス博士が、
深海に眠るタイタニック号へのツアーのために、
潜水艇ミール号に乗り込むまでのお話をしました。
今回はそのつづきです。

三人乗りの潜水艇が海面に降ろされました。
ダイバーが海中に入り、艇に異常がないかどうか、
安全のための最終点検もよどみなくおこなわれました。
万事オーケーのようです。

いよいよ潜水の始まりです。
艇は、「ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ」と
海水をかき分けるようにしながら、
ゆっくりと潜航を開始しました。

潜水艇の写真をお見せできないのが残念ですが、
チタン合金製の船体は赤白に塗りわけられ、
後部甲板には尾ひれのような水平尾翼を、
船尾には推力プロペラが取り付けられています。
腹部の下には着艇する時に使う、
ソリに似た2本の脚が装着されています。
艇全体を横から眺めると、
まるで魚のマンボウのような姿かたちです。

艇には、バッテリーや生命維持装置、ソナーや水中電話機、
無線アンテナなどが装備され、
前部には、投光器やストロボライトなどの照明器具に加え、
テレビカメラや35ミリカメラなどの
最新鋭機器が装着されています。

小さな潜水艇に乗って、
深海に潜るときの気持ちはどんなだったのでしょうか?
水圧で艇は潰れてしまわないのでしょうか?
タイタニック号の発見者である
米国ウッズ・ホール海洋研究所の
ロバート・バラード博士は、
その著書のなかで次のように述べています。
「速度を増していく潜水艇のなかで、
 私は不安を頭から追い払いました。
 潜水を開始してからものの1分もたたないうちに、
 横揺れや縦揺れもおさまり、
 毎分30メートルの速さで潜降してゆきました。
 艇は暗黒の海を静かに潜ってゆきます。
 宇宙カプセルにも似たキャビンのなかは、
 とても蒸し暑く感じられました。
 でもやがて、船体が氷のような海水に冷やされて
 徐々に室温が下がり、船内の壁に寄りかかっているのが
 苦痛になるほどでした」

限られたバッテリー容量ですから、節電のため、
エアコンも備えられてはいないようです。
深さが増すにつれ、セーターにニットの帽子と
だんだん重ね着をして寒さに耐えたと聞きます。

一方、バス博士の乗ったミール号の方は、
どうだったのでしょう?
艇がオンコースで潜航しているかどうかを確認するため、
艇長のニキタが備え付けのコンパスを
しきりに見やりながら、緊張した面持ちで操縦しています。
同様に、目の前に並ぶたくさんの計器類にも監視を怠らず、
神経を集中させていました。

乗組員のクレイグの方は、先に沈めた自動応答機から
送られてくるモニターへの信号表示を読みとり、
正確な時間と距離を紙上に記録しています。
そして、深度計を見ては声高に深さを読み上げ、
みなに知らせてくれました。
バス博士も時々深度を判読しては、
クレイグの側面援助に一役買っています。

降下中にニキタが、昼食用にと
サンドイッチを出してくれました。
それには、熱い紅茶にビスケットまで添えられています。
潜水艇の中で味わう食事は、
また格別だったにちがいありません。

博士は、深度を判読するほかは、
自分の席に座って、艇の進み具合を確認したり、
舷側の丸い小窓から写真を撮ったりして
過ごしていたようです。
窓から見る風景は、艇の外部に据付けられている
カメラと照明用ライトで一部隠れてしまいますが、
キャビン後部に据えられた
ソニー製ビデオモニターに映しだされる難破船の画像は、
信じられないくらい鮮明だったと聞きます。

さて、つづきは、次回をお楽しみに!

井上 たかひこ

2005-01-30-SUN

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