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糸井 |
排気量の小さい50ccのバイクで
ミーン!!って、飛ばしているような人だから、
ひとつのことをちゃんとできてないと不安だし、
自分にも厳しいし、
きっと心のなかでは
まわりにも厳しい人なんです、余裕がないから。
でも、今回は、そんなかんじがしない。
すごくたのしそうだし、
「まわりが、みんないいんだ」って言う。 |
樋口 |
そう。
みんなのまなざしが、高いの。 |
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ほぼ日 |
まなざしが高い! |
樋口 |
みんなの見てるところが高くて、
しかも、
見ているものが同じなの。 |
糸井 |
‥‥そんなこと、ふつうはないよな。 |
樋口 |
ない、ない。
ふつうはバラバラしていたり
「ちょっと、誰か遅れてないか?」
とか、そんなことがあったりします。
本来なら、同じ仕事に関わっているんだから
目線は同じはずだけど、
どうしても微妙に散ってしまうものなんです。
でも、この『明日の記憶』は、
みんなが「見上げて」いる。 |
糸井 |
きっと毎日、いい試合をして帰ってくる
選手みたいな気分だったんだろうね。
だから、機嫌もよくて、
自分をも、責めてなかった。
俺はこの人の心のなかまではわかんないけど、
いつもはきっと、いろいろ考えてることが
あるんだろうと思う。 |
樋口 |
うん。私は反省型だから
「もうちょっといけたかもな」って
思っていることが多いです。 |
糸井 |
意外と反省型ですね。
でも根は明るいから。 |
樋口 |
すぐ「ま、いっか!」となってしまうんだけど(笑)。
おふろに入ると溶けるから。 |
ほぼ日 |
いろんなものが水溶性ですね(笑)。 |
樋口 |
でも、今回はね、
毎日が、気持ちよかった。 |
糸井 |
こんなこと、聞いたことないよ。 |
樋口 |
いい試合だった。 |
糸井 |
撮影にだって、いそいそ出かけてた。
いちど青山でロケがあったよね? |
樋口 |
うん。 |
糸井 |
そのときに、
「○○で△時にロケやるんだ」
って、具体的なことを言ったんだよ。
そういうことは、普段はいっさい言わないのに。
だって、来るかもしんないし、俺が。 |
一同 |
はははははは。 |
樋口 |
「樋口がいつもお世話になっております、って
あいさつしに行きたい」
とか言うの。 |
糸井 |
「じゃ、何時ごろ行こうかな」ってからかって、
いつも、ものすごくいやがれてます。
いろんな人に気を使いながら、
「おかし、あるんですよ」とか、言ってみたいわけ。 |
ほぼ日 |
やっかいですね。 |
樋口 |
舞台の楽屋に来たい、とか。 |
糸井 |
そして、舞台を端からそっと見ている、とか。
あこがれなんだよねー。やってみたい。 |
ほぼ日 |
嘘だとわかっていても、いやですね。 |
樋口 |
すっごく、いやですよ。
そう言われることだけで、いや。 |
糸井 |
なのに今回は、ロケ地を言うから、
びっくりしたんだよ。
状況や行動まで漏らすから、
すごく開放されて仕事してんだな、と
気がついたんです。
話は『明日の記憶』だから、
しんどい物語であることは、
わかっているわけですよ。
撮影だってハードだし。
だけど、自分がどっか行っちゃわないような状態で
帰ってくる。
撮影が進んだときに
「その映画、おもしろいの?」
って訊いてみたんです。そしたら
「たぶん、おもしろいと思う」
と言い出した。
その段階で、ちょっとうらやましくなって
手伝いたくなったんだよ。 |
樋口 |
「手伝おうか」なんて
言われたことはなかったから、
びっくりしました。 |
糸井 |
そしたらそのとき、樋口さんは、
「それはみんな、喜ぶよ!」
って言ったんです。
自分のこととしてじゃなく、
その映画のチームの一員としてそう言った。
こいつ変わったな、
今回はめずらしいケースだな、と思いました。
やがて、どうやら渡辺謙という人が
ものすごく一生懸命やっているらしい、
エグゼクティブ・プロデューサーとしても
そうとう本気である、という話が聞こえてきた。 |
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樋口 |
最初、私は謙さんが
エグゼクティブ・プロデューサーだと
知らなかったんです。
だから、
「なんでスタッフ会議に出てるんだろう?」
って思っていました。
よっぽど現場のことが好きなのかなぁ?
段取りも、ものすごくよく知ってるなぁ?
と思ってて(笑)。
助監督よりも、いろんな段取りがわかっていて、
「可南ちゃん、次はこういくからね?」
なんて言うわけです。 |
ほぼ日 |
主演と、スタッフ側と
両方やるというのは? |
樋口 |
たいへんなことです。
みんな、自分の役をやるだけでも必死なのに。
まして、あんな役をやりながら、
あるときはポーンとスタッフ側にまわって
「次のセリフはだいじょぶね?
言いにくいところはない?」
って、訊いてくるんです。
たいへんなのに、それがまた、
苦しそうじゃないの。
軽やかなの。
むしろ、楽しそう。
こんなことを、こんなに
自由にできる人がいるんだ、と思った。
それがね、私みたいな
エンジンの馬力の少ない者にとっては
ほんとうに驚きでした。
(つづきます)
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