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樋口 |
順撮り(物語の順序どおりに撮影すること)
だったせいもあるけど、
謙さんは、ほんとうに変わっていきました。
役の「佐伯」が変わっていくことについて、
謙さんは、そうとう考えていたと思う。
メイクや衣装のせいもあるけど、
すごい人だな、と思った。 |
糸井 |
いま、渡辺謙さんと
メールの交換をしてるんだけど、
この人は特別だなと
思うことがあるよ。 |
樋口 |
第一通目のメールは、私、
読ませてもらって、泣きましたよ。
ああ、こんな想いで
謙さんはやってたのか、
ということがわかったから。 |
糸井 |
あのメールのやり取りで、
俺ははじめて役者さんとつきあった、
という気がする。
演技の技術のことでははい、
役者という「人」の居かたについて
知った気がした。
役者って、いいね。
自分が全部出ちゃう仕事でしょう。
瞬間に飛び込んでいくスリルがあるし、
鍛えられるだろうし。
ちゃんと役者をやってると、もしかしたら
どんどん性格がよくなっちゃうんじゃないかな。 |
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樋口 |
たしかに、役者さんには
いい人が多いよ。 |
糸井 |
それに、今回は渡辺謙さんを媒介にして
樋口さんを知った、という気分でもあります。 |
ほぼ日 |
謙さんとのメール交換のなかで
“『明日の記憶』を観たときには、
「あ、オレがいる」と思えた瞬間が、
何度かあった”
と書かれていましたが。 |
糸井 |
うん。結局、役者も
経験の蓄積を表現に持っていくしかないわけだから、
この表現はどこから来ているのか、
本人にもわからないことがあるわけです。
でも俺には、画面にいる女優から
「あれは、あれだ!」「ああ、ああいう人だよな」
というのが見えるわけです。 |
ほぼ日 |
映画に出てくるメモの字は、
実際に樋口さんが書かれたそうですね。
そういうことも、
糸井さんしかわからないから、
映画を見終わったあとに聞いて、
へぇ、と思いました。 |
樋口 |
そう、あれはぜんぶ私の字です。
スケジュールが合わなくて
謙さんだけが撮影することになっちゃった日にも、
「可南ちゃんの字じゃないと気持ちが入らないから、
こういう内容のメモを書いてくれる?」
って、謙さんから連絡が来て。
そうかそうか、と思って
私は文房具屋さんに走って、
どんな紙がいいかな、どうしようかなって
迷って、用意したんです。
そんなことも、私はやったことがなかった。
いつも小道具さんが用意してくれていたから。
自分で文房具屋さんに行って、
「この役だったらどんな紙を選ぶだろうか」
そこまで考えるのは、
すごく気持ちよかったですよ。
こんなことも、謙さんに
教えてもらったんだと思います。 |
糸井 |
信頼されてるって、思えるよね。 |
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樋口 |
うん。
そうか、ここまで私は任されたんだ、うれしい、
と思う。 |
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糸井 |
役者さんって、そのあたりの悩みを
ほんとうはみんな持ってるんだね。
顔がよくてちゃんと話せるから、
「このセリフでみんなを泣かせてください」
なんて言われてしまうけど、
もっと全体で勝負したい、という気持ちが
きっとどこかにあるんでしょう。
謙さんは、今回、
エグゼクティブ・プロデューサーとして、
どんなことにでも口を出していい、
という立場でいられた。
それは、ほんとうに、よかったね。 |
樋口 |
プロデューサーとしての名刺もお持ちでしたよ。
私ね、20代のころに、いちど
謙さんにお会いしてるんだけど、
わりと静かにしてらっしゃる方でした。
もともと役者として大きい人ではありましたが、
この十何年でまったく変わられたと思います。
ここまでみんなを
「行こうぜ!」と
引っぱっていく人ではなかった。
今回の映画は、
謙さんが原作を読んで
これを映画として世の中に出したい、
ということからはじまったそうです。
謙さんは、宣伝の会議にも熱心に参加していたし、
スタッフみんなが
ほんとうに謙さんに巻き込まれてた。
この映画、人が入る映画になるといいなぁ。 |
糸井 |
『明日の記憶』をみなさんがどう見てくださるかは、
ちょっと自信があるよ。
だから、「ほぼ日」の試写会も、
大きい規模でやりたかったんです。
大きな空間に埋まる何かを
この映画に感じたから。 |
樋口 |
この映画について取材に来てくれる記者の方も、
目の輝きがちがいます。
「これ、ほんっと、あたるといいですね」って
みんなが言ってくれる。 |
ほぼ日 |
映画を観た人が、
渡辺謙エグゼクティブ・プロデューサーの
チームの一員になってしまうのかもしれませんね。 |
樋口 |
そうかもしれない、ほんとに。 |
糸井 |
この「ほぼ日」での連載だって、
雇われるんじゃなくて、
「俺がやりたいから」という形でやりたかった。
まわりのみなさんも、
そうだったんじゃないかな。
堤監督をはじめとして。 |
樋口 |
でもね、この映画のもとにあるものが、
いったい何なのかを
ほんと言うと、わかってないの。
謙さんも、
「試写を100回観ても、いつも感想がちがう」
って言うんですよ。
「どうして自分がこれに魅かれたのか、
たくさん要素があるんだろうけど、
ほんと言うとまだわかってない気がする、
でも魅かれる、ものすごく」
って。
謙さんでさえ、
まだわかってない。 |
糸井 |
わかったら
映画撮る必要なんてないんだからさ。
それは、わかんないと思うよ。 |
樋口 |
うん、それでいいのかな。 |
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ほぼ日 |
‥‥では、こんなところで
このご夫婦を解放いたしましょうか。 |
樋口 |
ありがとうございました。
お騒がせいたしました。 |
糸井 |
ああ、終わった。 |
ほぼ日 |
ご夫婦で、ふだん、
お茶を飲んでお話とか、
なさらないんですか? |
樋口 |
するよ。
ただし、実のない話をね(笑)。 |
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糸井 |
それぞれの分野で「実」を出すのは
ちょっと得意なんだけどなぁ。 |
ほぼ日 |
今日はご夫婦で「実」を(笑)。
こんなことはもう
めったにないことかもしれないです。
ありがとうございました。
(おわりです)
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