肉体言語で考えてごらんよ。安宅和人×糸井重里
安宅和人さんをお迎えして、
糸井重里と10年ぶりに対談をしました。

ヤフーやLINEといった会社をグループ化した
Zホールディングスで働き、
新人を積極的にチームに入れている安宅さんは、
同時に慶應義塾大学で学生に指導することも。
デジタルネイティブないまの若者を
よーく見てきた安宅さんと、
これからの時代の若い人の生き方について
糸井重里とたっぷり語り合いました。

ITの世界でデータを扱う安宅さんですが、
ご本人の育ち方は正反対な、自称「野生児」。
全身を使って体験してきたことが、
いまでも役に立っているそうですよ。
※この対談を動画で編集したバージョンは

 後日「ほぼ日の學校」でも公開します。
(1)フェアウェイゾーンのやりとり。
写真
糸井
事前の打ち合わせが数ヶ月前で、
その日のメモにこう書いてあったんですよ。
「若い人たちが育つ環境を作りたい」
「学校では学ばない、足りないものを」
とおっしゃっていました。
いまの時代のサバイバル論のような、
大きなテーマで自由にお話をしよう。
そんな打ち合わせをしていたみたいです。
安宅
打ち合わせから時間も経っていて、
あんまり覚えていないんですよね(笑)。
糸井
ぼくもいまメモを読んでみて、
改めていいなと思ったんですよ。
若い人たちが育つ環境を作るという発想は
安宅さんが普段からやっていることですし、
いま、とても必要なことだと思うんです。
安宅さんは全方向のいろんな人たちと
考えをすり合わせたり、
ぶつけ合ったりされていますよね。
安宅
糸井さんに比べたら
たいしたことないですけど。
糸井
ぼくはやっぱり、より好みしてますよ。
一見全方向に見せていますけど、
その角度は全然ないねっていう方向も
じつは結構あるんですよ。
それこそ安宅さんは、
政府や行政の人たちとも会っていますし、
国際的な仕事もされていましたし。
いま所属している会社でも
若い人たちとずっと組んでいますよね。
安宅
ほぼ若者ばかりのチームですね。
ぼくはコンサルの仕事をしていたときから、
「余っている若いひとがいたら、
みんなおれのところに送り込んでくれ」と言ってます。
新人を好んで仲間に入れていたんで、
ぼく以外の3人が新人っていうチームを
平気で組んでいましたね。
糸井
そう、その姿勢を感じるんですよね。
意識的にやっていらっしゃるわけでしょう?
安宅
それは意識的にやっていますね。
血が新しいうちに精神注入するほうが、
未来へのインパクトが大きいと思ってるので。
周りの人からは、経験がないと
スキルがないから嫌だって言われましたね。
特にコンサルタントみたいな世界では
新人を入れたがらないんですけど、
それはまあ、シニアの仕事ですよね。
若い彼らには体力があるんで、
「こっちだ!」と言ったら、
彼らはぼくらの5倍速で走れるんです。
その中で成功体験を積めばいいんだから。
糸井
うん、うん。
安宅さんのお話を聞いていると、
若い人との接し方で、
ぼく自身の間違っていた時代を思い出します。
安宅
え、糸井さんにそんな時代が?
糸井
師匠と弟子の関係ってありますよね。
自分がフリーでやっていたときにも
アシスタントは必要ですし、
お弟子さんになりたいような人が
アシスタントに来るんですよ。
安宅
なるほど。
糸井
ぼくに頼まれた仕事は、
ぼくの品質を要求されて
ギャランティされているわけなんで、
アシスタントの子に任せるわけにはいきません。
彼の書いたコピーで、
ぼくの書くコピーと同じ品質のものがあれば、
彼が出したものでも出せるっていうふうに、
品質を先に保証しなきゃならないと思うので、
どうしても厳しくなっちゃうんですよ。
安宅
あ、品質についてはぼくも同じですよ。
自分のチームで出すアイデアの
クオリティチェッカーが自分なので。
ぼくはいまヤフーとかLINE、
ZOZO、一休などを束ねる
Zホールディングスっていう会社で
シニアストラテジストという仕事をしていますが、
チームのメンバーがムリしすぎない感じでと
トップ・マネジメントからは言われています。
糸井
厳しい要素がありながらも、
若い人をチームに入れているんですね。
安宅
ぼくのチームが報告をする相手は
日本一でかいインターネット会社のトップなんです。
彼らにその場で意思決定してもらうためには、
最高のクオリティでないと
いけないとぼくは思っているんです。
用意する資料で混乱が起きるなって思ったら、
バグを全部削っちゃうんですよね。
写真
糸井
安宅さんが直せば
通用するものができるっていう
自信はあるんですね。
安宅
若い彼らがつくるものであっても、
正しいという自信はあります。
間違った方向には進んでいなくて、
ベクトルとしては正しい。
ぼくがやっていることは、
フェアウェイゾーンに入っているものを、
ちょこちょこっと直している感じです。
糸井
あぁ、フェアウェイゾーン!
その辺りでやりとりできることが、
たぶんいま、
いちばんおもしろいんじゃないでしょうか。
安宅
いま東京都の副知事をやっている宮坂学さんが
ヤフーの社長をやっていた頃に、
「大体この辺だよって示すことが
自分の仕事だよな」とよく言っていました。
ぼくも本当にそう思うんですよ。
だいたいの感じを指し示すんです。
「北極星はあっちだよ」みたいなことを。
糸井
輪郭線は描けないけれども、
向きと、光の分量を教えてあげるんですよね。
それはぼくもある時から思っています。
輪郭線が見えるように指示すると
自分も追い詰められるし、
チームもビビりはじめちゃうから。
安宅
輪郭線、いいことばですねえ。
糸井
こうしてしゃべっていることって、
安宅さんが10年前に書かれた
『イシューからはじめよ』っていうこと、
そのものですね。
安宅
あ、そうですね。
まさにその方向感です。
糸井
『イシューからはじめよ』がベストセラーになって、
みんながそれぞれにいろんな翻訳をして
考えているんだと思うんです。
あの本を読ませていただいたぼくは、
「問題は何かを探すことがイシューだ」
というふうに、ぼくは捉えています。
問題がなくても、ものって考えられるんで。
安宅
ありがたいです。
そう、意味のある方向に
考えを寄せたいですね。
糸井
たとえばの話、
上野動物園をどうすればいいのかって
考えようとしたときに、
何が問題なのかを探すことが先ですよね。
問題がわからないままで、
パンダをあと5頭入れたらいいとか、
そのことに夢中になっていたら
できなくなっちゃうことがあるんです。
何を問題として発見するのかっていうことを
あんまり話さないうちに、
仕事ってはじまりますよね。
安宅
それが危険ですよね。
そもそも、主語が混乱していることが多いです。
3人ともが違う主語で考えていたりして。
糸井
ああ、そうだ。
安宅
あとは、どのぐらいの時間軸で考えるとかも。
みんな、その事業だったら、
自分の見ている商品領域のことしか考えていません。
だけど、世の中の変化は関係なくて、
もうちょっと横断的に起きちゃうわけです。
この視点で考えなきゃいけないんだけど、
ここでもう、ずれているわけですよね。
糸井
三者の利害をそれぞれが思いっきり言い合えば、
答えが出るっていう思い込みが
世の中にありませんか。
いまだに揉めている問題って
ほとんどがそのせいじゃないかなあ。
安宅
ええ、そう思います。
ぼくの仕事は、現場とは離れて
愛を持ちながらも
客観的に状況と意味合いを見立てるのが仕事なので、
いつもそういうことは思います。
(つづきます)
2023-05-19-FRI