第3回 「根性論」が才能を潰す。

フラフラになるまで仕事をしても、自己満足にすぎない。成長は意味あるアウトプットをきっちりと出すことからしか得られないからだ。バリューのある仕事をし続け、その質を保てるのであれば「仕事に手を抜く」こともまったく問題ではない。人に聞けば済むことはそうすればよいし、今よりも簡単な方法でできるのであれば、そうするべきだ。(抜)         ーー『イシューからはじめよ』p36より
糸井 無駄な時間を過ごしてしまったことに対する
「いらだち」が
この本のきっかけになったということですが。
安宅 ええ。
糸井 お話ししていると、割に控えめというか‥‥
「私はこう考えるわけです!」
とか猛烈にまくし立てませんよね、安宅さん。
安宅 そういう意味では、私、この本には淡白です。
糸井 答えは書いてある、読めと。
安宅 ただ、ちょっと付け足しますと‥‥。
糸井 ぜひ、足してください。
安宅 日本人って、たしかに素養が高くて
優秀だとは思うんですが、
なんというか‥‥「奴隷労働的」になる人が
すっごく多くて。
糸井 そうですね。
安宅 テクニシャンではあるんだけれど
技術一辺倒になってしまう人を、よく見るんです。
糸井 なるほど。
安宅 結局、そういう人は「目先の仕事」を
「最高のクオリティに仕上げる」ことばかりに
集中していて
「本当にやるべきこと」に注力しない。

だから、結果につながらないんですね。
糸井 海外では?
安宅 たとえば、アメリカを見てみると
短時間の労働で
高い結果を生み出せる人が多くいるんです。

この問題を突破すればうまく解決する‥‥
という一点に対して
高い集中力を持って取り組むことができる。
糸井 うん、うん。
安宅 日本社会に蔓延している「根性論」が、
そういう才能を潰している現場を
たくさん見てきました。

そのことが、結果的に
私たち日本人あるいは日本国のレベルを
落とす要因になっていると思います。
糸井 やればできる、がんばれば報われる‥‥
みたいな考えかたが。
安宅 そのあたりを打破できなければ、
世界では勝てないんじゃないでしょうか。
糸井 本のオビにも「根性に逃げない」と。
安宅 ええ。
糸井 僕がこの本を読んだときに思ったのは、
安宅さんのような考えを持つ人が活躍できる
会社組織にならなければ‥‥ということ。
安宅 そうですか。
糸井 一人ひとりが読むべき本であり、
チーム内で共有しておきたい内容ですから。
安宅 それは、ありがとうございます。
糸井 ただ、
「日本人が奴隷労働的だ」という問題については
解決すべきだとは思うんですが、
他方で、人間には
「奴隷の大将に憧れる」部分があると思うんです。
安宅 ええ、そうなんですよね。
糸井 「奴隷の大将」は、ある種「ヒーロー」なんです。
メディアや大衆から「褒めてもらえる」から。

その在りかたに「憧れ」を抱いてしまうことって
少なからずあることだなと思っていて。
安宅 わかります。
糸井 だって「テレビやラジオで引っ張りだこ」なんて
よく言われますけど、
「引っ張られるだけ」なのは「奴隷」ですもの。
安宅 そこに「自分の意志」がなければ。
糸井 僕は、もともと広告をやっていたんですけど、
あの世界にも「根性論」はあって、
「どんな商品でも売ってみせる」というのが
誇るべき「腕」みたいになってる。
安宅 うん、うん。
糸井 「売れるべきものが売れていく」のは
いいんですけど
「本当は売れないもの」が「売れちゃう」のは、
おかしいんですよ。
安宅 ‥‥先ほども言いましたが、
マッキンゼーに入社して間もないころ、
努力と結果とのあいだに
あまりに何の相関もないということが
僕を大混乱させました。

力を込めたものが、結果を生まない。
思いつきみたいな仕事が、すごい成果を出す。

結果が出てさえいれば
誰からも文句は言われないんですけど、
これには、すごく悩みました。
糸井 うん、うん。
安宅 DeNAという会社の前社長・南場智子さんが
まだマッキンゼーにいたころ
すごく怒られたことがあったんですね。
糸井 どんなことで?
安宅 当時、僕は巨大なプロジェクトの立て直しに
単身で突っ込んでいました。

結果的には、良い成果を出せたのですが、
南場さんは
「あんたみたいな若いのが
 独りで入っていって、
 たまたま当たったから良かったものの
 もし失敗していたら?
 そこに費やされた何ヶ月間という時間は
 決して返ってこないのよ」と。
糸井 ‥‥ほう。
安宅 ようするに
「仕事とは、きちんと取り組まなければ
 自分を成長させることはできない」
ということを、強く言われたんですね。
糸井 なるほど‥‥。
安宅 朝から晩までボロボロになるまで働いて、
オフィスで
次の日を迎えるという日々のなかで‥‥
「掴まなければ!」と
強く思うようになったきっかけ、でした。
<つづきます>
2012-01-16-MON