糸井 | 安宅さんも後輩のトレーナーを担う期間が けっこうあったんですか? |
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安宅 | 明確に「トレーナーとして」というより、 後輩に対して 何やかや言っていた、みたいな感じです。 |
糸井 | そうなんだ。 |
安宅 | 近くの席の子に、ちょこちょこ‥‥とか。 |
糸井 | どんなこと言ってたんですか? |
安宅 | 「そんなの考えてもしょうがないよ」とか 「そんなのやってるぐらいだったら、 お茶でもしてきた方がいいんじゃない?」 みたいことばっかり言ってた気がします。 |
糸井 | やっぱり「無駄な時間を使うな」と。 |
安宅 | ええ。 |
糸井 | マッキンゼー時代を知る知人からは、 オフィスの中でも 異様な存在感をお持ちだった‥‥と。 |
安宅 | 誰です?(笑) |
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糸井 | 廊下なんかでバッタリ会って 今やっているプロジェクトとか仕事のことを話すと 「違うんじゃない?」みたいに 短時間で、ズタズタに引き裂いて去っていくとか。 |
安宅 | そうでしたかね‥‥(笑)。 |
糸井 | もちろん引き裂くだけでなくて 同時に、代案を提示してるんだと思うんですが。 |
安宅 | でも、それってあの会社の伝統なんです。 僕も上司に同じことやられてましたから。 |
糸井 | 引き裂かれた若手どうしで 「アタカさんに、あんなことを言われた」 みたいに 話し合う学びの場が生まれてそうですね。 |
安宅 | 「いま、こんな案件を抱えていて」 「いま、こんなことで悩んでいて」 と相談されたら、バシッと言うんです、みんな。 「誰々の話も聞いたほうがいい」とか。 |
糸井 | 「伝承アブル」だと思ってるからこそ できることでもありますよね。 |
安宅 | そんな社風のなかで なぜか、先輩たちに妙にかわいがられて 育ったので、 その恩を返すような気持ちで、せっせと‥‥。 |
糸井 | 引き裂いてた(笑)。 |
安宅 | 愛情表現です(笑)。 |
糸井 | そのへん、マッキンゼーらしさのひとつ、 なんでしょうかね。 |
安宅 | だと思います。 マッキンゼー&カンパニーという会社は 経済学教授の ジェームズ・O・マッキンゼーが 創設したんですが、 その他にも 会社を大きく成長させた人がいて‥‥。 |
糸井 | マービン・バウワーさん、でしたっけ。 |
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安宅 | そう、そうです。 僕が入社したころ マービンは、まだピンピンしてたんです。 100歳まで生きたんですけど‥‥。 |
糸井 | なんか、おもしろい人だったみたいですね。 |
安宅 | 新しく入った社員たちを一箇所に集めて、 みんなで円陣を組んで、 「ウィー・アー・ファミリー」みたいな。 |
糸井 | そこからはじまるんだ。 |
安宅 | 血の結束なんです、マフィアみたいに。 |
糸井 | いや、そのことは、すっごく感じますね。 だって、マッキンゼーを卒業した人たちの ネットワークって、ものすごいじゃないですか。 |
安宅 | ええ(笑)。 |
糸井 | その‥‥散り散りになっても成り立つ組織。 華僑のネットワークみたいな感じ。 |
安宅 | そういうところはあります。 |
糸井 | そうですか‥‥マービンさん、100歳まで。 |
安宅 | ええ。 |
糸井 | ちなみに僕は、 「1000歳まで生きる」と公言してまして。 |
安宅 | すばらしい! 僕の師匠は「200歳」と言ってるんですけど、 ずいぶん負けてるなぁ(笑)。 |
糸井 | あ、そうですか(笑)。 なんか「200年」だと まだ「時代が似てる」ような気がするんです。 |
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安宅 | そうか、1000年も経てば さすがに時代は、ぜんぜん違いますね。 |
糸井 | だいたい、今から「1000年前」っていうと 『源氏物語』の時代ですから。 |
安宅 | ええ、なるほど。 ‥‥「価値観」がぜんっぜん違ってますね。 |
糸井 | そう、そうなんですよ。 今の「常識」に照らして 『源氏物語』を道徳的にどうなんだとかって 言うことがありますけど、 仮に「GDP」みたいな指標で比べたら 当時の貴族って 「現代の庶民以下」じゃないですか。 |
安宅 | ええ。 |
糸井 | そういう人たちが、肯定する話だったわけです。 |
安宅 | 『源氏物語』というのは。 |
糸井 | つまり、人の本性のある部分は、 『源氏物語』を肯定する側に、あるわけですよ。 そういうものの見方って 「1000年」という時間の射程で考えたら すうーっと理解できたんです。 |
安宅 | うん、うん。 |
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糸井 | つまり「1000年の視点」を持つことで 見えてくることが、いろいろあったんですね。 そして、そういうスパンの視点で ものを発想することが 僕の「イシューの見極めかた」かなぁ、と。 |
安宅 | すばらしいです。 |
糸井 | どうぞ「2000年」でも「3000年」でも プレゼントしますんで。 |
安宅 | あ、ありがとうございます(笑)。 でも、まだまだ修行中ですから まずは「500年」くらいから‥‥。 |
糸井 | そうおっしゃらずに(笑)。 |