第1回 ステージの上では違う人になってることについて。

糸井 『Life』をつくったときは……
綾戸 あれね、半年もかかっちゃった。
その頃、トリオの活動ができなくなって
ちょっとキツかったの。
その頃一緒にやっていたピアニストに足をひっぱられて、
へんなこと弾かれたりして
唄えなくされて・・・
でもやっぱりやりたかったから、がんばれた。
でも、ヨレヨレになって、そんななかで
『Life』を作ることに決めて。
で、癒しに行ったんだよね、空気のいいところへ。
糸井 それが(長野県の)松本なの。
綾戸 うん。穂高ってところ。
糸井 そのあとのアルバム(『friends』)に
「Take Me Home, Conutry Road」が入ってるよね。
それには意味があったんだ!
綾戸 うん。穂高の山を見てて。
糸井 それで癒せたわけだ。
綾戸 うん。でもそっから半年は“ルンルン”よ(笑)。
糸井 おおおおお!!! 恋か!
ちょっと、やっぱ、唄ってるとき、
本気になったりするわけ?
綾戸 あるねえ。
糸井 “ガッ”っと。
綾戸 “ガッ”っとくるよねえ、やっぱりねえ。
人間だもんだねえ。
糸井 そういうのなくっても、
唄ってたじゃない、“ガッ”と。
綾戸 そっ。
糸井 でも(恋が)あったら違うよね、また。
綾戸 だからあんまり、
リアリティが来ないように唄うの。
でないと、「もうーっ」って感じで言葉が出ちゃうから。
「アァーッうれしい」とか
「なんでやねんっ」とか自分の本音が出るじゃない。
糸井 その半年のコンサートは特別だったんだね。
綾戸 その前の半年は、鼻血が出たり、きつかったから、
余計にがんばったよね。
糸井 うーーん。
綾戸 人間っていろいろあるんだよね。
糸井 ありまんなあ。
綾戸 ありまんでー。
ほんといろいろある。
だから、ないと、ダメなんだろうね。
糸井 思ったとおりに全部いってたら、
思いつかなくなるよね。
怒ってる必要もないし、
イライラしている必要もないんだけど、
何かを思いつく分ぐらい足りないのがいいね。
綾戸 そっ。
あのね、人間ってね、
穴あけるクセはないけど、
埋めるクセがあるでしょ?
動物には穴を掘る習性があるけど。
糸井 人間は穴見ると、埋めたくなる。
とくに男。
思い当たる節はあるよね。
綾戸 うん。あるでしょ?
だから、埋め方が非常にね、
ちゃんとしてないと、
人間のイヤらしさになっちゃうね。
糸井 うんうん。
綾戸 埋め方が素敵だと、
人間だからできるワザになるのよ。
糸井 乱暴に埋めちゃったらダメだよね。
綾戸 ダメだと思う。
動物でいう「掘り返す」っていうのは、
もう乱暴でも優しくってもいいんだよね、
でも、ゼロにすることが埋めるってことでしょ?
ゼロにするときは、やっぱりちゃんとしないとね。
糸井 そういう事、いつ考えてるの? 家で?
綾戸 家だね。家で家事するときに考えてるの。
ワタシ、家事ってすごく好きなんです。
糸井 2つ生活もってるわけじゃない?
家事したり、主婦、母親っていう。
で、こっちで、ミュージシャンで
好き放題唄ってる時間があって。
そのミュージシャンやってるときに
走り過ぎるわけだよね、基本的には。
バーーーーーッと、まわり気にしないで
なんにも見ないで。
綾戸 そうです、そうです。
糸井 でも、見ないふりをしてるけど、見てるから、
お皿洗っているときに、
「あんとき、あーだった」とか考えるんだね。
綾戸 唄ってるときは歌のことしかなくて、
家事すると、もう歌詞なんか出てこなくて
お母さんとしてしか動いてないんだけどね。
バンドのベーシストの杉本なんかは
「顔が違う。イサくん(息子)が横にいるとき、
 まったく違う。
 どう違うかはうまく言えないけど、違う」
って言うの。
ふつうの人は同じだって言うわけ。
言ってることが違うだけで。
糸井 『鶴の恩返し』みたいでさ、
内緒で、「開けないで、見ないでください」
って言って、はた織りしてる鶴。
あの部屋だよね、(綾戸さんにとって)ステージが。
綾戸 そうです。
イサにはぜーったい見せないです。
見たら、げんなりすると思うんだ。
見たら素敵だと思わないと思うんだ。
糸井 あれって違う人になってるのかもしれないね。
綾戸 違う人になってるんですね。
ぜったい違う人なの。

(つづく)

2000-06-16-FRI

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