糸井 |
音が鳴り出す寸前と鳴り出してからって違うじゃない。 |
綾戸 |
違うんですよー。 |
糸井 |
あんとき、ポンってスイッチ入るんだね。 |
綾戸 |
うん。もう偽善者イヤなの。できないの。
でも、努力するから、やっぱり偽善に近くなっていくの。
でも、怖いからウンコするの。
泥棒入るみたいな感じ。
しちゃえば楽って感じ。 |
糸井 |
もう犯罪と紙一重だよねえ(笑)。 |
綾戸 |
紙一重ね。 |
糸井 |
ああ、だってさー、思えば、
ラブの歌をいっぱい唄っているけど、
後ろ手でドア鍵閉めるときって犯罪だよね。 |
綾戸 |
そうなんです。 |
糸井 |
親から言われたとおりにしてたら
こどもって一人もいないんだよね。 |
綾戸 |
そっ。 |
糸井 |
その瞬間、犯罪に走るわけじゃない。 |
綾戸 |
言われたとおりにしてたら、
親は子どもより長生きしなきゃいけないわけ。 |
糸井 |
そうなんだよね。 |
綾戸 |
でも親が先に死ぬから。 |
糸井 |
そうなんだよねえ。
それぼく若いとき考えたよ。
これ悪いことじゃん、って教わったはずなのに、
パンツ脱がせるわけじゃない。
「みんなやってるんだ」っていう言い訳でも
納得できないわけよ。
自分が犯罪に踏み込んでいく、
それで相手もそのつもりでいる。
だからぼくレイプほど嫌いなものないの。 |
綾戸 |
もう、ぜったいダメ。 |
糸井 |
一方が犯罪者で相手がそのつもりじゃないって
もう一緒にいちゃいけないよね。 |
綾戸 |
ぜったいダメ。ダメ。
心があるものだから。 |
糸井 |
それをステージでやってるわけだ。
それに近いことを。 |
綾戸 |
そうっ!
ワタシはいつもそういうつもりで
ステージをやってる。 |
糸井 |
綾戸さんがよくステージで
顔むちゃくちゃにして唄いますってなこと言うじゃない?
あのむちゃくちゃってできないんだよね。 |
綾戸 |
ワタシはもうあれでしかできないの、反対に。
いくらふつうに唄おうとしても・・・ |
糸井 |
子どもの頃にはできてたことじゃない? |
綾戸 |
そう。 |
糸井 |
もう、(子どもって)うっれしそうに、
壊れそうに笑うじゃない。 |
綾戸 |
中国の写真みたいに。 |
糸井 |
(笑)そうそうそう。
あのね、俺ね、小学校のとき、
体育の先生が休んだときに
女の先生で普段体育教えない先生が
跳び箱やらせたんだよ。
で、男の子が跳んで、女の子が跳んで。
でも女の子は跳べないの。
そしたら、その先生、女だったんだけど、
「女の子たちーっ!」って急に怒りだしてね、
「男の子たちが跳ぶところを
前から見なさい」って言ったの。
「見てごらん。男の子たちはあんなに変な顔して
跳んでるでしょ」って。
で、女の子が跳び箱跳んでるところは
かわいいって言うのよ。
そんなんで跳べるかって言ったのよ。
俺らそんなことわかりもしないで跳んでたから、
それいつまでも覚えてて。
本気になったときってぐちゃぐちゃになるじゃない。
そのぐちゃぐちゃっていうのが
もういっこの世界なんだよね。 |
|
綾戸 |
ワタシね、あるプレイヤーと一緒にやったときに、
その人がいつもカメラ目線でね。
それがプロだと思ってたの。
私より芸歴がちょっと長いだけで、
さすがだなあって。
ワタシは顔を歪めながら必死に唄うのに、
その人はさすがだなあって、
一緒にステージ踏んだとき思ったの。
でもねえ、最後までワタシには心を開かないの、その人。
で、いっぺん開かしてやろうと思ってさ、
男の話とかしたの。
ちょうど彼氏ができるところだったから。
エッチできなくてどうのこうのって話、
いっぱいしたの。
まんま自分さらけ出して。
でもその人はかかってこないの。
そんで、あっ無理かなーって、
この線でお付き合いしようって決めたの。
嫌いになっちゃダメじゃない、それで。
こいつ、こんなヤツだって思わない。 |
糸井 |
服着たヤツがよそにいることはかまわないんだ。 |
綾戸 |
うん、かまわないの。
あっワタシもこの線でお付き合いしないと
ジャマになるなって。
同じ同業者だから、
ある程度量らないとねって思ったの。
で、これ以上ワタシがさらけ出すと皮肉になるな、
反対に嫌味になっちゃう。 |
糸井 |
どっちがいいかになっちゃうよね。 |
綾戸 |
だから、同じようにするには
このくらいの気持ちで、
なるべくアバウトにしとかないと。
入りすぎると思われたりすると困る。 |
糸井 |
綾戸さんはさ、捨て身にというか、
裸になる以外の衣装持ってませーん、
ていうことだから
それは芸風としてはひとつなんだよねえ。 |
綾戸 |
それをすべてに持っていっちゃダメなんだ。
特に同業者には。 |
糸井 |
そこまでわかって、
裸になるってもっと難しいことだよね。
みんな裸になれっていう人いるじゃない。
やっぱ困るよね。 |
綾戸 |
困る。 |
糸井 |
きっと綾戸さんが客席にむかって
「なんで客席裸になんないんだー」って言ったら、
イヤなヤツだよねえ。 |
綾戸 |
イヤなヤツだよぉ。
(つづく) |