第4回 楽しませてる側の方が奴隷。

綾戸 だから努力するの、いろんなこと言って。
「今日ねえ、得なステージにしたかったら
 みなさんノルとね、綾戸、煙と一緒だから
 飛んじゃうよー。のぼらせてーー」って言うと、
「ワァーーーーっ」って手をたたくの。
そんで、
「ほら得になった。ワタシも得。あなたも得。
 いいね、これって」って言うの。
そうすると、お客さんが
「ワァーーーーっ」って盛り上がる。
(お客さんがやる)ちょっとのことでも掴むの。
たとえば、誰かが上着脱ぐでしょ。
そうすると、
「そうでしょー、暑くなってきたでしょー。
 もう1枚、もう1枚脱ぎなさい」
とかって言うとまわりがゆるくなるの(笑)。
糸井 ああ。やってる、やってる。
結局さ、楽しませてる側の方が奴隷なんだよね。
綾戸 奴隷なのよぉ。
糸井 この間、スペクタクル映画を見に行ったの、試写会で。
コロシアムの格闘の戦士の物語なんだけど、
要するに、当時って殺すまでやるのよ。
で、強いヤツが奴隷から市民になるわけ。
それ(格闘戦士)と、
今の芸人さんがやってたり
ぼくらが表現してりすることって
すっごく近いじゃない。
綾戸 近ーい!
糸井 で、こっちの体調次第で
今日はパンツ1枚はいていこうかなあとか
ブラジャーはつけとこうかなあとか。
綾戸 あります!
今日はもうすっぽんぽん、骨まで。
あるっ。
糸井 もうなめてもいいよ、みたいな。
綾戸 うわー、あるっ!
だからステージ決まんないの。
お客さん入らないと。
糸井 そっかー。
綾戸 ある程度決めてるんだけど、
お客さんの反応見て変えるか、
今日は年寄りが多いから古い歌とか
そんなレベルじゃないの、言ってることは。
糸井 そんとき作るもんなんだよね。
客が決めてんのかぁ。
綾戸 そう! ぜったいに。
だからね、シリアスにしゃべってるときに
遅れて入ってくる人がいたら、
ありがたく使うのよ。
「なんでアタシより目立つ入場するのっ?」
とか言うと、みんな見るの。
「その遅れてくるワザ、いただきます、今度」
とか言って、前の方に座ったりしたら、
「ましてや一番前だったの? 完璧じゃーん。」
とか言うのよね(笑)。
そしたら、遅れて来るお客さんも楽しいし、
周りの人も楽しいし。
糸井 もう奴隷の最大のサービスだよね(笑)。
わかるわー。
綾戸 客席でおしゃべりがチョロチョロっと聞こえてくると、
「なに、なに?」
とか聞きにいったりしてね。
糸井 それってさ、教育のシステムについて
前にちょっと読んだことがあってさ。
先生は生徒の奴隷なのよ。
で、生徒が「わっかりませーん。」って言ったら
おしまいなんだよね、先生って。
綾戸 そう。おしまいなの。
糸井 100人いようが、1000人いようが、
「わっかりませーん」って全員が言ったら、
先生は宙に浮いちゃうだけなんだよ。
綾戸 そうっ。
糸井 で、それをごまかすために教壇があって高くしたり、
あるいは先生が立ってなさいって言ったりして
奴隷の側にちょっと理由をあげるわけ。
綾戸 そうっ。
糸井 それって、お客さんとミュージシャンの関係も同じだよね。
綾戸 そうっ。
似てるっていうよりおんなじだよ。
“先に生まれる”なんて書いちゃってさ、
“生まれて徒然する”なんて書いたりしてさー、
立場を作っちゃったりして、
ワタシはねえ、ほんとにそれを感じる。
でもねえ、それをわかった上で、
最後に帰るときに
お互い「ありがとう」って言わなきゃ
ダメなんだと思うの。
終ったときに、お互いに
「ありがとう」って言って帰れるの。
糸井 格闘場から。
綾戸 そしてまた、バトルするの。
そしてまた、終ったら、
「ありがとうー」って、お互いに。
糸井 命減るなあ。
綾戸 命減るよー。
糸井 あぁー。減るねえー。
綾戸 だから、むかーし言ったことあるんだけど、
あの『鶴の恩返し』の鶴だって。
(羽を)抜いてるんだって、あるところで。
でもそれをだして、「苦節です」って言うと、
終っちゃうから。
糸井 またさー、抜けば抜くほど生えてくるんだ、これが。
綾戸 そうなのよー。
それを知ってるのよ、ほんとは。
糸井 循環なんだよねー。
抜かないと生えてこないんだよねえ。
綾戸 そうっ。
生えてこないの。
腐ったのがずっと残ってるわけ。
で、いつも偶然(生えてる)って言うの。
でも春になると偶然桜が咲くんじゃなく、
太陽が光らなかったら桜は咲かないの。
だから、みんな努力してんの。
偶然をちゃんとするためにね。
で、語録の中に
“偶然を必然にする”なんて
ワタシはいつも言うんだけど。
今度の『Get in to my life』っていう
自分のオリジナル曲もそれなの。
糸井 おっ。ついにオリジナル曲が!
綾戸 うん。作ったの。

(つづく)

2000-06-23-FRI

BACK
戻る