第5回 42年分が一気に返ってきた1日

糸井 おっ。ついにオリジナル曲が!
綾戸 うん。作ったの。
糸井 作れるようになったんだ!
前に、オリジナル曲はヤダって言ってたじゃない。
綾戸 そう。初めて作って。
どうしてもコマーシャルで作ってって言われてたんだけど、
作る気分になるような題材が現われたの。
イサが。
質問されたの、子どもに。
その質問に答えたの。
糸井 どういうことなの?
綾戸 質問の答えを歌詞にしてみたの。
いや、文に書いたら、歌詞になったの。偶然ね。
イサがワタシにね、
「ママ、ぼくはどうしてママの子どもなの?」
って訊いたの。それでね、
口からでまかせに「神様が決めたの」って言ったの。
そしたら、
「神様はどういう意志でママの子どもにしたの」
って言うから、
「あー、……一日待って」って言って考えまくったの。
次の日にね、
「あのね、イサくんね、ママね、いろいろあったの。
 生まれて、笑うことも、泣くことも、
 くそーって思ったりすることも、大笑いすることも
 いっぱいあったの。で、離婚もしたしね、
 その前にイヤなボーイフレンドとくっついたり、
 離れたりもしたしね、いろいろあった。
 でもね、一応ね、できないなりにも
 やめないで前を向いてきたの。
 後悔はしたけど、次へのステップとして
 後悔もしてきたの。
 で、やめるっていうことは、
 イコール自殺かもしれないけど、
 やめないで一応やったの。
 やり遂げたかどうかわかんないんだけど、
 とにかくやめなかった」
糸井 “やめなかった”!
“やめなかった”って英語でなんていうの?
綾戸 “carry on”
糸井 “carry on”ってそういうことなの。
よく言うよねえ。
綾戸 “carry on=持って動く、やめない”。
で、歩いたの。
“carry on and on and on and on・・・・”でね。
それでこう言ったの。
「歩いたら、偶然アンタ(イサ)に会ったの。
 やめなかったから、アンタに会えたの。
 やめたら会えなかったの。
 やめなかったら会えたから、
 ちゃんと桜の花が咲くように
 親をしようと思って、今もやめないの」
そうしたらイサが
「じゃあぼくもママに会えたから、
 今度は誰かに会えるようにやめないで生きる」
って言ったの。それでワタシ、
「何があってもやめないでね。
 いろいろあるけど。
 いいことあったり、悪いことあったりするけど
 やめないでね。
 イジメられたりしても、やめないでね。
 泣いてもいいから。
 イジメてしまったら『いじめたっ』って言えばいいから。
 やっちゃったことはしかたないから。
 でも、ちゃんとやめないで生きてね」って。
糸井 そのこと考えたのってさ、
表面的にはたった1日じゃない?
でもその1日って、
やめなかったものすごい長さが返ってきた1日だよねえ。
綾戸 42年分が一気に返ってきた1日だった。
で、それをメロディーにして。
“I met you automatically so natural so
super so superly I carry on, carry on”って書いて。
糸井 ただ言ってるだけなんだけど、
それ見つかるのはなかなか時間かかるんだよね。
綾戸 そう。時間かかった。
糸井 ねえ。
綾戸 そしたらメロディはね、
ひょこひょこひょこーってきたの。
で、そのメロディがまた単純なこと。
ほんとにジャズなの? って言いたいくらい、
♪ドレミレミレミドドレドレドレ・・・・
ってね、玉が転ぶようにメロディが出たの。
玉を持ったまま、グルグルグルグル。
それこそ、もんじゃ焼きを焼いているような感じで
出てきたの。
で、唄ってみたら、すごくウケて、どこでも。
今度シングルカットするんだけど。
糸井 いやあ、聞きたいなあ。
綾戸 今度コマーシャルで出るよ。ヤクルトさんが
『Amazing Grace』の次にそれを選んだんだけどね、
みんな「いい、いい」ってものすごい喜んでくれて。
でね、ワタシ、作曲、オリジナルっていうことが
やっとわかってきたの。
ずっと人の歌を唄って、
人の話を聴いてきたわけよね。
糸井 耳ばっか育ってきて・・・
綾戸 やっと言えたのね、音で。
じゃああなたの言葉、
ワタシならこう言いますよーって言って
ずっとやってきたのね。
やっと自分の意見、何にもないところに、
こんなのできちゃったんです、って。
で、誰かまたその曲を違う言い方で
歌ってくれたらいいなあ、
って、今はね、思ってる。
糸井 いやあ、これはもしかしたら
曲がバンバン生まれる可能性さえあるね。
綾戸 うん。
もう今ねえ、2曲ほどまたできてるの。
糸井 そうだよねえ、1回できちゃったらね。
オレさー、(よみうりランドに)来ながら、
外の景色見てて思ったんだけど、
都会で見るのと違う気分になるじゃない。
季節がパーンパーンって変わるじゃない。
変わる前に、物事って、
みんなガマンしてるんだなあ、って思って。
綾戸 そうなのよー。
もう下で待ってんのよー。
糸井 何かが変わったときには、
変わってるのしか見えないけど、
長いことガマンしてたんだなあって。
夏の寸前に「なつーーーっ!」って
爆発するみたいな瞬間があるでしょう。
夏になりたい! みたいな。
たまってるんだよなあ、いつもなあ。
綾戸 たまってるの。

(つづく)

2000-06-25-SUN

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