糸井 |
おっ。ついにオリジナル曲が! |
綾戸 |
うん。作ったの。 |
糸井 |
作れるようになったんだ!
前に、オリジナル曲はヤダって言ってたじゃない。 |
綾戸 |
そう。初めて作って。
どうしてもコマーシャルで作ってって言われてたんだけど、
作る気分になるような題材が現われたの。
イサが。
質問されたの、子どもに。
その質問に答えたの。 |
糸井 |
どういうことなの? |
綾戸 |
質問の答えを歌詞にしてみたの。
いや、文に書いたら、歌詞になったの。偶然ね。
イサがワタシにね、
「ママ、ぼくはどうしてママの子どもなの?」
って訊いたの。それでね、
口からでまかせに「神様が決めたの」って言ったの。
そしたら、
「神様はどういう意志でママの子どもにしたの」
って言うから、
「あー、……一日待って」って言って考えまくったの。
次の日にね、
「あのね、イサくんね、ママね、いろいろあったの。
生まれて、笑うことも、泣くことも、
くそーって思ったりすることも、大笑いすることも
いっぱいあったの。で、離婚もしたしね、
その前にイヤなボーイフレンドとくっついたり、
離れたりもしたしね、いろいろあった。
でもね、一応ね、できないなりにも
やめないで前を向いてきたの。
後悔はしたけど、次へのステップとして
後悔もしてきたの。
で、やめるっていうことは、
イコール自殺かもしれないけど、
やめないで一応やったの。
やり遂げたかどうかわかんないんだけど、
とにかくやめなかった」 |
糸井 |
“やめなかった”!
“やめなかった”って英語でなんていうの? |
綾戸 |
“carry on” |
糸井 |
“carry on”ってそういうことなの。
よく言うよねえ。 |
綾戸 |
“carry on=持って動く、やめない”。
で、歩いたの。
“carry on and on and on and on・・・・”でね。
それでこう言ったの。
「歩いたら、偶然アンタ(イサ)に会ったの。
やめなかったから、アンタに会えたの。
やめたら会えなかったの。
やめなかったら会えたから、
ちゃんと桜の花が咲くように
親をしようと思って、今もやめないの」
そうしたらイサが
「じゃあぼくもママに会えたから、
今度は誰かに会えるようにやめないで生きる」
って言ったの。それでワタシ、
「何があってもやめないでね。
いろいろあるけど。
いいことあったり、悪いことあったりするけど
やめないでね。
イジメられたりしても、やめないでね。
泣いてもいいから。
イジメてしまったら『いじめたっ』って言えばいいから。
やっちゃったことはしかたないから。
でも、ちゃんとやめないで生きてね」って。 |
糸井 |
そのこと考えたのってさ、
表面的にはたった1日じゃない?
でもその1日って、
やめなかったものすごい長さが返ってきた1日だよねえ。 |
綾戸 |
42年分が一気に返ってきた1日だった。
で、それをメロディーにして。
“I met you automatically so natural so
super so superly I carry on, carry on”って書いて。 |
糸井 |
ただ言ってるだけなんだけど、
それ見つかるのはなかなか時間かかるんだよね。 |
綾戸 |
そう。時間かかった。 |
糸井 |
ねえ。 |
|
綾戸 |
そしたらメロディはね、
ひょこひょこひょこーってきたの。
で、そのメロディがまた単純なこと。
ほんとにジャズなの? って言いたいくらい、
♪ドレミレミレミドドレドレドレ・・・・
ってね、玉が転ぶようにメロディが出たの。
玉を持ったまま、グルグルグルグル。
それこそ、もんじゃ焼きを焼いているような感じで
出てきたの。
で、唄ってみたら、すごくウケて、どこでも。
今度シングルカットするんだけど。 |
糸井 |
いやあ、聞きたいなあ。 |
綾戸 |
今度コマーシャルで出るよ。ヤクルトさんが
『Amazing Grace』の次にそれを選んだんだけどね、
みんな「いい、いい」ってものすごい喜んでくれて。
でね、ワタシ、作曲、オリジナルっていうことが
やっとわかってきたの。
ずっと人の歌を唄って、
人の話を聴いてきたわけよね。 |
糸井 |
耳ばっか育ってきて・・・ |
綾戸 |
やっと言えたのね、音で。
じゃああなたの言葉、
ワタシならこう言いますよーって言って
ずっとやってきたのね。
やっと自分の意見、何にもないところに、
こんなのできちゃったんです、って。
で、誰かまたその曲を違う言い方で
歌ってくれたらいいなあ、
って、今はね、思ってる。 |
糸井 |
いやあ、これはもしかしたら
曲がバンバン生まれる可能性さえあるね。 |
綾戸 |
うん。
もう今ねえ、2曲ほどまたできてるの。 |
糸井 |
そうだよねえ、1回できちゃったらね。
オレさー、(よみうりランドに)来ながら、
外の景色見てて思ったんだけど、
都会で見るのと違う気分になるじゃない。
季節がパーンパーンって変わるじゃない。
変わる前に、物事って、
みんなガマンしてるんだなあ、って思って。 |
綾戸 |
そうなのよー。
もう下で待ってんのよー。 |
糸井 |
何かが変わったときには、
変わってるのしか見えないけど、
長いことガマンしてたんだなあって。
夏の寸前に「なつーーーっ!」って
爆発するみたいな瞬間があるでしょう。
夏になりたい! みたいな。
たまってるんだよなあ、いつもなあ。 |
綾戸 |
たまってるの。
(つづく) |