綾戸 |
たまってるの。
このよみうりランドのホールでのライブ、
『マトリックス』を見て思ったの。 |
糸井 |
(笑)なんで『マトリックス』なの?(笑) |
綾戸 |
ワタシ、『マトリックス』に
ものすごく感じるの、人生を。
よく似てるの、ワタシの言ってることとか
聞いたことに。
自分が救世主かどうかを確かめるために
主人公が占い師のところに行くシーンがあるでしょう。
すると占い師が、
「あんたじゃないかも」
みたいなこと言うのよ。
で、主人公は「オレじゃない」って思うのよ。
でも、道は歩かないと、とも思うのよ。
オレじゃないからやめるんだ、じゃなくて、
答えを聞いたからってやめることはしないの。
ワタシ、答えのわかってること、するの嫌いなのね。
ある人がギャラのことを言ったのよ。
「綾戸さんて、社長さんからきいたんですけど、
今までギャラを聞いたことがないって
ほんとうですか」
「あっそうだ、思えば、聞いたことない」って言ったら、
「なんで聞いたことないんですか」って言うの。
「ワタシの場合、ギャラは点数とおんなじで、
こんだけのお給料です、ってもらうわけ。
だから歌わないといくらかわかんないの」
「もし安かったらどうするんですか」
「安いわねって言う」
「高かったらどうするんですか」
「こんなにもらっていいの、って言う。
でも音楽の判断は会社がするだろうから、
会社のくれるお金には文句言ったことはない」って。
誰もテストをする前に点数聞かないでしょう。
後から、点数くるでしょう。
ワタシの給料、点数だから。 |
糸井 |
あとなんだよねえ。 |
綾戸 |
うん。
あとにくるの。
で、「だいたいうれしいことに、
ちょっとずつ上がってる、
だからいい点数取れてるんじゃないのー」って言ったら、
「すごいですねえ、その考え」って言うから、
「いや、すごくないのよ」って。 |
糸井 |
ほんとはそうだったんだよ、みんな。 |
綾戸 |
ワタシそう思ってんの。
点数だから、点数はあとからくる。
先に試験をやんの。
「今度30点です」
「じゃあ、30点分正解すればいいんですね」
ってこと、ないでしょう?
今度100点ですからがんばってくださいなんて。 |
糸井 |
点とるためだけに歌うようになっちゃうよね。 |
綾戸 |
そう。
ワタシは歌って点いくらかな、で歌ってる。 |
糸井 |
ぼくらが子どもの頃って、
“点取り虫”って軽べつの言葉だったじゃない。
でも、今って点取り虫ばっかになっちゃったねえ。
点じゃねえだろう、元は。 |
綾戸 |
そう、点じゃない。
だから、それが『マトリックス』よ。
「お前は救世主か?」って言われたらするのか。 |
糸井 |
あそこが一番面白かった。 |
綾戸 |
あそこで言わないあのおばさん(占い師)サイコー。
でもあのおばさんは
「あんたが何だか知っているから、
あんたのために命懸けるよ」って言うのね。
優しくなれたらあんたは救世主になれる、
救世主なんだけど、優しくなれなかったら
救世主になれない、って言ったあの意味。
頂点じゃなく過程のこと。
だからワタシもいつもビッグになれるとか
なれないとかじゃなく、
ファンレターとかで、
どうやったら綾戸さんみたいに
ビッグになれるんですか?
とか聞かれるけど、ワタシ、わかんない。
でも変なこと書くと、その子かわいそうじゃない。
だから書かないんだけどね。
「常に信じて」とも書かない。
今日はどうかなあ、って思いながらずっと来て、
気づいたらここにいたから、
あなたもそうしてみたらって。 |
糸井 |
夢は叶うじゃなくて、
夢はある!
「ある」だけ。“carry on”。 |
|
綾戸 |
己を知るの。
どんくらいできるか、ってことを
知りながら、する。
どのくらいできるか、をわかりながらじゃなく、
理解じゃなく。
理解は断念につながるから、ダメ。 |
糸井 |
理解、流行ってるもんなあ。 |
綾戸 |
理解するとやめちゃうから。
そうじゃなく、己を知る。
できる、できるということを知る。 |
糸井 |
ああ、できたあ、とかね。 |
綾戸 |
そう知るをできればね、
knowじゃなく、believeのknowをやればね、
知っていけるの。
だから、ワタシは暗示っていうのを自分にかける。 |
糸井 |
やめない理由なのね。 |
綾戸 |
やめない。
気力っていうのかな、
それができる限りは、やっていくんだろうねえ。
でも、もうそれがなくなったら
やめるなあ、って自分で思ってる。
だから、お客さんの前で
なるべくさらけ出して、いただいて、
さらけ出して、いただいて。
スレスレがんばろうと。
常に人を喜ばせよう、なんて
そんなおこがましいことは言わない。 |
糸井 |
綾戸さんのステージってさ、
喜んでるって言葉があってるかどうかも
わかんなくなってるような何かになってるよね。
何なんだろう、何しにくるんだろうと思うよね。
だってひどいところに連れて行かれるじゃないですか、
下手したら。
「オレ、こんなところまで思い出すんじゃなかった」
みたいなところまで。
それもう楽しみって言葉で言えないような
域に達してるよね。 |
綾戸 |
もう言えないよー。
だってアンケートにただね、
「歯痛が治った」とかね。 |
糸井 |
(爆笑)。 |
綾戸 |
治ったっていうか、忘れたんだろうねえ、歯痛を。
もう、ワタシどうしようかと思ってね、
それをコンサートホールで言って、
「あのねえ、歯痛が治ったんだって。
ワタシ職業がえしようかしら。
それやると、また人生誤るね。」
とか言うんだけど、後ろの方で、
「綾戸さーん、わたしも治ったー」
って言うお客さんもいる(笑)。 |
糸井 |
女子バレーの選手が、生理の日が
一緒になるようなもんだ。 |
綾戸 |
(笑)そうそうそうそう。
(つづく) |