第6回 今日はどうかなあ、って思いながらずっと来て、

綾戸 たまってるの。
このよみうりランドのホールでのライブ、
『マトリックス』を見て思ったの。
糸井 (笑)なんで『マトリックス』なの?(笑)
綾戸 ワタシ、『マトリックス』に
ものすごく感じるの、人生を。
よく似てるの、ワタシの言ってることとか
聞いたことに。
自分が救世主かどうかを確かめるために
主人公が占い師のところに行くシーンがあるでしょう。
すると占い師が、
「あんたじゃないかも」
みたいなこと言うのよ。
で、主人公は「オレじゃない」って思うのよ。
でも、道は歩かないと、とも思うのよ。
オレじゃないからやめるんだ、じゃなくて、
答えを聞いたからってやめることはしないの。
ワタシ、答えのわかってること、するの嫌いなのね。
ある人がギャラのことを言ったのよ。
「綾戸さんて、社長さんからきいたんですけど、
 今までギャラを聞いたことがないって
 ほんとうですか」
「あっそうだ、思えば、聞いたことない」って言ったら、
「なんで聞いたことないんですか」って言うの。
「ワタシの場合、ギャラは点数とおんなじで、
 こんだけのお給料です、ってもらうわけ。
 だから歌わないといくらかわかんないの」
「もし安かったらどうするんですか」
「安いわねって言う」
「高かったらどうするんですか」
「こんなにもらっていいの、って言う。
 でも音楽の判断は会社がするだろうから、
 会社のくれるお金には文句言ったことはない」って。
誰もテストをする前に点数聞かないでしょう。
後から、点数くるでしょう。
ワタシの給料、点数だから。
糸井 あとなんだよねえ。
綾戸 うん。
あとにくるの。
で、「だいたいうれしいことに、
ちょっとずつ上がってる、
だからいい点数取れてるんじゃないのー」って言ったら、
「すごいですねえ、その考え」って言うから、
「いや、すごくないのよ」って。
糸井 ほんとはそうだったんだよ、みんな。
綾戸 ワタシそう思ってんの。
点数だから、点数はあとからくる。
先に試験をやんの。
「今度30点です」
「じゃあ、30点分正解すればいいんですね」
ってこと、ないでしょう?
今度100点ですからがんばってくださいなんて。
糸井 点とるためだけに歌うようになっちゃうよね。
綾戸 そう。
ワタシは歌って点いくらかな、で歌ってる。
糸井 ぼくらが子どもの頃って、
“点取り虫”って軽べつの言葉だったじゃない。
でも、今って点取り虫ばっかになっちゃったねえ。
点じゃねえだろう、元は。
綾戸 そう、点じゃない。
だから、それが『マトリックス』よ。
「お前は救世主か?」って言われたらするのか。
糸井 あそこが一番面白かった。
綾戸 あそこで言わないあのおばさん(占い師)サイコー。
でもあのおばさんは
「あんたが何だか知っているから、
 あんたのために命懸けるよ」って言うのね。
優しくなれたらあんたは救世主になれる、
救世主なんだけど、優しくなれなかったら
救世主になれない、って言ったあの意味。
頂点じゃなく過程のこと。
だからワタシもいつもビッグになれるとか
なれないとかじゃなく、
ファンレターとかで、
どうやったら綾戸さんみたいに
ビッグになれるんですか?
とか聞かれるけど、ワタシ、わかんない。
でも変なこと書くと、その子かわいそうじゃない。
だから書かないんだけどね。
「常に信じて」とも書かない。
今日はどうかなあ、って思いながらずっと来て、
気づいたらここにいたから、
あなたもそうしてみたらって。
糸井 夢は叶うじゃなくて、
夢はある!
「ある」だけ。“carry on”。
綾戸 己を知るの。
どんくらいできるか、ってことを
知りながら、する。
どのくらいできるか、をわかりながらじゃなく、
理解じゃなく。
理解は断念につながるから、ダメ。
糸井 理解、流行ってるもんなあ。
綾戸 理解するとやめちゃうから。
そうじゃなく、己を知る。
できる、できるということを知る。
糸井 ああ、できたあ、とかね。
綾戸 そう知るをできればね、
knowじゃなく、believeのknowをやればね、
知っていけるの。
だから、ワタシは暗示っていうのを自分にかける。
糸井 やめない理由なのね。
綾戸 やめない。
気力っていうのかな、
それができる限りは、やっていくんだろうねえ。
でも、もうそれがなくなったら
やめるなあ、って自分で思ってる。
だから、お客さんの前で
なるべくさらけ出して、いただいて、
さらけ出して、いただいて。
スレスレがんばろうと。
常に人を喜ばせよう、なんて
そんなおこがましいことは言わない。
糸井 綾戸さんのステージってさ、
喜んでるって言葉があってるかどうかも
わかんなくなってるような何かになってるよね。
何なんだろう、何しにくるんだろうと思うよね。
だってひどいところに連れて行かれるじゃないですか、
下手したら。
「オレ、こんなところまで思い出すんじゃなかった」
みたいなところまで。
それもう楽しみって言葉で言えないような
域に達してるよね。
綾戸 もう言えないよー。
だってアンケートにただね、
「歯痛が治った」とかね。
糸井 (爆笑)。
綾戸 治ったっていうか、忘れたんだろうねえ、歯痛を。
もう、ワタシどうしようかと思ってね、
それをコンサートホールで言って、
「あのねえ、歯痛が治ったんだって。
 ワタシ職業がえしようかしら。
 それやると、また人生誤るね。」
とか言うんだけど、後ろの方で、
「綾戸さーん、わたしも治ったー」
って言うお客さんもいる(笑)。
糸井 女子バレーの選手が、生理の日が
一緒になるようなもんだ。
綾戸 (笑)そうそうそうそう。

(つづく)


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2000-06-25-SUN

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