第7回 昨日までの経験を全部使ってる。


糸井 要するに、動物としてボディが反応しちゃうんだね。
綾戸 だから、頭で思って、
頭の映像で死ぬと、体が死ぬのよ。
『マトリックス』って誰が書いたの? って。
早く動こうとすると、動けるって知れ。
歌えるって知れ。
っていつも自分に言ってる、ワタシ。
そして、心がつぎでひっくり返るぞーって思ったら
歌詞忘れるぞ、って。
出る出る出る出る・・・どうしよう出るぞ、
って思えば出るぞ、と。
糸井 長さは決まってないからね。
いっくらでも出るんだよね。
綾戸 で、マンガなの、ワタシ出てるとき。
いくらでも玉がよけられる。
玉をプッと持つの。
で持った玉を手のひらでばらばらばらーって
玉を落とすの(笑)。
音楽の世界はそれをやらせてくれるの。
糸井 うん。見えないもんだからねえ。
綾戸 見えないから。
糸井 いいよねえ。
みんな違うこと考えながら、
同じような気持ちになってるんだよねえ。
綾戸 だから毎日ためされてるなあって思うの。
糸井 このしゃべりがもう歌みたいになってるから。
綾戸 なってる、なってる。
糸井 もう歌になっちゃう人なんだなあ。
綾戸 音楽でしか物事表現できないタイプだから。
だから、(NHKの)『課外授業』やっても、
じゃあどっかの教育委員会から
話に来てって言われても、行かないの。
糸井 それは違うもんね。
教育をしてるわけじゃないもんね。
綾戸 教育じゃないもん。
自分の思ってる音楽を露出しただけだもん。
たまたまそれが教育者にピンときてくれた、
じゃあ、アンタ教育でしなさいよ。
ワタシの音楽をあなたの体をとおして
教育で流しなさいよって。
ワタシは音楽しかしないから。
糸井 なんかさー、使うために作った道具じゃなくて
それ自体を楽しむものだから、
そこの違いわかりたいよねえ。
綾戸 そうなんです。違うの。
わかってほしい。
糸井 この歌を何に使うんじゃない、
歌そのものが目的なんだ、と。
綾戸 だからあの番組の中で、
ワタシは『Let it be』をやったけど、
最初に試した、『翼をください』を
もう一度最後にやったの。
『Let it be』ではなく、
翼が変わったってことを聞いて欲しかった。
ワタシが教えた曲じゃない。
課題じゃない。
だからもしお稽古で
『You'd be so nice』でジャズを教えて、
『You'd be so nice』が上手くなるんじゃない。
『You'd be so nice』を使って、
自分の中のジャズ感が大きくなってくれれば
いつかは先生がいらなくなる。
先生が一生いるっていうのはおかしい。
糸井 答えが出てるってことだからね。
綾戸 そう。
1枚ずつページをめくっていくのは人生で、
教えではない、と思っているから。
糸井 昨日もそんな話をしてたんだけど、
大学の先生と話してて、
レポートのマシなのが集まることって
なんの意味もない。
マシなものっていうのは、要するに
熟練工を育てる時代にはよかったけど、
今に熟練工はロボットがやる時代になるんだから、
ロボットのやることはやめようよ、と。
ロボットをどう作るか、どう使うか、
で、自分は(ロボットが)作れないものを作ろうよ、と。
っていうのが欲しいんだけど、
学校が全部、マシなレポートを
みんなが出せるようになったのが成功じゃないですか。
あれで不自由してるよなあ。
綾戸 (不自由に)なってる。
メシ食わせれば、いやでも大きくなるじゃない。
そんなことに教育を入れるんじゃなく、
メシ食わせても大きくならないものってあるでしょ。
そこを大きくしないとね。
練習で上手くなるんじゃなく、
音楽のおかげで大きくなるものがあるの。
技術は毎日やれば誰でも上手くなる。
糸井 それをコンセプショナリーに現代音楽でやるんじゃなく
歌唱でやるっていうのはなかなか大変だよね。
コンセプショナルアートにいって無音でとか言って、
表現しようとすると、
ついてこれなくなっちゃう人が
たくさん出てくるじゃない。
それじゃあダメなんだよね。
綾戸 ダメ。
だから、やっぱり何人かを落としちゃうのは
しょうがないの。
でもその落とした人を助けられる人が
また出てくるから。
糸井 一番その溝さらいのようなことを
綾戸智絵はやってるのか。
綾戸 やってるの。
一番キタナイところやってるの。
糸井 投網でいうと、一番目の細かいヤツで。
綾戸 そうっ。
糸井 ていねいにしなきゃなんないし(笑)、
裸だしー。
綾戸 そうっ。
だからなりふりかまえないの。
糸井 そうだよねえ。
このよみうりランドでやるじゃない?
1万人ですか?
その数っていうので、
また違うものが見えてくるよね。
綾戸 あるね。
ここで見ても、
昨日とは違うステージがまたあるでしょ。
で、これって昨日までのことを
全部使ってやるわけですよね。
だから、同じ場所でも
また来年やると違うし。
昨日までが、みんな食材だから。
使える食材だから。

(つづく)


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2000-06-29-THU

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