糸井 |
要するに、動物としてボディが反応しちゃうんだね。 |
綾戸 |
だから、頭で思って、
頭の映像で死ぬと、体が死ぬのよ。
『マトリックス』って誰が書いたの? って。
早く動こうとすると、動けるって知れ。
歌えるって知れ。
っていつも自分に言ってる、ワタシ。
そして、心がつぎでひっくり返るぞーって思ったら
歌詞忘れるぞ、って。
出る出る出る出る・・・どうしよう出るぞ、
って思えば出るぞ、と。 |
糸井 |
長さは決まってないからね。
いっくらでも出るんだよね。 |
綾戸 |
で、マンガなの、ワタシ出てるとき。
いくらでも玉がよけられる。
玉をプッと持つの。
で持った玉を手のひらでばらばらばらーって
玉を落とすの(笑)。
音楽の世界はそれをやらせてくれるの。 |
糸井 |
うん。見えないもんだからねえ。 |
綾戸 |
見えないから。 |
糸井 |
いいよねえ。
みんな違うこと考えながら、
同じような気持ちになってるんだよねえ。 |
綾戸 |
だから毎日ためされてるなあって思うの。 |
糸井 |
このしゃべりがもう歌みたいになってるから。 |
綾戸 |
なってる、なってる。 |
糸井 |
もう歌になっちゃう人なんだなあ。 |
綾戸 |
音楽でしか物事表現できないタイプだから。
だから、(NHKの)『課外授業』やっても、
じゃあどっかの教育委員会から
話に来てって言われても、行かないの。 |
糸井 |
それは違うもんね。
教育をしてるわけじゃないもんね。 |
綾戸 |
教育じゃないもん。
自分の思ってる音楽を露出しただけだもん。
たまたまそれが教育者にピンときてくれた、
じゃあ、アンタ教育でしなさいよ。
ワタシの音楽をあなたの体をとおして
教育で流しなさいよって。
ワタシは音楽しかしないから。 |
糸井 |
なんかさー、使うために作った道具じゃなくて
それ自体を楽しむものだから、
そこの違いわかりたいよねえ。 |
綾戸 |
そうなんです。違うの。
わかってほしい。 |
糸井 |
この歌を何に使うんじゃない、
歌そのものが目的なんだ、と。 |
綾戸 |
だからあの番組の中で、
ワタシは『Let it be』をやったけど、
最初に試した、『翼をください』を
もう一度最後にやったの。
『Let it be』ではなく、
翼が変わったってことを聞いて欲しかった。
ワタシが教えた曲じゃない。
課題じゃない。
だからもしお稽古で
『You'd be so nice』でジャズを教えて、
『You'd be so nice』が上手くなるんじゃない。
『You'd be so nice』を使って、
自分の中のジャズ感が大きくなってくれれば
いつかは先生がいらなくなる。
先生が一生いるっていうのはおかしい。 |
糸井 |
答えが出てるってことだからね。 |
|
綾戸 |
そう。
1枚ずつページをめくっていくのは人生で、
教えではない、と思っているから。 |
糸井 |
昨日もそんな話をしてたんだけど、
大学の先生と話してて、
レポートのマシなのが集まることって
なんの意味もない。
マシなものっていうのは、要するに
熟練工を育てる時代にはよかったけど、
今に熟練工はロボットがやる時代になるんだから、
ロボットのやることはやめようよ、と。
ロボットをどう作るか、どう使うか、
で、自分は(ロボットが)作れないものを作ろうよ、と。
っていうのが欲しいんだけど、
学校が全部、マシなレポートを
みんなが出せるようになったのが成功じゃないですか。
あれで不自由してるよなあ。 |
綾戸 |
(不自由に)なってる。
メシ食わせれば、いやでも大きくなるじゃない。
そんなことに教育を入れるんじゃなく、
メシ食わせても大きくならないものってあるでしょ。
そこを大きくしないとね。
練習で上手くなるんじゃなく、
音楽のおかげで大きくなるものがあるの。
技術は毎日やれば誰でも上手くなる。 |
糸井 |
それをコンセプショナリーに現代音楽でやるんじゃなく
歌唱でやるっていうのはなかなか大変だよね。
コンセプショナルアートにいって無音でとか言って、
表現しようとすると、
ついてこれなくなっちゃう人が
たくさん出てくるじゃない。
それじゃあダメなんだよね。 |
綾戸 |
ダメ。
だから、やっぱり何人かを落としちゃうのは
しょうがないの。
でもその落とした人を助けられる人が
また出てくるから。 |
糸井 |
一番その溝さらいのようなことを
綾戸智絵はやってるのか。 |
綾戸 |
やってるの。
一番キタナイところやってるの。 |
糸井 |
投網でいうと、一番目の細かいヤツで。 |
綾戸 |
そうっ。 |
糸井 |
ていねいにしなきゃなんないし(笑)、
裸だしー。 |
綾戸 |
そうっ。
だからなりふりかまえないの。 |
糸井 |
そうだよねえ。
このよみうりランドでやるじゃない?
1万人ですか?
その数っていうので、
また違うものが見えてくるよね。 |
綾戸 |
あるね。
ここで見ても、
昨日とは違うステージがまたあるでしょ。
で、これって昨日までのことを
全部使ってやるわけですよね。
だから、同じ場所でも
また来年やると違うし。
昨日までが、みんな食材だから。
使える食材だから。
(つづく) |