糸井 |
そのさあ、大勢のコロシアムのようなところでやってて
観客が「殺せー」て言ってるわけだよ。 |
綾戸 |
なーんでそういうこと言うの、糸井さーん。
ワタシおんなじこと言ったのよー。
「歌えー」ってことは「死ねー」って言われてるのよ。
だから家族に見せないの、あんまり。 |
糸井 |
言ってるよねえ。
「もっと死ねー」って言ってるよねえ。
もう1回死んでるのに。 |
綾戸 |
だから母に見せないの、あんまり。
大きい会場で1回ずつ、年に何回か見せるの。
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糸井 |
うん。
ちょっと分散する場所ができる・・・。 |
綾戸 |
アンコールなんて「死ね」よ。 |
糸井 |
「もう1回刺せー」みたいな。 |
綾戸 |
そうっ。
アンコールなんて「死ねーっ」って言ってんの。 |
糸井 |
えれー、酷だよなあ。 |
綾戸 |
だから家族には見せないの。
でもあの冷酷さがないと、人間生きていけない。
練成されないの。
“練”がないと、退化するのよね。 |
糸井 |
その“練”は英語でなんていうの? |
綾戸 |
“練”はねえ、なんだろう?
うーん、“patient”=忍耐強い。 |
糸井 |
ピリピリね。 |
綾戸 |
“patient”がないとね。 |
糸井 |
あの残酷さの中に自分は観客としているわけじゃない?
でもたまたまやってる奴隷を知ってたりすると、
もうアンコールやめろよ、っていう気分にもなるし、
でも聞きたい、あっでもやめよう、とか。
ものすごく観客なりにありますよねえ。
綾戸さんも、人のステージはそうでしょう? |
綾戸 |
“pleasure”。
そう、“my pleasure”よ。 |
糸井 |
ヒュー。 |
綾戸 |
あれがないとダメなの。
トレーニングじゃない、あの“練”は。 |
糸井 |
ぼくはさー、ホームページ毎日やってるじゃない。
2年間ノンストップだったわけよ。
で、それ、今の“練”なんだよ。
オレよく「意地だ」って言ってるんだけど、
「お客さんとどっちが倒れるか、
オレの方が倒れないって言いたいからだ」
って口で言ってるんだけど、
ほんとはそういうことよりも、
それに答え切らないと、
自分じゃないような気がするから、
自分をやめたような気がするから、
で、やめる時はオレが決める。 |
綾戸 |
そうっ。
やめるのはオレが決める、ワタシが決める。 |
糸井 |
休むのはオレが決めるから、
決めてないんだからやってるんだよ。
(綾戸さんが言ってること)わかるなあ、種類違うけど。 |
綾戸 |
自分のコンサートで野外で1万人なんて
こんな大きなコンサート初めてじゃない。
今まで屋根つきで大きくても3000人。 |
糸井 |
手売りではじまった人だからねえ。 |
綾戸 |
そうなのよー。
それが2日もあってねえ。
ワタシは毎回毎回おじさん2人(会社の人)に
「あほんだら、身の程知らず」って言って
やってきたんだけど、
その言葉の後ろには“練”があるからやれると。
もうダメなときはいつでもやめる気でやってる。
これを無責任とは言わないと思う。 |
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糸井 |
この大きい会場(よみうりランド)ってね、
綾戸さんが心配するなって言っても
お客さん入るかなーって心配するのよ。 |
綾戸 |
するよー! |
糸井 |
オレ、自分にはこう思うのよ。
仮に客が6割だったと仮定しよう、
6割を見たときに
自分が想像することってひとつあるわけですよ。
「ああそうか」って思うわけじゃない。
そこまでもうほんとは知ってるんだよ。
だったら、そんときの次のことまであるんだから、
「あっ、なーんだ」って思うの。
つまり、わかってるんだったら、
来年もあるし、再来年もあるし、
やめっこないんだから。
6割だったら来年もやる動機になるよね。 |
綾戸 |
なりますね。 |
糸井 |
で、満杯だったら「よーっし」って思うじゃない。
だから、そこはね、考えても同じなんですよね。
でも、考えることをやめるわけにはいかない。 |
綾戸 |
うん。
これねえ、取り越し苦労っていうの?
好きだわー、ワタシ。 |
糸井 |
これを楽しんでるのかもしれないね。
それが趣味(笑)。 |
綾戸 |
これがあってワタシよかったかもしんない、
取り越し苦労が。
趣味なの。
痛いマスターベーションしてるわけ。
気持ちいいマスターベーションはいいけど、
痛いマスターベーションしてるわけ。 |
糸井 |
やっぱさあ、なんて言うの、
“愛の乞食”だね。 |
綾戸 |
そうっ! |
糸井 |
なんかさー、試してみたい、みたいな。 |
綾戸 |
試してみたいのよー。
ワタシ最初の頃は
「家族づれで来てください」とか言ってたの。
でも、どんどんどんどん意見が変わってくるわけ。
今度はね、
「たくさん入んないと盛り上がらないから来てよっ」
って怒りだしちゃったわけ。
「少なかったら、来てるお客さんに悪いから、
お客さんだったら、お客さんのこと考えて来て」って
言ったことがあるの。
「でないと綾戸唄わないよ」って。
「ほんとは唄えるんだけど、ワタシだって限界あるから。
いっぱいだとすごいよー。
これを得って言うのよ。
たった1枚が、2枚が、3枚が、席を埋めていく。
考えただけでワクワクするわねえ」
ってお客さんに言ったの。
でもあれって一番正直な意見なんですよ。 |
糸井 |
正直な意見。
だってお客さんが連れてきて
いっぱいになってるときの何かって
そこからしか生まれないんだもん。
(つづく) |