第9回 取り越し苦労が趣味。


糸井 そのさあ、大勢のコロシアムのようなところでやってて
観客が「殺せー」て言ってるわけだよ。
綾戸 なーんでそういうこと言うの、糸井さーん。
ワタシおんなじこと言ったのよー。
「歌えー」ってことは「死ねー」って言われてるのよ。
だから家族に見せないの、あんまり。
糸井 言ってるよねえ。
「もっと死ねー」って言ってるよねえ。
もう1回死んでるのに。
綾戸

だから母に見せないの、あんまり。
大きい会場で1回ずつ、年に何回か見せるの。

糸井 うん。
ちょっと分散する場所ができる・・・。
綾戸 アンコールなんて「死ね」よ。
糸井 「もう1回刺せー」みたいな。
綾戸 そうっ。
アンコールなんて「死ねーっ」って言ってんの。
糸井 えれー、酷だよなあ。
綾戸 だから家族には見せないの。
でもあの冷酷さがないと、人間生きていけない。
練成されないの。
“練”がないと、退化するのよね。
糸井 その“練”は英語でなんていうの?
綾戸 “練”はねえ、なんだろう?
うーん、“patient”=忍耐強い。
糸井 ピリピリね。
綾戸 “patient”がないとね。
糸井 あの残酷さの中に自分は観客としているわけじゃない?
でもたまたまやってる奴隷を知ってたりすると、
もうアンコールやめろよ、っていう気分にもなるし、
でも聞きたい、あっでもやめよう、とか。
ものすごく観客なりにありますよねえ。
綾戸さんも、人のステージはそうでしょう?
綾戸 “pleasure”。
そう、“my pleasure”よ。
糸井 ヒュー。
綾戸 あれがないとダメなの。
トレーニングじゃない、あの“練”は。
糸井 ぼくはさー、ホームページ毎日やってるじゃない。
2年間ノンストップだったわけよ。
で、それ、今の“練”なんだよ。
オレよく「意地だ」って言ってるんだけど、
「お客さんとどっちが倒れるか、
 オレの方が倒れないって言いたいからだ」
って口で言ってるんだけど、
ほんとはそういうことよりも、
それに答え切らないと、
自分じゃないような気がするから、
自分をやめたような気がするから、
で、やめる時はオレが決める。
綾戸 そうっ。
やめるのはオレが決める、ワタシが決める。
糸井 休むのはオレが決めるから、
決めてないんだからやってるんだよ。
(綾戸さんが言ってること)わかるなあ、種類違うけど。
綾戸 自分のコンサートで野外で1万人なんて
こんな大きなコンサート初めてじゃない。
今まで屋根つきで大きくても3000人。
糸井 手売りではじまった人だからねえ。
綾戸 そうなのよー。
それが2日もあってねえ。
ワタシは毎回毎回おじさん2人(会社の人)に
「あほんだら、身の程知らず」って言って
やってきたんだけど、
その言葉の後ろには“練”があるからやれると。
もうダメなときはいつでもやめる気でやってる。
これを無責任とは言わないと思う。
糸井 この大きい会場(よみうりランド)ってね、
綾戸さんが心配するなって言っても
お客さん入るかなーって心配するのよ。
綾戸 するよー!
糸井 オレ、自分にはこう思うのよ。
仮に客が6割だったと仮定しよう、
6割を見たときに
自分が想像することってひとつあるわけですよ。
「ああそうか」って思うわけじゃない。
そこまでもうほんとは知ってるんだよ。
だったら、そんときの次のことまであるんだから、
「あっ、なーんだ」って思うの。
つまり、わかってるんだったら、
来年もあるし、再来年もあるし、
やめっこないんだから。
6割だったら来年もやる動機になるよね。
綾戸 なりますね。
糸井 で、満杯だったら「よーっし」って思うじゃない。
だから、そこはね、考えても同じなんですよね。
でも、考えることをやめるわけにはいかない。
綾戸 うん。
これねえ、取り越し苦労っていうの?
好きだわー、ワタシ。
糸井 これを楽しんでるのかもしれないね。
それが趣味(笑)。
綾戸 これがあってワタシよかったかもしんない、
取り越し苦労が。
趣味なの。
痛いマスターベーションしてるわけ。
気持ちいいマスターベーションはいいけど、
痛いマスターベーションしてるわけ。
糸井 やっぱさあ、なんて言うの、
“愛の乞食”だね。
綾戸 そうっ!
糸井 なんかさー、試してみたい、みたいな。
綾戸 試してみたいのよー。
ワタシ最初の頃は
「家族づれで来てください」とか言ってたの。
でも、どんどんどんどん意見が変わってくるわけ。
今度はね、
「たくさん入んないと盛り上がらないから来てよっ」
って怒りだしちゃったわけ。
「少なかったら、来てるお客さんに悪いから、
 お客さんだったら、お客さんのこと考えて来て」って
言ったことがあるの。
「でないと綾戸唄わないよ」って。
「ほんとは唄えるんだけど、ワタシだって限界あるから。
 いっぱいだとすごいよー。
 これを得って言うのよ。
 たった1枚が、2枚が、3枚が、席を埋めていく。
 考えただけでワクワクするわねえ」
ってお客さんに言ったの。
でもあれって一番正直な意見なんですよ。
糸井 正直な意見。
だってお客さんが連れてきて
いっぱいになってるときの何かって
そこからしか生まれないんだもん。

(つづく)


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2000-07-04-TUE

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