綾戸 |
もうねえ、とにかくねえ、いろんなこと言っちゃうのよ。
「今日何人来てるの? 2000人?
そしたらさ、これが5人ずつ連れてくると、
すっごいねえ」とか言うと、
ぎゃーとか笑うの(笑)。
でも正直そう思うの。
お願いしてるの。 |
糸井 |
そうなんだよねえ。
“数”って名前なんだけど、数じゃないのよ。
“場”なんだよねえ。 |
綾戸 |
ワタシも裸になるっ。
がんばりたいっ。
がんばらせてって感じ。 |
糸井 |
綾戸さんのコンサートってさ、
アンコールのときの喜びが違うんだよね。
終わるっていう喜びなんだよね。 |
綾戸 |
ねー。
果てるでしょう。 |
糸井 |
果てる、果てる。 |
綾戸 |
辛いの。
でも、果てるの。
果てると終われる。 |
糸井 |
で、社会人に戻れるんだよねえ(笑)。 |
綾戸 |
そうっ。
休憩室に入って、着替えて、化粧とって・・・ |
糸井 |
さあー、何食うかー(笑)。 |
綾戸 |
さー冷凍カレー食うかー、
解凍しないとな、とかね。
あっ生姜忘れた、とかね(笑)。 |
糸井 |
あの人(ステージの綾戸さん)は誰だろうねえ。
それこそ、神様に
ピックアップされちゃったんだろうねえ。 |
綾戸 |
されたの。
だからやらないと、申し訳ない。 |
糸井 |
そういう意味で言うと、
一見人から見たら、
ろくでもない目に遭っているのも
しょうがないね。 |
綾戸 |
しょうがないの。
ワタシ怒らないの。 |
糸井 |
ろくでもないよねえ、思えば。
みんなよけて通りたいよねえ。 |
綾戸 |
そうっ。 |
糸井 |
メディアの人たちで、「ダメよ」って思うのは、
本人ちっともいいと思ってやってなかったのに、
それをすばらしいって言ったり。
お前やってみろよ、って言いたくなるよねえ(笑)。 |
綾戸 |
勝手に判断されちゃって。 |
糸井 |
「オレは逃げてきたんだ!
なのに、ひょんなことから
向うがつかまえにきたんだ!」
って言いたい(笑)。 |
綾戸 |
そうっ。
偶然をね、必然にしてんの。
なのに、偶然のままで天才って言ったりさー、
偶然、偶然って。 |
糸井 |
冗談じゃないよね。(笑) |
綾戸 |
冗談じゃないっ!!
がんばってんのよ。 |
|
糸井 |
誰が病気になりたい、
誰が離婚したい。(笑) |
綾戸 |
「病気のおかげでここまでこれましたね」
ってなんでおかげなのよー。
あんなイヤなもの。 |
糸井 |
冗談じゃないよね。(笑) |
綾戸 |
そうっ。
でも、それじゃあ過去嫌いなんですか?
って言ったら、そんなことはない。
今ここにいるのは、過去のおかげなんじゃない。
みんな過ぎてこれたから、
こうやって言えるのよ。
carry onしたから、やめなかったから。
かわいそうに、やめなきゃいけなかった人もいる、
死んじゃった人もいる。 |
糸井 |
うん。
だってスポーツ選手だったらダメだもんね。 |
綾戸 |
そうよ。
円谷(幸吉)さんよね。
ワタシ書いたことがあるの。
「円谷さん足切っちゃって
走れないから死んじゃった。
あれはあれでいいの。
“走る”ということが命だったから」 |
糸井 |
自分で決めたんだよね。 |
綾戸 |
決めたの。
ワタシはね、“息子が命だ”って決めたから。
そして、あの子が大きくなって
ワタシも何かになってこう、って決めたから、
歌えなくなっても生きるの。
これはワタシの価値観なの。
円谷さんは円谷さんでいいの。
だからワタシに何も言わないで、
って言ったことがあるの。
「綾戸さん歌が一番じゃなかったんですか?」
って聞かれて、
「あなたは、ワタシが歌が一番だって見えたなら、
それはそれでいいの。
ありがたいわ」と。
でもワタシは唄えなくなっても生きたい。 |
糸井 |
歌は順番じゃないところにあるんだよなあ。 |
綾戸 |
うん。
必要なもののひとつ。
おトイレに行かなかったら辛いのと同じように、
歌も唄いたい。 |
糸井 |
歌を唄えない時間に
歌を唄うことをためこんじゃって生きる、
ってサイクルにもうなっちゃったんだよねえ。 |
綾戸 |
なってる、なってる。 |
糸井 |
もう若いときの性欲に近いねえ。 |
綾戸 |
そう、たまってくるの。
(つづく) |