第10回 偶然じゃない。がんばってんのよ!


綾戸 もうねえ、とにかくねえ、いろんなこと言っちゃうのよ。
「今日何人来てるの? 2000人?
 そしたらさ、これが5人ずつ連れてくると、
 すっごいねえ」とか言うと、
ぎゃーとか笑うの(笑)。
でも正直そう思うの。
お願いしてるの。
糸井 そうなんだよねえ。
“数”って名前なんだけど、数じゃないのよ。
“場”なんだよねえ。
綾戸 ワタシも裸になるっ。
がんばりたいっ。
がんばらせてって感じ。
糸井 綾戸さんのコンサートってさ、
アンコールのときの喜びが違うんだよね。
終わるっていう喜びなんだよね。
綾戸 ねー。
果てるでしょう。
糸井 果てる、果てる。
綾戸 辛いの。
でも、果てるの。
果てると終われる。
糸井 で、社会人に戻れるんだよねえ(笑)。
綾戸 そうっ。
休憩室に入って、着替えて、化粧とって・・・
糸井 さあー、何食うかー(笑)。
綾戸 さー冷凍カレー食うかー、
解凍しないとな、とかね。
あっ生姜忘れた、とかね(笑)。
糸井 あの人(ステージの綾戸さん)は誰だろうねえ。
それこそ、神様に
ピックアップされちゃったんだろうねえ。
綾戸 されたの。
だからやらないと、申し訳ない。
糸井 そういう意味で言うと、
一見人から見たら、
ろくでもない目に遭っているのも
しょうがないね。
綾戸 しょうがないの。
ワタシ怒らないの。
糸井 ろくでもないよねえ、思えば。
みんなよけて通りたいよねえ。
綾戸 そうっ。
糸井 メディアの人たちで、「ダメよ」って思うのは、
本人ちっともいいと思ってやってなかったのに、
それをすばらしいって言ったり。
お前やってみろよ、って言いたくなるよねえ(笑)。
綾戸 勝手に判断されちゃって。
糸井 「オレは逃げてきたんだ!
 なのに、ひょんなことから
 向うがつかまえにきたんだ!」
って言いたい(笑)。
綾戸 そうっ。
偶然をね、必然にしてんの。
なのに、偶然のままで天才って言ったりさー、
偶然、偶然って。
糸井 冗談じゃないよね。(笑)
綾戸 冗談じゃないっ!!
がんばってんのよ。
糸井 誰が病気になりたい、
誰が離婚したい。(笑)
綾戸 「病気のおかげでここまでこれましたね」
ってなんでおかげなのよー。
あんなイヤなもの。
糸井 冗談じゃないよね。(笑)
綾戸 そうっ。
でも、それじゃあ過去嫌いなんですか?
って言ったら、そんなことはない。
今ここにいるのは、過去のおかげなんじゃない。
みんな過ぎてこれたから、
こうやって言えるのよ。
carry onしたから、やめなかったから。
かわいそうに、やめなきゃいけなかった人もいる、
死んじゃった人もいる。
糸井 うん。
だってスポーツ選手だったらダメだもんね。
綾戸 そうよ。
円谷(幸吉)さんよね。
ワタシ書いたことがあるの。
「円谷さん足切っちゃって
 走れないから死んじゃった。
 あれはあれでいいの。
 “走る”ということが命だったから」
糸井 自分で決めたんだよね。
綾戸 決めたの。
ワタシはね、“息子が命だ”って決めたから。
そして、あの子が大きくなって
ワタシも何かになってこう、って決めたから、
歌えなくなっても生きるの。
これはワタシの価値観なの。
円谷さんは円谷さんでいいの。
だからワタシに何も言わないで、
って言ったことがあるの。
「綾戸さん歌が一番じゃなかったんですか?」
って聞かれて、
「あなたは、ワタシが歌が一番だって見えたなら、
 それはそれでいいの。
 ありがたいわ」と。
でもワタシは唄えなくなっても生きたい。
糸井 歌は順番じゃないところにあるんだよなあ。
綾戸 うん。
必要なもののひとつ。
おトイレに行かなかったら辛いのと同じように、
歌も唄いたい。
糸井 歌を唄えない時間に
歌を唄うことをためこんじゃって生きる、
ってサイクルにもうなっちゃったんだよねえ。
綾戸 なってる、なってる。
糸井 もう若いときの性欲に近いねえ。
綾戸 そう、たまってくるの。

(つづく)


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2000-07-04-TUE

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