第11回 自分の人生地球なの。


糸井 で、みなさんが「殺せーっ」って言って集まる(笑)。
“シロクロショー”だね。
綾戸 そう。
“まな板ショー”。
まな板のエッチじゃなく、まな板の鯛になるの(笑)。
捌かれてるの。
糸井 だから、オレ裸商売の人に
ものすごく共感するのよ、実は。
ただ、そこまでするか、ってだけのことなのよ。
だけど、そこまでの“そこ”がわからないのよ、実は。
だったら、キスシーンを撮ってる人が、
キスはよくって、セックスはいけない。
あれ誰がどう決めるんだろう?
で、そこんところは演技じゃないっていうけど、
キスのときだって演技でしょう?
綾戸 中には、下はいいけど、上はヤダって人も
いるかもしれないよー。
糸井 それねえ、考えちゃうと、
決めちゃった人の強さっていうかねえ、
弱さか強さかわかんないもの?
綾戸 それと怖さがある。
糸井 決めちゃっただけなんだよねえ。
綾戸 そう。
その人の今までの人生が決めちゃったの。
みんな違う生き方してきたのに、やんなっちゃう。
糸井 犯罪なんかに近いっていうのは
わかるよぉ。
綾戸 だからねえ、ゲロを出した1位じゃなく、
きたないで賞の1位でなく、
ふっと手が出た4位の人ね、
吐いたゲロ食べちゃった人、
それがいっちばんきたないよー。
リアリティだよ、これ。(笑)
糸井 自分じゃないものなんだろうなあ。
綾戸 そうなのー。
先は汚いで徹しましょう、
ってそんなもんじゃないのよね。
ついつい手が出ちゃったのよ。
糸井 頭で考えたわけではないんだろうねえ。
綾戸 食ったあと、まずかったと思ったはずだよー。
(爆笑)
えらいことしたーって。
1番っていうのになっちゃったよ、って感じ。
糸井 それをさー、年間毎日毎日やってるんだから・・・
汽車に乗ったり、飛行機に乗ったり行くんだよなあ。
綾戸 だから、きゅうりの輪切りしてるのが
ワタシの余暇なの。
それがしあわせ。
糸井 やなことかって言ったら、やなことだし、
いいことかって言ったら、いいことだし、
そんなもんわかんないよっ。
綾戸 地球ってあるじゃない?
こっち昼のとき、あっちは夜でしょ?
だから、自分の人生地球なの。
こっから見ると、綾戸光輝いて
昼のときもあるんだけど、
ちょっと時間経つと、夜になっちゃう。
で、落ち込んでると、今度昼になっちゃったりね。
ワタシは動いてないの。
糸井 食あたりみたく、
人あたりみたいなのして、ガクってすることない?
綾戸 あります!
糸井 あるよねえ。
絶えず誰かが自分のことを想ってるっていう、
恋してる相手ならいいけど・・・
綾戸 何も知らない人が想ってる。
怖いときある。
糸井 それ、あるよねえ。
綾戸 あのねえ、変な話なんだけど、
これは怖くはないんだけど、
ある新幹線に乗ったとき、
ワタシはもう、入った瞬間に
森進一さんってすぐわかったの。
でも、声かけたらしんどいじゃない。
彼だって仕事終ったところなんだから。
同業者だから、わかるから。
森進一だってわかったけど、
黙って隣りに座ってたの。
でも、向うがチラチラこっちを見るのよ。
まさかワタシのことなんて、知ってると思わないから、
黙って座ってたら、
「あのー、綾戸智絵さんですよねえ?」
って同じような声(ハスキーボイス)で、
ワタシに言うのね。(笑)
ワタシもう、うれしくってうれしくってしかたないから、
まず最初に言った言葉が、
「ハイ!ワタシの方は、もう、
 森進一さんってすぐわかったんですけど、
 お疲れでしょうから、言わなかったんですう」
って、もうカバーしてるの。
森さんあなたのこと知ってますよ、と。
ワタシの方から声かけなくて恐縮です、
っていう気持ちが出ちゃったの、黙っとけばいいのに。
誰かが知ってるっていうことに脅威なの。
あの森進一が知ってるのー? って。
糸井 寝てる間も誰かが綾戸を想ってるわけじゃない。
時には悪意だってあるわけじゃない。
綾戸 ある。
アイツさえ死ねば私がー
っていうヤツもいるかもしれない。
糸井 あの言葉はないわよねえ、っていう
さえずりのようなものもあるし。
綾戸 あの人とだったら僕は死んでもいい、とか
いろいろあるかもしれないしね。
こわい〜〜〜。
糸井 オレはねえ、今はなくなったんだけどねえ、
結婚してからなくなったかなあ。
(結婚するまでは)5年に1ぺんくらい泣いてたのよ。
寝泣き。おねしょみたいに。
夢を見て、もう意味のわかんない泣き方してたの。
たぶん、あれはあれでたまってて
で、ダーッて泣くとうれしくなるの。
“もういいや”になって。
綾戸 スカーッとするわけよね。
糸井 で、そばに人がいるって思うと、楽になれて。
綾戸さんももうすぐその気分になるよ。
いいよ、人がいるの。
子どもがいるのもいいけど、
子どもにはそれって言っちゃ悪いのよ。
綾戸 やっぱりね、(子どもには)言えないよね。
糸井 そんときに、「ばっかじゃない」でも何でもいいのよ。
それできるよ、きっと。
綾戸 いいね。
そういうのを待ちたい。(笑)

(つづく)


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2000-07-07-FRI

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