糸井 |
では今日はもう、
終わりにしてもいいかなって
思うんですけど、
質問を受け付けるっていうことを
あえてやってみましょうか。 |
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私は大橋さんの絵をちゃんと、
実物を初めて見させていただいて、
色がすごいきれいだと思ったんですけれども、
色のバランスとか、たとえば何かから、
イメージが沸いてくる、であるとか、
学生時代とかのところからもずっと
つながっている、
そういうものがあるんですか?
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大橋 |
あんまり自分では意識して
色のバランスだとか、作ってないんですね。
その色がいいかもと思って塗ってるだけで、
すみません(笑)。
考えて絵を描くとか、
この色とこの色はバランスがいいから面白くなるから
この色にしようとかって、
あんまりないんですね。
オイルパステルは50何色だったかな、
あまりないんですね。混ぜられないので、
赤だったら2色ぐらいしか
なかったりしますので、
同じような色をたくさん使っているなあと、
並べてもらってちょっと自分では
思ったんですけれど。
色についてもかたちについても
私の場合は計算とかではなかなか
できないですから、
成り行きであんなふうなんです。
うまく言えなくてごめんなさい。 |
糸井 |
習って習えることと、
習って習えないことと、
両方あると思うんですね。 |
大橋 |
そうですね。 |
糸井 |
で、
大橋さん自身が色について、
その、若いときから今までの間に
ある程度自分で洗練されてきたって
いうふうにお考えですか? |
大橋 |
私、一年浪人してて、
学校に入るのに阿佐ヶ谷っていう
美術研究所に行ってたんですけど、
そこで教えてもらった先生が、
かたちっていうのは、
訓練すれば、幾らでも
上手くなるっていうか伸びていくけれども、
色は先天的なものだからね、
って言われたんですよ。
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大橋さんの、学生時代の習作。
恩師・河原淳さんによる添削入り。 |
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糸井 |
へー! |
大橋 |
でも私はどんだけかたちを長い事やっても、
うまくならないんですよ。
だからそれはかたちも色も
やっぱりその人が持ってるもの以上には‥‥ |
糸井 |
出ちゃうんだ。 |
大橋 |
そう、出ちゃうんじゃないですかしらね。
で、それ以上にもならないというような。
うん、だって私、43年、
仕事をさせてもらってきても、
やっぱり下手だもん。
かたちは難しいですよ。 |
糸井 |
はあ、見事なまでに
「下手だもん」て上手に言いますねえ、 |
大橋 |
いえ、本当に苦労してますよ。 |
糸井 |
この「下手だもん」が言えたらもう勝ちだね。 |
大橋 |
いやあ、でもほんとにね、
今でも描くの苦労してます。
かたちを描くの。 |
糸井 |
その時間が、
大橋さんの絵の中にあるんですよね。
それが気持ちいいんですよね。
「下手だもん」がね、
込められてるんですよ。
で、湯村さんなんかだと、
ヘタウマっていうジャンルを
思いついたんですよ。
「言い方があるぞ」と。
たまたま、一番、湯村さんとつきあってる
時代だったんで、お互いに多分多少
やりとりで影響したんだと思いますけど、
言い方がうまくなったんですね。あのときに。
で、説明してるうちに
ヘタウマって言葉ができちゃって、
あれ以来、ヘタウマって
普通の言葉になってますけど、
そのときに産まれてるんですよね。 |
大橋 |
ああ、そうですね。 |
糸井 |
はい。で、ヘタヘタとヘタウマと
ウマウマがあるっていうふうに
説明してたんですけども、
大橋さんはそのときに
その言葉を必要としないままに‥‥ |
大橋 |
でも、それは私は悩みだったんですよ。
上手く描きたいんです。
今でも上手く描きたいんだけど、
ああ、やっぱり私が持ってるものは
ここまでなんだな。
だけど、とにかく精一杯努力は
することはするんですけれども、
描けなくて、それで逃げたくて、
でもピンクハウスの後半は
さらさら描けちゃうんですよ。
で、描けたものを見るとよくないんです。
で、それで、降ろしてもらった。
いっつも降りてますけど(笑)ね。
それで8年ぐらいでこれはもう
難しいと思っておろしてくださいって
お願いをしたんです。
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糸井 |
8年ですか、それでも。 |
大橋 |
それ、8年でもうだめだと思いましたけれど。
だからやっぱり、何か、私の場合は、
下手なのを頑張って、
一生懸命に上手にならなきゃと思う、
その努力みたいなところで
何かちょっと何となく、雰囲気が、
何かよくわかんないですけども、
絵になっていってるのかな。
でも色についてはあんまり
そんなに考えないので、
難しいというふうには
それは考えたことないんですけどもね、 |
糸井 |
難しいというふうに考えたことがない。 |
大橋 |
考えたことないです。
だから、たとえば『平凡パンチ』のときの
顔が何でセピアなの?
何で髪の毛がプルシアンブルーなの?
って言われても、いや、そんなに
深く考えてあれを選んだわけじゃないし、
何となくそれを使って
描いてただけなんですよ。
で、その後で、パンチの終わりの後半の方で、
金髪の髪の毛の子ばっかりになるんですけど、
一度、服飾評論家の鯨岡阿美子さんが、
‥‥もうお亡くなりになってますけど、
あの方が、ちょっと会いたいって
おっしゃったので、お会いしに行ったらば、
「どうして金髪なの?」
っておっしゃるんですね。
でも、「ちょっとあまり自分では
考えたことないですけど」って
申し上げたんですけど、
それは鯨岡さんのほうにしてみれば
何の答えにもなってなかった。
だけど私にはあまりそういうのを考えて
描いていたわけじゃない。
色のことについては
こうすればいいだろうなとか、
そういうことではやってこなかったので。 |
糸井 |
ああ、改めて、大橋さんが『平凡パンチ』で
描いてる、女性のほっぺたの
思い切った赤さとか、そういうのって、
そのときには表紙としてぱーんと見て
おしまいにしてたんですけど、
絵として見ると、相当大胆な、
発色をさせている、というふうに、
勇気のある色使いに見えたんですよ。
プロって恐ろしいと思いましたよ。 |
大橋 |
私はそんなふうに思ってないんですよ。
プロっていうふうに思ってませんでしたから。
後から、あの頃の絵はどうして
おっぱいが横にはみ出てるんですかとか
言われたんですよ。 |
糸井 |
ああ、あれは面白かったですね。 |
大橋 |
いや、別におっぱいだから
ちょっと横にはみ出てるように、
描いてただけのことで、
深く考えていなかった、
だから続けられたっていうことが
あるんでしょうね。 |
糸井 |
自由演技なんですね。 |
大橋 |
うん、そうなんですね。
だからそこでこう、
意識して何かをしなくちゃいけない
というふうになってしまうと、
多分描けなくなったりとか、
あ、もうこれは続けられないからやめたって
なってきたんじゃないかなと。 |
糸井 |
ずっとこう、
大橋さんは自分の弱点とか欠点の話が
創作活動のポイントにありますね。 |
大橋 |
あ、ああ、そうです、ね。 |
糸井 |
僕が、いつも感心してるバレーボールの
竹下佳江っていう
159センチの選手がいるんですが、
この間、ブロックしたんですよ。
もう、一回はやめた人ですからね。 |
大橋 |
あ、そうなんですか。あの人は。 |
糸井 |
あんまりちっちゃいんで。 |
大橋 |
ああ、そうですよね。 |
糸井 |
あいつのせいだって言われて、やめた人が、
向こうは189センチとかの人ですよね。
それをブロックしたっていう話を
大橋さんの話を聞いて想いだしました。
得意だと思ってたことは
だいたい弱点になりますからね。 |
大橋 |
あ、そうですか! |
糸井 |
ええ、俺はこれが上手いんだっていうものは、
もっと上手い人が必ず現れて、
すぐ陳腐になりますから。
得意じゃないんだよって言ってる
部分ていうのは長持ちしますね。 |
大橋 |
でも逆にそういうようなふうだったから
長持ちして、よかったっていうことですよね。 |
糸井 |
よかったですよね。 |
大橋 |
よかった! |
全員 |
(笑) |
|
(つづきます!) |
2007-02-13-TUE |
協力=クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン |