じぶんで決める、じぶんの仕事。 『アルネ』の大橋歩さんに、糸井重里が聞きました。
 


第11回 「下手だもん」が言えるということ。

糸井 では今日はもう、
終わりにしてもいいかなって
思うんですけど、
質問を受け付けるっていうことを
あえてやってみましょうか。
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私は大橋さんの絵をちゃんと、
実物を初めて見させていただいて、
色がすごいきれいだと思ったんですけれども、
色のバランスとか、たとえば何かから、
イメージが沸いてくる、であるとか、
学生時代とかのところからもずっと
つながっている、
そういうものがあるんですか?
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大橋 あんまり自分では意識して
色のバランスだとか、作ってないんですね。
その色がいいかもと思って塗ってるだけで、
すみません(笑)。
考えて絵を描くとか、
この色とこの色はバランスがいいから面白くなるから
この色にしようとかって、
あんまりないんですね。
オイルパステルは50何色だったかな、
あまりないんですね。混ぜられないので、
赤だったら2色ぐらいしか
なかったりしますので、
同じような色をたくさん使っているなあと、
並べてもらってちょっと自分では
思ったんですけれど。
色についてもかたちについても
私の場合は計算とかではなかなか
できないですから、
成り行きであんなふうなんです。
うまく言えなくてごめんなさい。
糸井 習って習えることと、
習って習えないことと、
両方あると思うんですね。
大橋 そうですね。
糸井 で、
大橋さん自身が色について、
その、若いときから今までの間に
ある程度自分で洗練されてきたって
いうふうにお考えですか?
大橋 私、一年浪人してて、
学校に入るのに阿佐ヶ谷っていう
美術研究所に行ってたんですけど、
そこで教えてもらった先生が、
かたちっていうのは、
訓練すれば、幾らでも
上手くなるっていうか伸びていくけれども、
色は先天的なものだからね、
って言われたんですよ。

 
   
大橋さんの、学生時代の習作。
恩師・河原淳さんによる添削入り。
糸井 へー!
大橋 でも私はどんだけかたちを長い事やっても、
うまくならないんですよ。
だからそれはかたちも色も
やっぱりその人が持ってるもの以上には‥‥
糸井 出ちゃうんだ。
大橋 そう、出ちゃうんじゃないですかしらね。
で、それ以上にもならないというような。
うん、だって私、43年、
仕事をさせてもらってきても、
やっぱり下手だもん。
かたちは難しいですよ。
糸井 はあ、見事なまでに
「下手だもん」て上手に言いますねえ、
大橋 いえ、本当に苦労してますよ。
糸井 この「下手だもん」が言えたらもう勝ちだね。
大橋 いやあ、でもほんとにね、
今でも描くの苦労してます。
かたちを描くの。
糸井 その時間が、
大橋さんの絵の中にあるんですよね。
それが気持ちいいんですよね。
「下手だもん」がね、
込められてるんですよ。
で、湯村さんなんかだと、
ヘタウマっていうジャンルを
思いついたんですよ。
「言い方があるぞ」と。
たまたま、一番、湯村さんとつきあってる
時代だったんで、お互いに多分多少
やりとりで影響したんだと思いますけど、
言い方がうまくなったんですね。あのときに。
で、説明してるうちに
ヘタウマって言葉ができちゃって、
あれ以来、ヘタウマって
普通の言葉になってますけど、
そのときに産まれてるんですよね。
大橋 ああ、そうですね。
糸井 はい。で、ヘタヘタとヘタウマと
ウマウマがあるっていうふうに
説明してたんですけども、
大橋さんはそのときに
その言葉を必要としないままに‥‥
大橋 でも、それは私は悩みだったんですよ。
上手く描きたいんです。
今でも上手く描きたいんだけど、
ああ、やっぱり私が持ってるものは
ここまでなんだな。
だけど、とにかく精一杯努力は
することはするんですけれども、
描けなくて、それで逃げたくて、
でもピンクハウスの後半は
さらさら描けちゃうんですよ。
で、描けたものを見るとよくないんです。
で、それで、降ろしてもらった。
いっつも降りてますけど(笑)ね。
それで8年ぐらいでこれはもう
難しいと思っておろしてくださいって
お願いをしたんです。

 
   
「ピンクハウス」のためのポスターと、その原画。
糸井 8年ですか、それでも。
大橋 それ、8年でもうだめだと思いましたけれど。
だからやっぱり、何か、私の場合は、
下手なのを頑張って、
一生懸命に上手にならなきゃと思う、
その努力みたいなところで
何かちょっと何となく、雰囲気が、
何かよくわかんないですけども、
絵になっていってるのかな。
でも色についてはあんまり
そんなに考えないので、
難しいというふうには
それは考えたことないんですけどもね、
糸井 難しいというふうに考えたことがない。
大橋 考えたことないです。
だから、たとえば『平凡パンチ』のときの
顔が何でセピアなの?
何で髪の毛がプルシアンブルーなの?
って言われても、いや、そんなに
深く考えてあれを選んだわけじゃないし、
何となくそれを使って
描いてただけなんですよ。
で、その後で、パンチの終わりの後半の方で、
金髪の髪の毛の子ばっかりになるんですけど、
一度、服飾評論家の鯨岡阿美子さんが、
‥‥もうお亡くなりになってますけど、
あの方が、ちょっと会いたいって
おっしゃったので、お会いしに行ったらば、
「どうして金髪なの?」
っておっしゃるんですね。
でも、「ちょっとあまり自分では
考えたことないですけど」って
申し上げたんですけど、
それは鯨岡さんのほうにしてみれば
何の答えにもなってなかった。
だけど私にはあまりそういうのを考えて
描いていたわけじゃない。
色のことについては
こうすればいいだろうなとか、
そういうことではやってこなかったので。
糸井 ああ、改めて、大橋さんが『平凡パンチ』で
描いてる、女性のほっぺたの
思い切った赤さとか、そういうのって、
そのときには表紙としてぱーんと見て
おしまいにしてたんですけど、
絵として見ると、相当大胆な、
発色をさせている、というふうに、
勇気のある色使いに見えたんですよ。
プロって恐ろしいと思いましたよ。
大橋 私はそんなふうに思ってないんですよ。
プロっていうふうに思ってませんでしたから。
後から、あの頃の絵はどうして
おっぱいが横にはみ出てるんですかとか
言われたんですよ。
糸井 ああ、あれは面白かったですね。
大橋 いや、別におっぱいだから
ちょっと横にはみ出てるように、
描いてただけのことで、
深く考えていなかった、
だから続けられたっていうことが
あるんでしょうね。
糸井 自由演技なんですね。
大橋 うん、そうなんですね。
だからそこでこう、
意識して何かをしなくちゃいけない
というふうになってしまうと、
多分描けなくなったりとか、
あ、もうこれは続けられないからやめたって
なってきたんじゃないかなと。
糸井 ずっとこう、
大橋さんは自分の弱点とか欠点の話が
創作活動のポイントにありますね。
大橋 あ、ああ、そうです、ね。
糸井 僕が、いつも感心してるバレーボールの
竹下佳江っていう
159センチの選手がいるんですが、
この間、ブロックしたんですよ。
もう、一回はやめた人ですからね。
大橋 あ、そうなんですか。あの人は。
糸井 あんまりちっちゃいんで。
大橋 ああ、そうですよね。
糸井 あいつのせいだって言われて、やめた人が、
向こうは189センチとかの人ですよね。
それをブロックしたっていう話を
大橋さんの話を聞いて想いだしました。
得意だと思ってたことは
だいたい弱点になりますからね。
大橋 あ、そうですか!
糸井 ええ、俺はこれが上手いんだっていうものは、
もっと上手い人が必ず現れて、
すぐ陳腐になりますから。
得意じゃないんだよって言ってる
部分ていうのは長持ちしますね。
大橋 でも逆にそういうようなふうだったから
長持ちして、よかったっていうことですよね。
糸井 よかったですよね。
大橋 よかった!
全員 (笑)
 
(つづきます!)
2007-02-13-TUE
協力=クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン
 
 


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN