第1回
ああ、この人は、
お父さんなんだ。
第2回
だから、俺はもう
ケンカはしない
第3回
一度きりの人生だもん。
泣いたり怒ったり
できたほうがいい。
第4回
あのシーンは俺ひとりで
生んだものじゃない





── プロレスもそうですけど、
訓練系はたいへんですね。
宇梶 俺らが20歳のときに、ちょっと流行った、
スタニスラフスキー・システムという
演劇のメソッドがあるんです。
リー・ストラスバーグ(Lee Strasberg)が
俳優の養成所で実践したんだけど。
── リースタニフラフ‥‥?
宇梶 リー・ストラスバーグというのは、
「ゴッドファーザーPART ll」に出てくる、
マフィアの黒幕役で、
空港で撃たれちゃう人なんですけどね。
その人が設立したアクターズスタジオが
ニューヨークにあって、
そこで採用されたメソッドが
スタニスラフスキーシステムです。
── はい。
宇梶 その演法が、たぶんいま、
世界的に通用しているものじゃないかな?
具体的に、どんなものかというと、
演技というのはなにも特別なものじゃなくて、
五感の記憶がすべてである、
という考えが基礎になっているんです。
そのアクターズスタジオに行くと、まずは、
リラクゼーションからスタートするんです。

全身の力をゆるめて、
足のさきから頭のてっぺんまで
リラックスしてから
五感の記憶をたどるんです。

たとえば、コーヒーをこうやって
飲むときの記憶をたどって、
脳がキャッチしたことを自分のからだに伝える。
そういうことを勉強するんですよ。

コーヒーを飲むときのことを思い出す。
  で、俺は、20歳のときに
『リー・ストラスバーグと
 アクターズ・スタジオの俳優たち』

というぶあっつ~い本を、
4500円とか出して買って読んで
ちょっと利口になったような
「俺も何かできるんじゃないか!」
という気がしてさ(笑)。

そこに書かれていた演法は
さっきの「諦」の話にちょっと似ているんです。
つまり、自分のなかにないものを
演技でやろうとしないんですよ。

たとえば、俺が女性を食事に誘って、
ふたりで出かける機会があったとします。
リラックスしてふたりで話したいのに、
そこで俺は高級レストランを選んじゃって、
次から次へ
どうやって食ったらいいのかわかんないものが
出て来ちゃったとする。
それは、ありもしない自分を
探してしまっているだけなんですよ。
そうじゃなくて、自分の習慣にあることを
やればいい。
── 自分にできることの源泉は
自分にしかないんですね。
宇梶 うん、そうそう。
(ボソボソ)
そういうことに気づくのに、
俺は何十年もかかっちゃったんですけどね。
── ハハハハ。
宇梶 方言やプロレスなんかも
そういうふうにやりたいだけなんです。
覚えるとか、完璧にとか、
そんなことはよくわからなくて、
ただ、自分のからだになじませたものを出す、
そういうところからやっていきたいんです。
── その本から
ものすごく影響を受けられたんですね。
宇梶 あのアクターズスタジオから出た
ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノ、
そういう人の映画をバッチバチに
指くわえて観ていた
もんですから。

指くわえて、こんな顔してね。
── 演劇でも、同じような考えですか?
宇梶 演劇では特に、直接お客さんと向き合うでしょう。
皮膚で何かを感じることができるような
奥にあるものを見ようとして生きている人には
すべてがばれちゃうし、
へんな演技をしていると傷つけます。
役者をやっていて、
そういう人がいるということを忘れちゃならない。
だから、俺たちは、ずうずうしくなくなるんです。

いろんな心ある人たちにいわれるんだけど、
俺はどうやら演技はうまくないらしいし、
これからもうまくならないかもしれない。
そんな俺にできることといったら、たぶん
ちゃんと「思って」セリフをしゃべる、
ということです。
これはうまくなくても、最低、嘘にはならない。

俺は人間としても、
上手にだまされたいタイプじゃないんです。
下手でもいいから、率直に向き合いたい。
芝居もそう。
だからこれからも
きっとうまくなっていかないんだろうな、
ざまあみろってんだ(笑)!
第6回
あいつが、
がんばれなくなるから。
第7回
中島らもさんが
敷いた世界に。

 
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2004-11-10-WED

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