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── |
「お父さんのバックドロップ」には
いろんな境遇の方が出てきますが。 |
宇梶 |
金持ちでもない、保護もされてない、
人間が平等だとも思ってない、
でも、愛されたい、尊敬されたい、
子どもはかわいいって
思ってるやつらですね。
いまよりよくなろう、
向き合おう、
がんばろうと
その3つくらいを思って生きてる。
そんな人たちの映画だから
みんな感じるところがあるんじゃないかな?
その3つの思いは、どんな立場の人でも
持っているものだと思うんです。
殺人者だって「よくなろう」と
思ってると思う。
行動が愚かなだけでね。
誰だって生きていていい。
でも、ただ生かされてるんじゃなくて
自分でひらいていければいい。
そんなメッセージが
この映画の原作に、すでにあるんだと思う。
中島らもという人のつくった原作に。 |

映画に出演もしている、中島らもさん。 |
── |
らもさんが亡くなられたのは、
映画が完成してからのことですね。 |
宇梶 |
そうです。らもさんが亡くなって、
監督といっしょにお宅にうかがったんです。
そしたら、奥さんが
「らもは、弱い人や弱いものが
好きだったんですよ」
と、おっしゃっていました。
らもさんは、若手の劇団員や
食えないミュージシャンを
何年も自分の家に
住まわせていたような人でした。
そういう中島らもという人が書いた世界が
原作にすでに敷いてあったんです。
そこに何年もかけたすばらしい脚本、
芝居でしかアプローチしてこないキャスト、
それから俺が関わらせていただきました。
これは、奇跡みたいな映画だと思います。
やっぱりひとりでも多くの人に、
できればスクリーンで見てほしいです。 |
── |
土日はいつも満席ですね。
男性がよく泣かれるそうですよ。
彼女を連れている手前、
すぐに席を立てない人が
けっこういるらしいです。 |
宇梶 |
書いた本人(らもさん)からして、
そうだったもんね。 |
── |
らもさん、
映画を見終わって号泣されたらしいですね。
客電をつけないでほしい、
と言われたとか‥‥。
私は、おじいさん役の
南方英二さん(チャンバラトリオ)に
ものすごくやられてしまいました。 |

南方英二さん。宇梶さん扮する牛之助の父を演じた。 |
宇梶 |
よすぎだよね、あの人。
あの人は‥‥すてきだったよ。 |
── |
ふだんもああいうペースの方なんですか? |
宇梶 |
もっとやさしい。
もっともっと。
あのくらいの歳になると、
人間の邪気みたいなものが
なくなっていくのかな。
あれは、人間の美しい形だろうねえ
(しみじみ)。
俺なんかだと
500、1000の体験や価値観のなかから
何かひとつを取り出して
こうやってお話してるけど、
あの人は、1万、10万のなかから、
ポッと宝物のようなことを話してくれる。
しかも、あれだけの人だから
もう自分が優位に立とうとして
しゃべってるわけじゃない。
出て来る言葉が、んもう、
アルカリイオン水だよ(笑)。
俺のはまだまだカルキが入ってるな。
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── |
これから宇梶さんは、歳を取っていくのが
とてもたのしみなんじゃないでしょうか。 |
宇梶 |
うん、せがれともよく話すんだけど、
「何になろうか」っていうのは、
好きずきもあるし、
思っていてもできないこともあるから、
よくわからない。
でも、せっかくだから
「いい人間になろう」って思うんです。
そういうのを1個持っとくだけで、
いま自分が
やっていることが、
「どうか?」
って、きちんと疑えるから。
自分への疑いは、大人の責任だよ。
だって、人を殺したり戦争を起こすのは、
状況のせいでそうなっている場合も
あるだろうけど、
自分を疑ってないやつだよ。
自分を疑うことができたら、
人なんて殺せないよ、決して。 |
── |
自分を俯瞰して疑っていく視点を
ひとつ持っていると、
これから大人として歳を重ねていくうえで
たいせつなチェックができますね。
貴重なお話を、
どうもありがとうございました。
ところで、今度は牛之助の息子の一雄、
つまり神木隆之介くんが
「ほぼ日」に遊びにきてくれるんですけど、
なにか伝えたいことはありますか? |
宇梶 |
「俺は人生は
おいしくねえよ。
おまえは人生、
うまいか?」
これだけ、言っといてください。 |
── |
はっ!
了解しました! |
宇梶 |
わかったって、
わかんなくたっていいや、ハハハハ。 |
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