糸井 |
尾行は大丈夫?(笑) |
井上 |
この人(darling)ねえ、
この間いっしょに飲んだときさぁ、
その帰りに別れたあと、
僕を尾行したんですよ。
一応たてまえとしては、
けっこう飲んだ僕を心配して……、
ということになっているけど、
まあ……98パーセントはそういうことだと思うけど、
残りの2パーセントは、なーにか不純なものも
感じるんだよね。 |
糸井 |
100パーセント心配だったからだよ!(笑)
いやねえ、まさに今日のテーマとかぶるんだけど、
俺、最近“バッド”じゃない時間が多いのよ、意外と。
なんていうの、
「こういう、ただ日なたみたいな人っていいのかしら」
って時間がけっこう多いのよ。
「それじゃ、つまらないんじゃないの?」
ってツッコミを自分に入れたくなるような。 |
井上 |
さっきもチラッと言ってたけど、
「いやあ、忙しいんだ」
ってずいぶん言ってたねえ。 |
糸井 |
(忙しいことは)しょうがないんだよ。 |
井上 |
最近さぁ……、
『一個人』って雑誌から取材を受けたんだけど、
取材を受けるにあたって、その雑誌を読んでたら、
吉行淳之介さんの特集があって、
「吉行淳之介って、なんだったんだろう……?」
って気になったから、
インタビュー受ける前に
吉行さんの本を1、2冊読んだのね。
そしたら、吉行さんの本の中に
柴田錬三郎って人の話が出てきて、
その人は吉行さんの先輩にあたる人らしいんだけど、
吉行さん曰く、
「あの人はやっぱりさー、ダンディだった」
って書いてあるわけよ。
なにがダンディかって言うと、
とにかく相当忙しい状態のはずなのに、
だけど、ただの一度たりとも
「いやあ、今、忙しいんで」
っていう言葉が出てこないって言うのよ。
ふつうそれはできないって話を
吉行さんが書いてるのよ。
吉行さんでもできないって。
やっぱ、昔気質の人は、
ああいうダンディズムでやってた人もいるんだよね。 |
糸井 |
あの、多分なんだけど、
連載漫画を引き受けてる人って
いちばん忙しい人なんですよ。
あれって考えて終わりになんないし、
それこそ背景とかの斜線まで
ザーッって入れなきゃ
仕事が終わりにならないじゃないですか。
あれを週単位で連載してるだけでも
えらいことだと思うんだよ。
しかも、売れっ子になると、
それを何本もやったりするでしょ。
僕はそういう漫画家って、
シバレン(柴田錬三郎)が書くより
大変だと思うんだよ。
たまに、漫画賞の審査会なんかで
(売れっ子漫画家に)会うと、
「忙しいでしょー?」とか言っても、
「あーそうですかー」みたいな。
まるで他人事のニュースのように聞いてるもん。
そんぐらい閉じこもってるみたい。 |
井上 |
まだ、柴田さんは、あくまでも僕の想像だけど、
「うーん、できないっ。筆がすすまない」
とか言う余裕があったような気がするね。
でも、(売れっ子漫画家のような)
そのくらいのレベルになると、
「できない」とか「ひらめかない」なんて
言うことすらできないんだろうねぇ。 |
糸井 |
“忙しい”って、結局
何かに使われている状態ですよ。
自分がやるかやらないか決められる人で
忙しい人なんて、そんなにいないですよね。
僕は今まで「忙しい」って言わないできたんですよ。
それが「忙しい」と言うようになったのは、
「もう勘弁してくれ、頼みます」っていう
メッセージを込めてなの、全世界に向けての。 |
井上 |
「いじめないでくれ!」と(笑)。 |
糸井 |
昨日、見城徹さんと教育テレビでやる
シリーズの対談を撮ったんだけど。 |
井上 |
撮った!?
よかったでしょ? |
糸井 |
うん、面白かった!
あの、なんだろう、表れ方が違うんだよね。
恥ずかしい感じや、弱いところをみせるときの
表し方が違うんだよね。
僕の定義によると、恥ずかしいというのは、
パンツ一丁になるってことなんだけど、
「恥ずかしいからパンツ一丁になっちゃう」
みたいなところがあって。
それが、見城さんの場合、
パンツじゃなくて、一気に内臓までいっちゃう。
「どうせだったら、ここまで見せてしまえば、
肌に目がいかないんじゃないか……」みたいな。
そこの違いなのかなあ、って話をしてたんだけど、
面白かったー。 |
井上 |
うん。
けっこう話弾んだんじゃないのかなあ……。 |
糸井 |
弾んだと言っていいと思う(笑)。 |
井上 |
(笑)恥ずかしながら、弾んじゃった? |
糸井 |
きょうも改めて思ったんだけど、
“会う”って大事だね。
井上さんとだって、会わないで、
ああいう人がいると思ってるだけで、
「あのおっさんは……」って言ってるより、
きっと歳が近いほど、
会えばいろんなことがわかるじゃないですか。
でも、会わないとそう考えるんだってところで、
底の底まで勝手に見ちゃうから、
ものすごく誤解しますよね。 |
井上 |
……そうだね。 |
糸井 |
会うだけで済むかって言ったら、
これまた困った問題なんだけど、
相当済むね。
だから、見城さんと会えてよかった。
ひとつやり残したことが済んだ
うれしさがありました。 |
井上 |
僕だって、その対談、
放送で見るの楽しみだよ。 |
糸井 |
ああ、そうですか! |
井上 |
……うん。
“見城徹と糸井重里”
そりゃ見ないといかん。
そういう気持ちを盛り上げたのは、
なんだろうねえ……、
「どうなんだろう? あの人。
まあそういうところもあったんだけど、
……やってみよう」
なんて糸井さんが思ったのかなぁ。 |
糸井 |
それは、やっぱねえ、
歳ですかねえ……なんだろうねぇ。
野球の試合が終わって、引退したあとって、
掛布と江川って隣り合わせで
うれしそうにしてんじゃん。
あれ、会わないままでいたら、 別の関係になっていたよね。
なんか、
ああいうような感じがしますよね。
(つづく) |