糸井 |
そんなに僕は、見城さんと
何かをやったわけでもないんだけど、
“敬して遠ざける”人ですからね。
でね、分岐点みたいなところが
中上健二みたいな人じゃない。
ぶったりするような人なんじゃないか……と(笑)。 |
井上 |
……なるほど。
内臓系ですからね……。(笑) |
糸井 |
そんで、「あれは本物じゃないっ!」とか
言う人なんじゃないか? とか。
俺はとっても本物じゃない人なんで、
こちらは本物が好きだって気持ちがあっても
いまさら「お前は本物じゃない」
とか言われてもなぁ、とか思ってたのよ。 |
井上 |
僕なんか、本物じゃない、とかいう話になるとさ、
「だったら本物見せてぇー」
っていう話になっちゃうから。(笑) |
糸井 |
だから、どんなに「すごい」って語られても、
「今、目の前で聞いたこと以外に
もっとないのー?」
って言いたくなるようなものだよね。
ずっとそんな感じできてたんだけど、
それがねえ「いや、話を聞いてみる必要あるな」
って感じにはなりましたよね。 |
井上 |
その対談はもう終わったんだ? |
糸井 |
いや、あともう1回あるんですよ。
1回目は“ヒットメーカー・社長業見城徹さん”
っていうのを全面に出して、
そんで、次回は見城さんの
少年時代に焦点を当てるんですよ。
で、見城さんからのリクエストで、
静岡の清水市にある見城さんの出身高校に行って、
そこの図書館で対談したいってことで、
「俺はどのくらい本が好きだったか」
というようなことを話すのよ。
だってねえ、
「コンプレックスが強くてトイレに行けなかった」
って言うんだよ。
廊下に人がたむろしてるのが怖くて
トイレに行けなかったんだって。
だから、授業中に手を挙げて
トイレに行ってたんだって。 |
井上 |
あらぁ〜。
楽しみだねえ。 |
糸井 |
で、この対談も
今日はちゃんとテーマがありますんで。 |
井上 |
“BAD”ね。 |
糸井 |
妙に、今回のレコードに関しては、
新聞なんかの広告を拝見してましても、
“BAD”だとか、
“よくないんだー”みたいな言い方を
わざと、ものすごくしてますよね。
“あなたには受け入れられない”というような。
あれは、相当意識的に
遠慮じゃなくやってますよねえ。
“強く”やってますよねえ。
あの気分っていうのは
前々からあったものなんですか? |
井上 |
前からあったよね。
あのー“ひどい”っていうのは
詩の部分のことなんだけど、
前からあったんだよねえ、
「これ、ひどいねぇ……」っていうのは。
そういうひどいのがずっとあって、
シングル盤のB面なんかに
入れたいと思っていたからね。 |
糸井 |
それは、もともとこういう形(GOLDEN BAD)で
アルバムにする前から
B面ではぜひそういうひどいものを入れたい、
という気持ちがあったんですか? |
井上 |
うん。
だってヘタにいいとさ……、
「この曲、A面よりいい」なんてことになると、
……まーた話が複雑になってくるから。
せっかくA面が決まっているのに……。
だから、明らかにA面より落ちてないと。 |
糸井 |
落としてないと(笑)。 |
井上 |
落ちてないと、ややこしくなるから、
……みたいな話じゃないのかしら。
ひどいものを入れたい気分ってのが
“前からあった”っていうのは……。 |
糸井 |
“甘え”ですか? |
井上 |
“傲り高ぶり”じゃないの?(笑) |
糸井 |
「こんなものでもくらえ!」という。(笑)
でも知り合いとか、深くなると、
ダメな面も含めて付き合いたくなるじゃないですか。
お客さま方もそうなんじゃないかなあ、
と思うわけですよ。
そんで、それをしないで一生過ごすという
美意識もあるけれども、
「いや、あなたの思っている井上陽水像というのは
整いすぎてる。私をそんなふうに理解しないでくれ」
という、陽水得意のパターン?(笑) |
井上 |
……ああ、それはありますね。 |
糸井 |
ありますよね。
それが元々あったんだー、いっぱい。 |
井上 |
よく、いちばん典型的なのが、
“アーティスト”っていうイメージってあってさ、
いちばん簡単なイメージは、
もう、社会的なことが音痴じゃないかなあ、
ハンディキャッパー、っていうかねえ。
かなり欠落してるっていうヤツという……。 |
糸井 |
「もう俺は何をしてもいい」という存在だ。 |
井上 |
……うん。
何をしてもいいということもそうだし、
ま、銀行とか……、区役所とか……、
税金の申告とか……、駅で切符を買うとか……、
ふつう社会人がやらなきゃいけないことを、
放棄してる、という。 |
糸井 |
かえって、できない方がいいんだ、と。 |
井上 |
そうそう。
そいうことをしないでいると、
普段から、うんとアーティストの神秘性が高まる。
僕はそういうのに反発があるというか……。 |
糸井 |
あの逆エリートぶりに(笑)。 |
井上 |
そうね……。
「いや、俺、ぜんぜん電車なんて乗ったことない」
とか言ったり、もう、どっかで飲んだって、
「俺は払わないわ」ってお付きの人が払う、とか。
ああいうやり口に反発もあったりして。
それとねえ、小っちゃい頃……、
と言っても、僕が高校時代の話なんだけどさ、
ポール・マッカートニーが
ビートルズをレコード会社に売り込むために
書いた文章を読んだんだよ。
それは“お利口さん”の文章だったんだけど、
その“お利口さん”って意味は……、
テディーボーイというかさー、
反社会的な出で立ちであっただろうし、
反社会的な暮らしぶりであったんだろうけどさー、
と同時に、レコード会社のお偉方に対しては、
「僕たちはちゃんと話ができますよ」
っていう文章だったのよ。 |
糸井 |
ああ、そうか!
(つづく) |