YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第4回 文化勲章をもらうことになったら
    どうするんだろう?



糸井 当時、ストーンズが不良とかワルを前に出して
どんどん売っていくっていうのは、
彼らは最初に走るランナーだったから、
カッコ良かったんですよ。
でも、ストーンズがもう走ったその後で
「俺たちは“もっと”ワルだ」とか言われても
それって、二番煎じというか、
ジュリーアンドリュースと同じことですよね。
そういうことに対する、
ちょっとイヤミな視線っていうのはあるよね。
最初にザ・フーとかがギターを壊してるのを見て、
「ギター壊すなんてすごいなあ」とか思ったけど、
2人目がギター壊しても……
山水画みたいなもんじゃないですか、あの世界の。
だからいつも安定しようとすると、
「それって、なんでもないよね」
という悪魔のささやきが聞こえるんだよね。
……で、ですね、そういう井上陽水さんが
『文化勲章』とかをもらうことになったら
どうするんだろう?
井上 (笑)…………どうするんだろうって?
糸井 いや、だから、
文化勲章を単純に断るっていうのも、
それ、フォーマットじゃないですか?
井上 あの……これは難しい(笑)。
糸井 逆に、喜んで受けてたときとかに
メディアに書かれることってわかるよね(笑)。
「井上陽水さん、満面の笑みで……」
とか書かれたら、ちょっとカチンときますよねえ。
で、全然うれしくないか、って言うと、
ああそういう感じかあ、ってうれしさは
ないことはないよねえ。
また気持ちが三層に分かれるよね(笑)。
井上 しかし……、宇野亜喜良さんが
何かの賞をもらったらしいじゃない。
文化勲章ではなかったらしいけど。
糸井 みんな、昔の宇野さんのことを
覚えてないんじゃないですか。
今はもう、きれいな絵を書く人としか
思ってないんですよ。
井上 今でこそ、きれいな絵ばっか書いてるけど、
昔はもう……ドロドロの世界だったよねえ。
糸井 すっごいテクニックのある人が
ドロドロのものを書いてたよねえ。
よく、寺山修司さんとセッティングされてたよね。
今、宇野さんには何か頼みたい時期ですよね。
面白い。
ものすごく達者でしょ、手が。
いや、それはいいんだけど、
井上さんはどうするんですか?(笑)
井上 …………(笑)。
糸井 “BAD”の切り口で、文化勲章をどう取るのよ?
井上 ………………。
まあ、実際……、
そんなことはあるわけないとは思うけど、
「そんなことになったらどうしよう……」
という想定は時々するんだけど、
答えが……でない(笑)。
糸井 でない!?(笑)
そうきましたか〜。
たとえば、「待って下さい」というのが許されたら、
「永遠に待って下さい」というのが
いちばんアホらしくていいねぇ。
それか、
「僕には答えがでない……」って言う!(笑)
井上 (笑)あーの……、
「お引き受けするべきか、
 お断りするべきか……僕には答えが見えない」。
こぉーれは新しいアングルだね。
糸井 新しいねえ!
モラトリアムにしとくの。
井上 たしかに、当たり前に「ご辞退」っていうのも、
今さらねぇ。
糸井 ご辞退っていうのも、安定してますよね。
井上 だから、ご辞退なんていうことでね、
あのぉー、気持ちが片づくようだったら、
それはちょっと……今の時代っていうのを
捕えてないと思うよね。
糸井 俺もそう思う。
井上 前の時代だったら、
ご辞退もひとつの形だったけど、
もう今は、そんな簡単な時代じゃないのかなぁー、
なーんて思うんですよ。
糸井 で、「満面の笑み」っていうのも違いますよね。
井上 で、もちろんそんな質問を僕にするくらいだから、
糸井さん、自分も文化勲章をあげるって言われたときに、
どうするのか……考えてるんですよね?(笑)
糸井 僕は、だから、思いついたときに
「これはいい質問だな」って思ったんですよ。
自分でも悩んでる話っていうのが
やっぱいちばん面白いですよね。
悩んでるっていうか、
答えが出ない話でしょ。
「おまえが心配することじゃない」という前提は、
まぁ(笑)、あるんだけど。あははは。
ひとつの、現世的な価値体系のシンボルだもんね。
そういう話って面白いですよね。
井上 そういうときに、
「なるほど」ってことを糸井さんが言ったら、
「さすがだなぁ……」ってことになるんだけど(笑)。
糸井 あのねぇ……僕もよく井上さんにひどい質問を
投げかけられますけども、
答えようのない質問を……。
でも、「いちばん粗暴でありたい」というような願望を
井上陽水って人は、唄ってても、
メロディーの美しさや声の美しさと
反比例するように感じさせますよね。
「なにそれ?」って思いますもん。
井上 あれ、でもねえ、やっぱ何かに不満なんだよねえ。
吉行さんが、誰かの言葉を引用してたんだけど、
……定かではないけど、
「なぜ小説を書いてるんだ?」的な質問にね、
「復讐するために書いてるんだ」
って答えてて、
それは「なるほどなあ」ってうなずけましたね。
糸井 それ、普遍化できないところがいいね。
「俺もそうなんだよ」って言わせない。
井上 そうなのよねえ。

(つづく)

2000-07-26-WED

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