糸井 |
当時、ストーンズが不良とかワルを前に出して
どんどん売っていくっていうのは、
彼らは最初に走るランナーだったから、
カッコ良かったんですよ。
でも、ストーンズがもう走ったその後で
「俺たちは“もっと”ワルだ」とか言われても
それって、二番煎じというか、
ジュリーアンドリュースと同じことですよね。
そういうことに対する、
ちょっとイヤミな視線っていうのはあるよね。
最初にザ・フーとかがギターを壊してるのを見て、
「ギター壊すなんてすごいなあ」とか思ったけど、
2人目がギター壊しても……
山水画みたいなもんじゃないですか、あの世界の。
だからいつも安定しようとすると、
「それって、なんでもないよね」
という悪魔のささやきが聞こえるんだよね。
……で、ですね、そういう井上陽水さんが
『文化勲章』とかをもらうことになったら
どうするんだろう? |
井上 |
(笑)…………どうするんだろうって? |
糸井 |
いや、だから、
文化勲章を単純に断るっていうのも、
それ、フォーマットじゃないですか? |
井上 |
あの……これは難しい(笑)。 |
糸井 |
逆に、喜んで受けてたときとかに
メディアに書かれることってわかるよね(笑)。
「井上陽水さん、満面の笑みで……」
とか書かれたら、ちょっとカチンときますよねえ。
で、全然うれしくないか、って言うと、
ああそういう感じかあ、ってうれしさは
ないことはないよねえ。
また気持ちが三層に分かれるよね(笑)。 |
井上 |
しかし……、宇野亜喜良さんが
何かの賞をもらったらしいじゃない。
文化勲章ではなかったらしいけど。 |
糸井 |
みんな、昔の宇野さんのことを
覚えてないんじゃないですか。
今はもう、きれいな絵を書く人としか
思ってないんですよ。 |
井上 |
今でこそ、きれいな絵ばっか書いてるけど、
昔はもう……ドロドロの世界だったよねえ。 |
糸井 |
すっごいテクニックのある人が
ドロドロのものを書いてたよねえ。
よく、寺山修司さんとセッティングされてたよね。
今、宇野さんには何か頼みたい時期ですよね。
面白い。
ものすごく達者でしょ、手が。
いや、それはいいんだけど、
井上さんはどうするんですか?(笑) |
井上 |
…………(笑)。 |
糸井 |
“BAD”の切り口で、文化勲章をどう取るのよ? |
井上 |
………………。
まあ、実際……、
そんなことはあるわけないとは思うけど、
「そんなことになったらどうしよう……」
という想定は時々するんだけど、
答えが……でない(笑)。 |
糸井 |
でない!?(笑)
そうきましたか〜。
たとえば、「待って下さい」というのが許されたら、
「永遠に待って下さい」というのが
いちばんアホらしくていいねぇ。
それか、
「僕には答えがでない……」って言う!(笑) |
井上 |
(笑)あーの……、
「お引き受けするべきか、
お断りするべきか……僕には答えが見えない」。
こぉーれは新しいアングルだね。 |
糸井 |
新しいねえ!
モラトリアムにしとくの。 |
井上 |
たしかに、当たり前に「ご辞退」っていうのも、
今さらねぇ。 |
糸井 |
ご辞退っていうのも、安定してますよね。 |
井上 |
だから、ご辞退なんていうことでね、
あのぉー、気持ちが片づくようだったら、
それはちょっと……今の時代っていうのを
捕えてないと思うよね。 |
糸井 |
俺もそう思う。 |
井上 |
前の時代だったら、
ご辞退もひとつの形だったけど、
もう今は、そんな簡単な時代じゃないのかなぁー、
なーんて思うんですよ。 |
糸井 |
で、「満面の笑み」っていうのも違いますよね。 |
井上 |
で、もちろんそんな質問を僕にするくらいだから、
糸井さん、自分も文化勲章をあげるって言われたときに、
どうするのか……考えてるんですよね?(笑) |
糸井 |
僕は、だから、思いついたときに
「これはいい質問だな」って思ったんですよ。
自分でも悩んでる話っていうのが
やっぱいちばん面白いですよね。
悩んでるっていうか、
答えが出ない話でしょ。
「おまえが心配することじゃない」という前提は、
まぁ(笑)、あるんだけど。あははは。
ひとつの、現世的な価値体系のシンボルだもんね。
そういう話って面白いですよね。 |
井上 |
そういうときに、
「なるほど」ってことを糸井さんが言ったら、
「さすがだなぁ……」ってことになるんだけど(笑)。 |
糸井 |
あのねぇ……僕もよく井上さんにひどい質問を
投げかけられますけども、
答えようのない質問を……。
でも、「いちばん粗暴でありたい」というような願望を
井上陽水って人は、唄ってても、
メロディーの美しさや声の美しさと
反比例するように感じさせますよね。
「なにそれ?」って思いますもん。 |
井上 |
あれ、でもねえ、やっぱ何かに不満なんだよねえ。
吉行さんが、誰かの言葉を引用してたんだけど、
……定かではないけど、
「なぜ小説を書いてるんだ?」的な質問にね、
「復讐するために書いてるんだ」
って答えてて、
それは「なるほどなあ」ってうなずけましたね。 |
糸井 |
それ、普遍化できないところがいいね。
「俺もそうなんだよ」って言わせない。 |
井上 |
そうなのよねえ。
(つづく) |