井上 |
“復讐するために”ねぇ……。
その言葉の具体的な背景はわからないけど、
なんか、こう……
ほんとに深い話になるかもしれないけど、
よくさぁ、復讐の動機で、
いちばんかっこよく言うと、
「この世の中に送りだされたことが……」とかね。
だってこの世の中で生きていくって
本当に、たーいへんじゃない。
「どうしてこんな世の中に自分は送り出されたんだ」。
何かに復讐したいけど、
その相手は、宇宙の摂理なのか……、
もっと近い例で言うと、親父とオフクロなのか……、
それとも、日本とか世界のシステムに対してなのか、
……よくわからないんだけど、
とにかく“復讐するため”……うーん、これは、
なんかあるのかねえ? |
糸井 |
その話を聞いて、今思い起したのはさ、
母親の胎内にいるときの赤ん坊は、
呼吸を自分でしなくていいんですよね。
酸素はへその緒から、
血液として流れてくるわけですよ。
で、胎児は安定してたわけですよ、
母親のひとつの内蔵として。
脳も発達してないし、ってことで、
息する方法も知らないくらい安定してたわけですよ。
で、「さあ外界に出ました!」ってときに、
安定していた場所から外の世界に
出てきた瞬間に、ケツとか叩かれて
「ふぎゃーっ!」って呼吸するわけですよ。
あれが、最初の復讐の雄叫びと考えても……。 |
井上 |
まあ、つじつまが合う(笑)。 |
糸井 |
つじつまが合いますよねえ(笑)。
つまり、
「俺はせっかく安定してたのに、
なんで外に出すんだよ!」と。 |
井上 |
「なんで出すんだよ、大変なところに」と。 |
糸井 |
「永遠に胎内にいたいのに」(笑)。 |
井上 |
にっこり笑って出てこないかな(笑)。 |
糸井 |
すごいさー、老人と見まちがうような、
シワだらけの顔してだよ、
粘膜のような皮膚をもった生き物が出てきて、
最初にケツ叩かれて呼吸するときって、
反抗の最初の一声だよね。 |
井上 |
……そうとるべきなのかねぇ。 |
糸井 |
そのほうが、すごいじゃない。 |
井上 |
だけどまあ、だいたい“復讐のため”なんて言うと、
ちょっとおどろおどろしくって……、
ちょっと受け入れがたい言葉なんだけど、
なんか、そんな話、
あんまり……聞きたくないってところなんだけどね。
人間として生まれて死ぬなかで、
まあ、普通にいくと、
「人生は楽しむものだ」とかさ、
「ワインと女と酒と音楽があれば、俺はハッピーさ」
みたいな、そんなふうにしてると、
「あっ、この人、いい人かなあ」
とかって好感持たれるけど、
“復讐のために……”とか言われてもさ、
みんな、そうなんだけど、
それをあえて表に出さないでいるわけだからさ、
「そんなことはわかってるけど、
それを表に出しちゃ、身もフタもないよ」
みたいなねぇ。 |
糸井 |
もともと、聞こえてこないことで
成り立ってた、みたいなことだよね。
井上陽水だけが覚えていた、みたいな。
だけど、もうそういう場所には
いないじゃないですか、井上さんは。 |
井上 |
あの……え? どういう意味? |
糸井 |
つまり、誰も知らないから正直に「復讐」と言えた、
だけど、みんなに「そういう人ですよね」
って言われた途端に
「それは困る」ってなっちゃうじゃない。
そうすると、やっぱり前やった対談のときみたいに、
井上さんの言葉に、赤、青、緑って、
文字に色をつけたくなるんですよね。
「こう思う」「と同時にこうとも言える」
「いや……わからない」って、
3色は必要という(笑)。 |
井上 |
あの……話をもとに戻すとさ、
……その復讐はねえ、それを読んだときの、
僕の状態もあったんだけど、
僕なりに合点がいったような気がしたのよ。
なんか、まがまがしいものとしてではなくて。
それでさぁ、復讐と言えば、
「復讐するは我にあり」ってタイトルあるじゃない。
まあ、作家の方も忘れたし、
映画監督も忘れたんだけど……。 |
糸井 |
えーっとねえ、佐木隆三って作家。
で、西口なんとかっていう人の犯罪のことを書いてて、
「復讐するは我にあり」っていうのは
聖書の中の一説なんだよ。 |
井上 |
その「復讐するは我にあり」って
日本語として……どうとらえたらいいのか……、
悩みに入るわけだけどさぁ、
「復讐するは我にあり」って
どういうこと? |
糸井 |
なんかねえ、誰かが
「復讐するは我にあり」という言葉について
言い合ってたり、しゃべったりしたものを
読んだことがあったなあ。
聖書の中の方が、合点のいく話になってたような
気がするなあ。 |
井上 |
さすがだねぇ……、
「聖書の中の一節だ」って知ってるなんて。 |
糸井 |
いやあ、僕は、青学中等部(青山学院大学)で
講演したこともある男ですから(笑)。 |
井上 |
そうかあ……青学で講演ですかぁ(笑)。 |
糸井 |
青学で講演っていうのは、
文化勲章的なものが小さくあるでしょ。
これから巣立つ学生のみなさんに向けて、
社会を代表する大人として、
語ることがあります、と(笑)。 |
井上 |
青学で講演と言えば、
クマさん(篠原勝之さん)がねえ、
メールをよく送ってくれるんですが、
添付ファイルで画像を送ってくるから、
容量が重くって……なかなか受信できないのよ。 |
糸井 |
クマちゃんて、
ほどよく重たいものをのせながら、
軽さも保ってますよねえ。
魂だとか、命がけ的な要素を
わりと上手に使うじゃない。
で、イヤミがないんだよねぇ。 |
井上 |
うん……、ない。 |
糸井 |
クマちゃんは達人かもねえ。
あれを俺たちがやったら、えらいことだよね。 |
井上 |
あの人は……なかなかな人なんだけど、
そうじゃないって話も、
ときどき、酒場なんかで聞いたりする(笑)。
(つづく) |