YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第5回 “復讐のために”とか言われてもさ


井上 “復讐するために”ねぇ……。
その言葉の具体的な背景はわからないけど、
なんか、こう……
ほんとに深い話になるかもしれないけど、
よくさぁ、復讐の動機で、
いちばんかっこよく言うと、
「この世の中に送りだされたことが……」とかね。
だってこの世の中で生きていくって
本当に、たーいへんじゃない。
「どうしてこんな世の中に自分は送り出されたんだ」。
何かに復讐したいけど、
その相手は、宇宙の摂理なのか……、
もっと近い例で言うと、親父とオフクロなのか……、
それとも、日本とか世界のシステムに対してなのか、
……よくわからないんだけど、
とにかく“復讐するため”……うーん、これは、
なんかあるのかねえ?
糸井 その話を聞いて、今思い起したのはさ、
母親の胎内にいるときの赤ん坊は、
呼吸を自分でしなくていいんですよね。
酸素はへその緒から、
血液として流れてくるわけですよ。
で、胎児は安定してたわけですよ、
母親のひとつの内蔵として。
脳も発達してないし、ってことで、
息する方法も知らないくらい安定してたわけですよ。
で、「さあ外界に出ました!」ってときに、
安定していた場所から外の世界に
出てきた瞬間に、ケツとか叩かれて
「ふぎゃーっ!」って呼吸するわけですよ。
あれが、最初の復讐の雄叫びと考えても……。
井上 まあ、つじつまが合う(笑)。
糸井 つじつまが合いますよねえ(笑)。
つまり、
「俺はせっかく安定してたのに、
 なんで外に出すんだよ!」と。
井上 「なんで出すんだよ、大変なところに」と。
糸井 「永遠に胎内にいたいのに」(笑)。
井上 にっこり笑って出てこないかな(笑)。
糸井 すごいさー、老人と見まちがうような、
シワだらけの顔してだよ、
粘膜のような皮膚をもった生き物が出てきて、
最初にケツ叩かれて呼吸するときって、
反抗の最初の一声だよね。
井上 ……そうとるべきなのかねぇ。
糸井 そのほうが、すごいじゃない。
井上 だけどまあ、だいたい“復讐のため”なんて言うと、
ちょっとおどろおどろしくって……、
ちょっと受け入れがたい言葉なんだけど、
なんか、そんな話、
あんまり……聞きたくないってところなんだけどね。
人間として生まれて死ぬなかで、
まあ、普通にいくと、
「人生は楽しむものだ」とかさ、
「ワインと女と酒と音楽があれば、俺はハッピーさ」
みたいな、そんなふうにしてると、
「あっ、この人、いい人かなあ」
とかって好感持たれるけど、
“復讐のために……”とか言われてもさ、
みんな、そうなんだけど、
それをあえて表に出さないでいるわけだからさ、
「そんなことはわかってるけど、
 それを表に出しちゃ、身もフタもないよ」
みたいなねぇ。
糸井 もともと、聞こえてこないことで
成り立ってた、みたいなことだよね。
井上陽水だけが覚えていた、みたいな。
だけど、もうそういう場所には
いないじゃないですか、井上さんは。
井上 あの……え? どういう意味?
糸井 つまり、誰も知らないから正直に「復讐」と言えた、
だけど、みんなに「そういう人ですよね」
って言われた途端に
「それは困る」ってなっちゃうじゃない。
そうすると、やっぱり前やった対談のときみたいに、
井上さんの言葉に、赤、青、緑って、
文字に色をつけたくなるんですよね。
「こう思う」「と同時にこうとも言える」
「いや……わからない」って、
3色は必要という(笑)。
井上 あの……話をもとに戻すとさ、
……その復讐はねえ、それを読んだときの、
僕の状態もあったんだけど、
僕なりに合点がいったような気がしたのよ。
なんか、まがまがしいものとしてではなくて。
それでさぁ、復讐と言えば、
「復讐するは我にあり」ってタイトルあるじゃない。
まあ、作家の方も忘れたし、
映画監督も忘れたんだけど……。
糸井 えーっとねえ、佐木隆三って作家。
で、西口なんとかっていう人の犯罪のことを書いてて、
「復讐するは我にあり」っていうのは
聖書の中の一説なんだよ。
井上 その「復讐するは我にあり」って
日本語として……どうとらえたらいいのか……、
悩みに入るわけだけどさぁ、
「復讐するは我にあり」って
どういうこと?
糸井 なんかねえ、誰かが
「復讐するは我にあり」という言葉について
言い合ってたり、しゃべったりしたものを
読んだことがあったなあ。
聖書の中の方が、合点のいく話になってたような
気がするなあ。
井上 さすがだねぇ……、
「聖書の中の一節だ」って知ってるなんて。
糸井 いやあ、僕は、青学中等部(青山学院大学)で
講演したこともある男ですから(笑)。
井上 そうかあ……青学で講演ですかぁ(笑)。
糸井 青学で講演っていうのは、
文化勲章的なものが小さくあるでしょ。
これから巣立つ学生のみなさんに向けて、
社会を代表する大人として、
語ることがあります、と(笑)。
井上 青学で講演と言えば、
クマさん(篠原勝之さん)がねえ、
メールをよく送ってくれるんですが、
添付ファイルで画像を送ってくるから、
容量が重くって……なかなか受信できないのよ。
糸井 クマちゃんて、
ほどよく重たいものをのせながら、
軽さも保ってますよねえ。
魂だとか、命がけ的な要素を
わりと上手に使うじゃない。
で、イヤミがないんだよねぇ。
井上 うん……、ない。
糸井 クマちゃんは達人かもねえ。
あれを俺たちがやったら、えらいことだよね。
井上 あの人は……なかなかな人なんだけど、
そうじゃないって話も、
ときどき、酒場なんかで聞いたりする(笑)。

(つづく)

2000-07-27-THU

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