井上 |
クマさん(篠原勝之さん)……、
あの人は達人というか、
なかなかな人なんだけど、
ときどき、達人ではないって言葉も
酒場なんかで聞いたりする(笑)。
あの人(クマさん)が
日本語のわからない外国人に
日本語でしゃべりかけているのを見てると、
相当なレベルだなって気はするけど(笑)。 |
糸井 |
すごいよねえ。
外人に向かって「で、オマエどうしたんだ?」
とかやってるよねえ(笑)。 |
井上 |
(笑)レベル高いよねえ。
今サハラ砂漠がどうした、こうしたって話だし……。 |
糸井 |
モロッコにいるとかって言うんでしょ?
メールとかの通信もマメにやったり、
ちゃんとポール・マッカートニーなことも
やってるんだよねえ。
山本寛斎さんといるとかって話だね。 |
井上 |
まさしく、ポール・マッカートニー的なね、
社会人としての……。 |
糸井 |
過不足なくね。
すごいよ。
そりゃだけど、そういう考え方って
僕なんかとも、相当近いところがあるんだけど、
いったん忘れようってことが
ものすごく多いんですよ。
まあ、井上さんもいったん忘れてるから、
“BAD”という形で
固めて出したりしてるのかもしれないけど。
溜まりに溜まっちゃったんですか?
“GOLDEN BEST”は自分にとって、
「あら、こんなに売れちゃった?」っていうような、
「弱った……」というくらい売れたでしょ? |
井上 |
弱りはしませんが、
思いのほか……好評で。 |
糸井 |
その揺り返しはあるんですかね?
「私をそんなにつぶらな瞳で見つめないで」みたいな。 |
井上 |
まあ、恥ずかしながらねぇ。
「決してそのようなものではございません」って、
名刺を配らなきゃいけないようなー……。 |
糸井 |
たけしさんが『北野ファンクラブ』を
ずっとやってますよねえ。
あれも“BAD”な面ですよねえ。
予算少ないのをわざと丸出しにして、
“世界の北野”がやってるわけじゃないよ、みたいな。
ああいうことしないと、壊れるよね、人って。
だけど“逆”は困りますよね。 |
井上 |
「もともとワルで通ってるのに、実は……」という。 |
糸井 |
ワルで通ってるのに、逆をやって、
そっちでオカミサンたちの票田を集めたり、
正義の講演をたくさん引き受けたりってのは、
そういうのを見ると、それ、マズイよねえ。
ワルのほうまでウソっぽく見えてきますよね。 |
井上 |
でも、本当に物事っていうのは難しくてさぁ。
まず、ロックが出てきたってことを
簡単な図式で説明するとさー、
まぁ……「ロックが出てきた」って言葉も変だけど。
なんか……白人のね、白人を中心とした、
たとえばアメリカならアメリカでの
ひとつの統制された世界があったりしてさ、
それから、ジャズとかなんかが
出てくるんだけどぉ……、
そこからまたロックになっていくわけだけど、
アンチ体制みたいなものが出てくる。
ところが、アンチ体制みたいなものが
力を持ちはじめて主流になっていく……。
そこでまた、ホテルの窓からピアノを投げたり、
ギターも投げたりしてみたりね、あと壊すとかね。
まあ、最初はうっかり驚いたりするけど、
2度も3度も続くと、
なんかこう、欺瞞がにおってくるでしょ(笑)。 |
糸井 |
逆欺瞞!(笑) |
井上 |
(笑)「どうも怪しいなコイツら……」、
みたいなものになるよね。 |
糸井 |
だから、そういう人たちは、
文化勲章をもらうときのような……、
子供が生まれたときの態度みたいなのが
問われたりするんだよね。
「それ、子供かわいがってる姿、まずいでしょ」という。 |
井上 |
それで、さっきも言ったように、
たけしさんが、立派な映画の賞をもらったりさぁ、
いろんなことで……、
その対極で北野ファンクラブなのね。
お尻見せたりね。 |
糸井 |
まだ尻見せてるからねー(笑)。 |
井上 |
で、一般的には、それはすごく
拍手を贈るような対象になってて、
「さすがだね」みたいなことなんだけど……。
たけしさんは立派な賞をいただいて、
それだけじゃあ、あれだから、
ちょっとダーティなところもあった方が……、
みたいな構図がさぁ、
まあ、ある種見えるわけじゃない。 |
糸井 |
うあわぁ、そこまで考える。
いやあ、そこまで“BAD”なんですよって
言いたいじゃないですか! |
井上 |
これもまあ、復讐したいわけよね。
そこまで見えた流れになってるのかな、
ってところがね、ちょと自分自身でも……(笑)。 |
糸井 |
「北野ファンクラブ」というところで収まるし、
「陽水おもしろい」ってところで収まるんだけど……。 |
井上 |
人は「さすがねぇ」とか言うんだけど。 |
糸井 |
その二項対立は今はもう通用しないということを、
たけしさん、わかってますよね。
陽水さんにも、その思いあるでしょ。
「じゃあどうすんだ!?」でもないですよね。
さっきの、文化勲章どうする? という話で
答えが出ないのと同じで。 |
井上 |
あの……これは叙勲じゃないけど、
扇千景さんにも驚くんだけどね、
「うそー」みたいなね。
あの、なんていうのかね、
僕の“BAD”とか、「北野ファンクラブ」とか
そんな姑息なことはしないと。
大土俵入りっていうの?(笑) |
糸井 |
そういう点で、すごいと思うのは篠山紀信さん。
あの人は一度だって、“BAD”とか
そういうことはしないけれども、混ぜてますよ。
今度のカタカナ名にしたこともね。 |
井上 |
カタカナ? それ知りませんでした。 |
糸井 |
「シノヤマキシン」というカタカナの名前で
再デビューしたのよ、別におおげさにではなく。
で、チャカチャカっと撮るような、
軽いヌード写真集を5冊くらい一気に出したのよ。
別にそれは、「どうだ!」ってことではなくて、
「こういうのお前ら好きだろう?」って。
と、同時に相撲協会の仕事で、
お相撲さん全員の写真っていうのも
篠山先生が撮ってるんですよ。
お相撲さんをみんな国技館に集めて、
隅から隅までお相撲さんで固めて、
それこそ拡声器を使うようにして、
「はい、撮りまーす!」って指揮をとる。
篠山紀信以外でその仕事できる人いないでしょ?
“GOOD”も“BAD”も超えてるじゃないですか。
(つづく) |