井上 |
あの……糸井さんも、そうかもしれないけどさ、
僕たちってさぁ、どう転んでもね、
マルクス・レーニン主義まで話がいっちゃうんだけど、
ああいう時代の学生運動とかさぁ、
つまり、体制に対しての
ある種の刷り込みってすごいと思うのよ。
「もうそういう構図は変わった」と言いながらも、
それはもう根深いねぇ。
刷り込まれてて……。 |
糸井 |
井上さんでも? |
井上 |
そりゃ、やっぱありますよ。
つまりその……権威とか、大衆に対してね、
基本的に反発してるというのが、
なんて言うのかしらねえ……。
刷り込まれてるのか、
もちろん刷り込みもあるんだけど、
普遍的に正しい視点なのか……、
……どうなんだろうねえ(笑)。 |
糸井 |
ほおー!
そうなるとさー、じゃあやっぱり『傘がない』って
ものすごく大メッセージとして作ったんだ? |
井上 |
いや、そんなものではございません(笑)。 |
糸井 |
いや、そりゃ、逃げられなくなるよ。 |
井上 |
えっ?
『傘がない』が……大メッセージで? |
糸井 |
あの歌を、人々はさんざん、
大メッセージとして使いましたよね。 |
井上 |
まあ、当時みたいに構図がはっきりしてる時代はね。
わかりやすい形で、意味がとれるよねぇ。 |
糸井 |
で、たしかに、あの歌を作る動機なんて
ほかにはないんだからねぇ。
ものすごく大脳が動いて作った歌だとは
言えるとは思っていたけどね。
そこまで、あの時代の影響があると思わなかった。
すっごいびっくりした。 |
井上 |
……なにを言ってるの?
どこでびっくりしたのか……僕はわからない。 |
糸井 |
怒ってますよ、復讐してますよ、あの歌は。
それはね、
「野球部で泥まみれの青春を送っていれば
それはそれで自分で納得できるだろうよ。
デモ隊で殴られたり、パクられたりして、
『正義が……』とか言ってればわかるだろう」と。
「オマエらそこでわかってていいのかよ?」
という復讐心を感じますよ。
「その甘さが俺は許せない」みたいな。 |
井上 |
うーん……、
言われてみれば(笑)。 |
糸井 |
ものすごくプロテストな歌ですよ、『傘がない』は。
で、それを半端に利用する人にさえも、また怒るよね。
さっきの吉行淳之介さんの話じゃないけどね。
で、ブーメランのように自分に戻ってくるから、
「ちょっと今、黙らして」とか……。 |
井上 |
しかしさぁ……、
吉行さんの話がまた出てきたから思いだしたけど、
吉行さん、徴兵検査で合格して、結局は喘息で
4日くらいで除隊するんだけど、
その4日間は大変だったみたい。
吉行さんみたいな人間が軍隊に……、
問答無用の世界に入ってさ、
軍隊なんて想像しただけでゾッとするんだけどさ。
ああいう人が……吉行さんくらい
「イヤなものはイヤだ」って思っている人はいないよ。
まあ、「イヤだ」って言う人はたくさんいるけど、
吉行さんからは「ま、いいか」ってものを
あんまり感じないんだよね。
で、ああいう人が、軍隊という組織の中で……。
あの……俺、ちっちゃい頃から、
軍隊とか野球部とか、ああいうところって、
すごく怖さがあったねぇ。
昔、『二等兵物語』っていうのをよく見てて、
兵隊が上官にいじめられるんだけど、
柱があってさ、「セミやれ!」とか言われて、
「ミンミンミン」とかやるんだけど、
まあ、大変よねぇ……肉体的にも、精神的にも。
ああいうの怖いなーって。 |
糸井 |
……怖いです。
俺もあのへんの映画は怖かったです。
だから、俺、戦争モノはぜんぶ怖かった。
そのうちだんだんと自分の粘膜みたいなものが
皮膚化していって、見られるようになったんだけどね。
「要するに、作り物じゃねえか!」
って思えるようになったんですよ。
で、よーく聞いてみると、
そういうのが怖かった人たちが
表現者という仕事に就いているんです。
で、映画を作るときに、怖く作ったりしてるんですよ。
そういう面もあるんですよね。
「ちょっと楽屋裏をのぞいてみれば……」という。
そういう「怖かった部分を強調している」のを
はがすのも仕事だし。
僕ね、そういう話で大転換があったんです。
『ピラミッド』を観たときなんですよ。
ピラミッドを作ってるシーンが、
軍隊モノ以上に悲惨に出てきたじゃないですか。
必ずヨボヨボの老人が重い石を引いてて、
必ず水が飲みたくなってバッタリ倒れて、
で、必ず若者が「この老人を何とか助けてくれ!」
って言って、2人ともムチで打たれる。
官吏の方はただひたすらに悪いヤツで……。
まあ、ああいうシーンって、けっこう刷り込まれてて、
「ピラミッドなんて、そうでもしないと作れないだろう」
って思ってたんです。
で、エジプトに行って
実際にピラミッドの前に立ったら、
「そんなはずはない!」ってわかったんです。 |
井上 |
それ……すごいねえ。
よくわかったね。 |
糸井 |
「イヤイヤやってる仕事で、これはできない!」と。
そのときに俺ね、大人でよかった、と思ったの。
そのときから、
「ピラミッドを1回は見たほうがいいよ」
って言えるようになったの。 |
井上 |
……実はね、えーと、2、3日前ね、
なんかそういう番組を見てね、
まさしくその、作り方としては、
今話に出た映画みたいでさ、
労働してる老人が水欲しくて倒れて、若者がかばって、
ムチを持った人が「なにをしてんだ、働け!」と。
で、老人を見捨てて石を引っ張ると、
丸太だかピラミッドの石だかが、
倒れた老人の上に乗っかって……。
で、当時はそういう感じで作られたんじゃないかと、
ずーっと言われてたけど、実はそうじゃないんだと。
洪水が起きて、ほとんどの人が仕事をなくして、
当時の王様が、その……民を助けるために、
なんか、そういう事業をしたのであって、
だから、あの……世直し?
人助けみたいな状態だった、って。 |
糸井 |
経済的な視点から見たピラミッドですね。 |
井上 |
ニューディール政策みたいな(笑)。 |
糸井 |
政治経済の視点だ(笑)。 |
井上 |
ただ、その番組は、
ずいぶんそういうふうに決めつけてたから、
それはそれで、僕としても……、
いや、よくあるじゃない、
古い学説が実は違うんだ、なんて言うとさ、
新しい学説が正しいんだ……なんてことになって、
「それはそれで怪しい」と思ったんだけどね(笑)。
(つづく) |