YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第11回 明星とか平凡に“歌本”ってついてたよね

糸井 すごく当たり前の質問ですけど、
今まで何曲くらい作ってるんですか?
自分で知ってますか?
井上 …………。
……うーん。
300曲くらい、あるの?(マネージャーに確認)
いや、だってさ、詩も曲も、っていう歌と、
糸井さんとやったみたいなスタイルもあるし。
糸井 詩だけ、曲だけ、いろいろある。
井上 いろいろありますよ。
だから、全部で300曲くらいありますよ。
……そんなに、ないかなぁ?
300!
糸井 もう作り終わってから、作ってくれ。
井上 そーいうわけには、いかないわけよー。
たとえばさぁ、2、3年前の話なんだけど、
あの……ひょんな拍子に、
アリスの谷村新司っていう人のね、
作曲数はどのくらいか、っていうことがわかって、
「えーっ!」って驚いちゃったの。
正確な数字は覚えてないけど、
たしか、800とかだったねぇ。
大航空母艦みたいな人だよねぇ、
「すっごい飛行機並んでるー」みたいなね。
巡洋艦みたいなのね、俺が(笑)。
糸井 「はっぴゃく〜!?」。
アルバムに入ってる曲数を仮に10としても、
10枚出して100曲ですからねえ。
井上 いや〜、やっぱりねぇ、
作ってる人は作ってるのよ。
糸井 じゃあ井上さんは、多産系ではなかったんだ?
井上 ……寡作だね。
良心があるみたいなさぁ(笑)。
糸井 ちょっとアナタ!
それ、谷村新司さんはどうなるのよ?(笑)
陽水さんの300曲で驚いたけど、
もしかしたら、谷村さんの800曲って、
普通なのかもしれないね、……そう聞くと。
井上 今の話は、数字にするなら、
調べないといけないね。
まあ、たしか、そのくらいの感触よ。
糸井 ……花礼二は何曲くらいかねぇ?
井上 ……花礼二ってさぁー。
すーごい人が出てきたねぇ(笑)。
あの人って知ってた?
糸井 いや、知らなかった。
井上 僕も知らなかった。
糸井 いや、名前は知ってたよ。
何かを作った人ですよ。
で、何かって、ひとつじゃないですよ。
昔、明星とか、平凡に
“歌本”って付録がついてたよね。
それをめくってる間には、
無名時代の安井かずみも出てきたし……、
というような感じがあるじゃないですか。
そういう中に花礼二は入ってますよ。
井上 実は僕、この間はじめてワイドショーで見てね、
お葬式よ、もうマイクたくさんつきつけられて……。
糸井 犯罪者扱いですからね。
井上 聞いてる方も聞いてる方だけど、
花さんもなかなかでさ(笑)。
糸井 どっちもすごかった(笑)。
井上 「あれでしょ? 財産……それで結婚……、
 どうなんですか?」
「(泣きながら)今は(青江)三奈のことしか
 考えられない」って言うわけ。
「ウムー」って思ってさ(笑)。
糸井 (笑)俺も偶然見たけどさ。
井上 「はぁー」と思ってさ。
糸井 すごいよ(笑)。
井上 ……すごいよー。
糸井 いや、ああいうものに対して、
「すごいよ」ってのは、
俺ら全面否定してないですよね。
「すごいよ」って言い方してるじゃないですか(笑)。
“憧れ”という言葉はちがうんだけど、
“羨しい”もちがうんだけど、
なんかねえ……俺、
「なってみたい」という気持ちがあるんですよ(笑)。
井上 あれは、ひとつね、芯の通った男の生き方(笑)。
はっきり立場が決まってて、
むしろ鋼のようなものを感じるというか……。
どう転んだとしても、こう、
蔑まれたり、あきれられたり……、
でも、そういう道をキチッと歩み続けてきてねぇ。
糸井 人間って鍛えれば、ここまでの鋼が、という。
井上 間違ってもこの、
雄々しいとか、責任とったね、とかは……ない。
なかなか!
糸井 「いや、今は(青江)三奈のことしか……」って、
表情を変えずに、軽い演技が入りながら、
ああやって言える……、
ある種毅然ですよ、あれ。
井上 うん、そうだよね。
自然なんだよね、ぜんぜん。
糸井 やっぱ、ちょっと、憧れるんですよ。
いや、憧れじゃないな、なんだろう?
世界にはいろんな動物がいるじゃないですか。
あの形にはなりたくはないんだけど、
「いてほしい」っていう気分?
……だから、あれを簡単に否定する人を見ると、
「オマエ、鏡だよ」って
イヤミを言いたくなるじゃないですか。
「じゃあ、ああなったらオマエどうするのよ?」
そういう目で見ると、
あそこまでの人はそんなにいないよね。
井上 ……あれ、16年か、19年か……、
音信不通だったらしいよ。
糸井 (笑)ずっと思ってたんですよ、16年か19年か。
三奈のことだけを。
ずーっとそれだけを考えて、傷心の日々を、
すごしてたんですよ。
井上 ……そうなるよねぇ(笑)。
糸井 私的には(笑)。
井上 いや〜、やられたなぁ。
まいった。

(つづく)

2000-08-09-WED

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