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井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第13回 それこそ、お金ってことになればさ



糸井 ほんとねえ、温泉じゃないんだけど、
民家でさ……ちょっとくらい交通が不便でもいいし、
とんでもなく遠い場所でなければよくて、
なんかそういう場所が欲しいなあ。
何かで儲からない?
井上 ……(笑)。
糸井 金持ちは、アイデアがないでしょ?
で、いろいろ考える人って
たいして、お金、持ってないでしょ?
そう考えると、
住みやすい事務所や仕事場なんて、ないですよね。
それ、実現したいですよね。
井上 でも、それこそ、お金ってことになればさ……、
……まあ象徴的な話だけどさ、
神棚のとなりに仏壇、みたいなこととかさ、
そういうことを……厭わないという状態じゃないとね。
お金が目的ってことになればね。
ま、それはほんと象徴的な話で。
ところでさ、あの、JTっていうの?
この間、酒飲みながら話していたらさ、
たばこ公社っていうのが、
遺伝子がどうのこうので、
前立腺の癌を治すために、
いろいろやってるって話だよ。
糸井 JTが?
井上 ま、酒場での話だから……。
「へえー」って聞いてたんだけど。
で、ちょっと新聞で、
株価なんかをときどき見るようになって……、
癌を治すって話が原因かどうかは、
実際にはわからないけど……、
なんとなく、こう上がってきてて、
じゃあ、あの話ってのは本当なのかなぁ、とかね。
なんてことを考えたりして。
つまり、お金が儲かるっていうのはさ、
あの……なんて言うのかな(笑)、
たとえば、どこかの株を買って、
それで……ってことだって、あり得るわけだよね?
糸井 あり得ますよね。
将来的にはそうなっていくんじゃないですかね。
みんなが株を持ってて、仕事はしてて、
それぞれが発展した会社の株を持っていれば、
自分の仕事のほかに収入がある、みたいな。
そういう形にたぶんなるんだろうなぁ、と思いますね。
今、社会にいちばん足りないのは、
ものを作る仕組みの方じゃなくて、買い手ですから。
買い手を作るというのがすべてですから、
それは、みんなが株を普通に買うように
なっていくんじゃないかなぁ……。
井上 それから、あれだと思うよね、
今の話は世の中の構造の話だと思うけど、
やっぱり、それでお金を儲けるってことは、
日常の生活としてさ……、
お金を大きく動かしてる人たちと、
しょっちゅう食事とかさ、おつきあいとかさ、
そうすることが、基本的な生活のパターンに
なるんだと思うのよね。
糸井 うん、そうだろうね。
井上 そうじゃないと、やっぱり、
そういう意味での大きなビジネスってのは、
あの、なんかこう、
面白いものを発明したりとか、作ったりして、
「ヒットしたー!」というのは、
ポツポツは、あるかもしれないけど……、
大きなお金ををある程度普遍的にするというのは
そういう生活になってるんでしょうね。
「友だちもそうだよ」みたいな。
糸井 そうでしょうねえ。
いわゆる、そのための社交があるんでしょうね。
実際そうなってるんじゃないんですか。
学生さんたちがベンチャーだとかって言ってるけど、
ものすごく名刺交換に熱心ですよ。
「誰と誰の名刺を持ってるのが強い」とかさ。
でも、名刺を渡したほうは、
そんな本気で渡してないですよね。
学生さんが「名刺ください」って言うのを聞くと、
「仕事してからね」とか言うよ、俺。
俺の名刺なんか何の役にも立たないんだけど、
もし俺が、なんとかバンクの社長とかだったら、
使うよねえ、ヤツら。
あまり綺麗なものを感じないんですよ。
「名刺ください」を学生から言われるって感じ悪いよ。
井上 僕はあんまり、そういう経験ないけど。
糸井 ないよね、普通はね。
俺もごく最近ですよ。
で、すごくイヤな気持ちになって……。
いや、2回くらいあったんだよ。
井上 「名刺ください」ってヤツね。
それは、見え見えで使うんだろうな。
使うって……具体的に、
どういうことなのかしら?
糸井 べつに使わなくてもいいんだけど、
サインを持ってるよりは、
名刺を持ってるほうが、
彼の格は上ですよね。
井上 名刺を持ってることで?
糸井 つきあいがあるってことになる。
井上 つきあいがあるってことを、
どういう状況で、他者に知らしめるわけ?
糸井 言えばいいんでしょ。
井上 「俺、昨日、イトイさんと会ってさー」
「えっ、イトイさんと知りあいなのー?」
「うん、ちょっとつきあいがあってさー」
……ってなこと?
糸井 「うん、ちょっと知ってるんだよ」
なんて言うのよ。
例が俺の名刺だから、わかりにくいけど、
たとえば、ソフトバンクの孫正義の名刺だったら、
ものすごくわかりやすいじゃないですか。
井上 「きのう、ちょっと、孫さんと会ってさ」
「えっ! なんで、なんでー?」
「いや、まあね……」
って感じなのかしら(笑)。
糸井 「それって、なーに?」って感じするよねえ。
昔は学生さんは、そういうことしなかったでしょ?
井上 ……いや、知らないけど(笑)。
糸井 まあ、僕も知らないけど(笑)。
だから、若い子の有名願望っていうのが
昔と比べて、ものすごく増えたなあ……と。
「有名になりたい!」と公言する子の数が
年々増えてる感じがするんですよ。
それについても考えてたのよ。
それってボードゲームで言うと、
「いいコマのボードゲームで遊びたい」
ってことですよね。
お金持ちがいっぱい出てくるゲームと、
近所のおじさん、おばさんしか出てこないゲームでは、
ボードそのものの価値が変わるじゃないですか。
「いろんな有名な人が出てくるボードで
 オレはゲームをしていたいんだ」
ってことなのかなあ……と思ったんですよね。
あの、やめちゃうのも平気じゃないですか、有名を。
モーニング娘。の人たちとか。
井上 そうだね。
糸井 「ああ、こういう遊びだったのか」って感じ
するじゃないですか。
井上 あっさりね。
糸井 だから、ステータスではなくて、
遊び場にどんな豪華な友だちを呼ぶかというのが、
たぶん今彼らの欲望の中で
すごく大きい部分なんじゃないかな。
だから、ディスコみたいなところでも、
あ、ディスコって言葉はもうないのか。
クラブか……、そのクラブの有名人を知ってるって
すごく得意そうですよね。
「えっ! 山崎さんを知ってるの?」
「知ってるよ、仲いいよー」って。
なんでもいいんですよ、ブランドパワー。
井上さんは、つきあいの場を
とっても上手に使ってますよね。
安全で、のんびりできて……みたいな。
「いや、楽しかったです」というような。

(つづく)

2000-08-17-THU

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