糸井 |
ほんとねえ、温泉じゃないんだけど、
民家でさ……ちょっとくらい交通が不便でもいいし、
とんでもなく遠い場所でなければよくて、
なんかそういう場所が欲しいなあ。
何かで儲からない? |
井上 |
……(笑)。 |
糸井 |
金持ちは、アイデアがないでしょ?
で、いろいろ考える人って
たいして、お金、持ってないでしょ?
そう考えると、
住みやすい事務所や仕事場なんて、ないですよね。
それ、実現したいですよね。 |
井上 |
でも、それこそ、お金ってことになればさ……、
……まあ象徴的な話だけどさ、
神棚のとなりに仏壇、みたいなこととかさ、
そういうことを……厭わないという状態じゃないとね。
お金が目的ってことになればね。
ま、それはほんと象徴的な話で。
ところでさ、あの、JTっていうの?
この間、酒飲みながら話していたらさ、
たばこ公社っていうのが、
遺伝子がどうのこうので、
前立腺の癌を治すために、
いろいろやってるって話だよ。 |
糸井 |
JTが? |
井上 |
ま、酒場での話だから……。
「へえー」って聞いてたんだけど。
で、ちょっと新聞で、
株価なんかをときどき見るようになって……、
癌を治すって話が原因かどうかは、
実際にはわからないけど……、
なんとなく、こう上がってきてて、
じゃあ、あの話ってのは本当なのかなぁ、とかね。
なんてことを考えたりして。
つまり、お金が儲かるっていうのはさ、
あの……なんて言うのかな(笑)、
たとえば、どこかの株を買って、
それで……ってことだって、あり得るわけだよね? |
糸井 |
あり得ますよね。
将来的にはそうなっていくんじゃないですかね。
みんなが株を持ってて、仕事はしてて、
それぞれが発展した会社の株を持っていれば、
自分の仕事のほかに収入がある、みたいな。
そういう形にたぶんなるんだろうなぁ、と思いますね。
今、社会にいちばん足りないのは、
ものを作る仕組みの方じゃなくて、買い手ですから。
買い手を作るというのがすべてですから、
それは、みんなが株を普通に買うように
なっていくんじゃないかなぁ……。 |
井上 |
それから、あれだと思うよね、
今の話は世の中の構造の話だと思うけど、
やっぱり、それでお金を儲けるってことは、
日常の生活としてさ……、
お金を大きく動かしてる人たちと、
しょっちゅう食事とかさ、おつきあいとかさ、
そうすることが、基本的な生活のパターンに
なるんだと思うのよね。 |
糸井 |
うん、そうだろうね。 |
井上 |
そうじゃないと、やっぱり、
そういう意味での大きなビジネスってのは、
あの、なんかこう、
面白いものを発明したりとか、作ったりして、
「ヒットしたー!」というのは、
ポツポツは、あるかもしれないけど……、
大きなお金ををある程度普遍的にするというのは
そういう生活になってるんでしょうね。
「友だちもそうだよ」みたいな。 |
糸井 |
そうでしょうねえ。
いわゆる、そのための社交があるんでしょうね。
実際そうなってるんじゃないんですか。
学生さんたちがベンチャーだとかって言ってるけど、
ものすごく名刺交換に熱心ですよ。
「誰と誰の名刺を持ってるのが強い」とかさ。
でも、名刺を渡したほうは、
そんな本気で渡してないですよね。
学生さんが「名刺ください」って言うのを聞くと、
「仕事してからね」とか言うよ、俺。
俺の名刺なんか何の役にも立たないんだけど、
もし俺が、なんとかバンクの社長とかだったら、
使うよねえ、ヤツら。
あまり綺麗なものを感じないんですよ。
「名刺ください」を学生から言われるって感じ悪いよ。 |
井上 |
僕はあんまり、そういう経験ないけど。 |
糸井 |
ないよね、普通はね。
俺もごく最近ですよ。
で、すごくイヤな気持ちになって……。
いや、2回くらいあったんだよ。 |
井上 |
「名刺ください」ってヤツね。
それは、見え見えで使うんだろうな。
使うって……具体的に、
どういうことなのかしら? |
糸井 |
べつに使わなくてもいいんだけど、
サインを持ってるよりは、
名刺を持ってるほうが、
彼の格は上ですよね。 |
井上 |
名刺を持ってることで? |
糸井 |
つきあいがあるってことになる。 |
井上 |
つきあいがあるってことを、
どういう状況で、他者に知らしめるわけ? |
糸井 |
言えばいいんでしょ。 |
井上 |
「俺、昨日、イトイさんと会ってさー」
「えっ、イトイさんと知りあいなのー?」
「うん、ちょっとつきあいがあってさー」
……ってなこと? |
糸井 |
「うん、ちょっと知ってるんだよ」
なんて言うのよ。
例が俺の名刺だから、わかりにくいけど、
たとえば、ソフトバンクの孫正義の名刺だったら、
ものすごくわかりやすいじゃないですか。 |
井上 |
「きのう、ちょっと、孫さんと会ってさ」
「えっ! なんで、なんでー?」
「いや、まあね……」
って感じなのかしら(笑)。 |
糸井 |
「それって、なーに?」って感じするよねえ。
昔は学生さんは、そういうことしなかったでしょ? |
井上 |
……いや、知らないけど(笑)。 |
糸井 |
まあ、僕も知らないけど(笑)。
だから、若い子の有名願望っていうのが
昔と比べて、ものすごく増えたなあ……と。
「有名になりたい!」と公言する子の数が
年々増えてる感じがするんですよ。
それについても考えてたのよ。
それってボードゲームで言うと、
「いいコマのボードゲームで遊びたい」
ってことですよね。
お金持ちがいっぱい出てくるゲームと、
近所のおじさん、おばさんしか出てこないゲームでは、
ボードそのものの価値が変わるじゃないですか。
「いろんな有名な人が出てくるボードで
オレはゲームをしていたいんだ」
ってことなのかなあ……と思ったんですよね。
あの、やめちゃうのも平気じゃないですか、有名を。
モーニング娘。の人たちとか。 |
井上 |
そうだね。 |
糸井 |
「ああ、こういう遊びだったのか」って感じ
するじゃないですか。 |
井上 |
あっさりね。 |
糸井 |
だから、ステータスではなくて、
遊び場にどんな豪華な友だちを呼ぶかというのが、
たぶん今彼らの欲望の中で
すごく大きい部分なんじゃないかな。
だから、ディスコみたいなところでも、
あ、ディスコって言葉はもうないのか。
クラブか……、そのクラブの有名人を知ってるって
すごく得意そうですよね。
「えっ! 山崎さんを知ってるの?」
「知ってるよ、仲いいよー」って。
なんでもいいんですよ、ブランドパワー。
井上さんは、つきあいの場を
とっても上手に使ってますよね。
安全で、のんびりできて……みたいな。
「いや、楽しかったです」というような。
(つづく) |