井上 |
今日は、人に贈る『GOLDEN BAD』のCDに
サインをしてて。
Fさんの名前があって……、
「聴かないだろーなー」と思って(笑)。 |
糸井 |
聴くよ、たぶん。 |
井上 |
いや〜、聴かないでしょ(笑)。 |
糸井 |
でね、なんか一言、言うよ。
「あれは、ルネッサンス期の……なんとか」とか、
「メディチ家に対する反乱だな、陽水の」とか(笑)。 |
井上 |
(笑)。 |
糸井 |
こっちも答えようがないから、
「ああ、そうとも言えますよね、わっはっは」なんて、
めんどくさくなって(笑)。 |
井上 |
俺から見てると、
まあ、Fさんなんていうと、
いわば大御所だよね。
で、ときどきお酒を一緒に飲むじゃない。
そういう時に、糸井さんの、
Fさんとの対話なんかみてると、
「糸井さん、さすがだなあ」って思うよ。 |
糸井 |
僕はFさんのことをすごく好きな人なんだけど、
えらい人だとかは思ってないから。
あの……、そういうのは、僕ラクなんです。
僕がアガるのは、スポーツ選手! とくに野球。
さらに言うと、ユニフォームを来てる状態!(笑)
あれは、アガっちゃう。
もう奉っちゃって。
なるべく、自然にしてようと思うんだけど、
心の中で「素晴らしい神々」
って感じになっちゃって……。
あと、ステージ直後の歌手!
井上さんのステージが仮にあったとしますよね。
さっきまでステージに立っていたという状態で、
こっちは客席で見てて、
後で楽屋で会ったとしたら、
その瞬間はアガるのを抑えるのが大変。
アナタは、おありにならないでしょ?
そういうの。 |
井上 |
いやいや……。
吉行淳之介さんとか、阿佐田哲也さんとかさ。 |
糸井 |
それ、尊敬ってヤツですかね? |
井上 |
金縛り状態だからね。
……なにもしゃべれなくなったりして(笑)。
もう、笑っちゃうくらい。 |
糸井 |
それは、笑っちゃうねえ。
で、向こうはどうせ井上さんのことを、
変なヤツだと思ってるから……(笑)。 |
井上 |
まあ、僕がしゃべれないとしても、
向こうは「どうしたの?」とは言わないけどね(笑)。 |
糸井 |
たとえば、そういう時に、吉行さんが、
「1曲唄ってくれたらいいなぁ……」
ということを、ポツリと言っちゃったら、
逆に井上さんは気がラクになるんじゃないの? |
井上 |
それは……そうだね。
「へぇー、面白いこと言う人だな」って
僕はそのときに初めて思えるからね。 |
糸井 |
その二人(吉行さんと阿佐田さん)は、
井上さんにとって特別だね。
昔からよーく話に出てくるもんね。 |
井上 |
うん、なんだかねえ……。
前にも、吉行さんと車の中で二人きりになってさ、
まいっちゃってさ……、息苦しい……(笑)。 |
糸井 |
それはさ、井上さんが吉行文学を読み込んだから、
とかじゃないよね(笑)? |
井上 |
いや、そんなことなぁーいのよ。 |
糸井 |
吉行さんの存在ですよね? |
井上 |
それこそ、読んでない……というかね。 |
糸井 |
せいぜい、何冊か、ですよね。 |
井上 |
いや〜もうほんとに、
特に小説とか……試みるんだけど、読めない(笑)。
なんだかねぇ……。
阿佐田さんは、もうあんな調子だからねぇ。 |
糸井 |
黒鉄ヒロシさんは、平気なんですか? |
井上 |
「黒鉄さんは平気」っていうのは、
黒鉄さんが彼らに対してってこと?
僕から見ると、黒鉄さんは、
やっぱり相当レベル高いなあ、と。
つまり、彼らだって、こちらが押し黙ってたら、
基本的には困るわけよ。
そういう意味では、黒鉄さんは、
適当にチャチャを入れ……、
適当におだてたり……、
適当に「年寄りめ」とか言って頭叩いたり……、
ま、いろいろワザがある。
黒鉄さんはうまいよ、やっぱり。
だから僕は、黒鉄さんの後ろに隠れて、突破口を(笑)。
僕からは、それこそ、電話にしろ……、
お宅におじゃまするにしろ……、
もう山みたいに高い敷居だから、できないんだけど。
ま、黒鉄さんがうまくドアを開けてくれて。 |
糸井 |
じゃ、黒鉄さんがいなければダメなんだ? |
井上 |
……ダメでした。 |
糸井 |
たとえばさ、僕の場合で言うと、
“憧れの人”が横尾忠則さんだったんですよ。
すっごく憧れてたから、
若いときは会えるチャンスのときに
お断りしてたんですよ。
つまり、僕には会う資格ないって気持ちで。
で、自分が何かできるようになったとき、
会える機会がほんとに来たときには
会えるんだろうなぁと思って。
それで、何回も断ったんですよね。
断ったって言うと、生意気ですね(笑)。 |
井上 |
「ご辞退申し上げる」。 |
糸井 |
そうですね。
で、そういう時期があって、会えることになった時に、
「憧れからくる固さみたいなものって迷惑なんだ」
というようなことを、
横尾さんが僕に上手に言ってくれたか、
感じさせてくれたかしたんですよ。
で、とっても素敵なことだなぁ、と思って、
横尾さんはとても遠かったはずなのに、
横に座れるような気分になったんですよ。
今でも、尊敬してるし、憧れのままですよ、
だけど、隣に座って、
「またバカなことを言う……」って突っ込まないと、
わるいなぁと思ったし、言えるようになったんですよ。
で、それは、どうしてかな? と思ったら、
横尾さんの奥さんがいた!
で、奥さんが、横尾さんと僕を
上手につないでくれたんですよ。
つまり、「ウチではしょうがねぇオヤジなんですよ」
っていうのを表現してくれるから、
「そうですかぁ」という返す刀で横尾さんを
見ることができたので、……助かりましたね。
横尾さんてね“口うるさい”んです(笑)。
で、“口うるさい”って言葉を発見したのは僕なんです。
それまでは「なんかむずかしい人だ」とか、
「こわい人だ」とか言われてたのが、
「早い話が、横尾さんは
口うるさいだけなんですね」と(笑)。
で、そう言われることで、
横尾さんが楽になったんですよ。
「そう、僕は口うるさいから……」ってことで、
悪気はなくて、口うるさいだけなんだ、
ってところで、成仏したんですよ(笑)。
あれはあれで、目下の者の大きな仕事だなあ、と。
まあ、ダウンタウンで言えば、
浜ちゃんがツッコミを入れるのと似てますよ。
だから、井上さんの場合も、
吉行さんの奥さんが、その場に一緒にいて、
「そーなんですよ」って言ったら、
陽水さんも大丈夫だったかもしれないですね。
だって、こっちがジッと黙って固くなってるのを、
向こうも見てるって、わかるじゃないですか。 |
井上 |
そうねぇ(笑)。 |
糸井 |
相手が自分をどう見てるかにもよりますよね。
武満さんと会うのは平気だったんですか?
(つづく) |