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井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第18回 レコード全体の悩みを抱えてますね

糸井 ……話を“BAD”に戻しましょうか。
長い話になってきてますけど。
……BADの話は、もういいか?
井上 うん(笑)。
糸井 いや、でもさー、なんかちょっと話そうよ。
「いっぱい売りたい」と思わないで
作ることってないですよね?
もの作る人って、やっぱり、
できることならば世界中の人みんなに
聴いてほしいですよね?
でも「BAD」ってタイトルにしちゃうと
「いや、もう売れるのは少なくていいや」
みたいに聞こえますよね。
そのへんは、どんな感じなんですか?
「まあ、少ないだろうなあ」と思ってるんですか?
「井上陽水の気持ちが伝わるのは少ない」と(笑)。
井上 んー、まあ、そりゃそうだよねぇ……、
というのは、その、少ないだろうなぁという感じね。
ま、『GOLDEN BAD』をパッと見て、
「知ってる曲なんてない」みたいなアルバムだしね。
だからそういう意味では、
売れるってのは難しいアルバム……。
糸井 どういうところで聴いたらうれしいですか?(笑)
井上 え? 場所?(笑)
糸井 たとえば、パチンコ屋で流れてきたら、
うれしいだとかさー。
うれしくもないのかなあ?
井上 いやぁ(笑)。
あのねー、
「どういうところで聴いてもらえたらうれしい」
とかってことは、あまり考えないけど……、
でもねえ、
「こういうのって車の中で聴くの?」
「うーん……」
「じゃ、なに? 部屋で?」
「じゃ、ちょっと今日は、聴いてみよっかな!」
とかね(笑)。
……そんなことでもないだろうし、
どういう時に聴くんだろう???
特に今回は年配者みたいな人たちにとっては、
けっこううるさいし、それから、
「そういえば、あんな時代があったなぁ……」
というアングルもないわけよ。
「この歌が流れていた時代は、
 僕も就職活動で……」とかは、ない(笑)。
糸井 (笑)ないない。
井上 じゃあ、どこで聴くんだろう?
……みたいになってさ(笑)。
糸井 おもしろいねえ。
それってレコード全体の悩みだね、今。
『GOLDEN BAD』は
レコード全体の悩みを抱えてますね。
井上 え? 「レコード全体」というと?
糸井 つまり、音楽を仕事にしてたら、
聴かれたいと思って作ってますよね、当然。
井上 でもね、聴かれたいと思って作ってるけど、
……そのところを今日ちょっと検証したいんだけどさ。
あの〜、やっぱり糸井さんが
長いことやってた仕事ってさー、
ほんとに視聴者が、反応しないと、商売にならない。
もちろんこっちもそうなんだけど。
糸井さんの仕事は、そこらへんのバランスが
相当大きいんじゃないかな、と思って。
直接的だし……。
糸井 それは今、僕も考えたんだけど、
昨日、見城徹さんと話してたら、見城さんは、
「全部ミリオンセラーにする」って思ってるんだって。
で、それを聞いたときに
「それは極端だな」って、俺、思ったんですよ。
で、井上さんと話していると、
ゼロとは言わないけれども、
それは……あんまり考えてないよね。
作家の立場と、その作家をサポートする立場と、
2つの両極端の話をしたんですよ、昨日と今日で。
で、「俺はどうなんだ?」って考えると、
正直に言うと、しょっちゅう違う。
で、僕は今、井上さんと話しているときは、
「売る手伝いをする立場」でしゃべってますよ。
作ってる立場でしゃべってないですよ。
で、僕の本のことだとか、
僕の名前が出ちゃうようなものについて話すときは、
「いや、ぜんぜん考えてない」(笑)。
さらに言うと、たとえば、
僕がメインで番組作りを始めたときのことを考えると、
「これ、誰も見ないよ」とか言うよ……、平気で。
作家の立場と、作家をサポートする立場、
この往復運動は僕をひどく疲れさせてるね。
井上 あの〜、ほら、当然いろんな段階があってさ、
そちらだと何になるのかな……。
俺の場合は、要するに、
曲を作り終える時や、唄い終える時、
そういう時までは、まるで、そんな、
「この曲、好意もたれるかしら?」とかさ、
「どの世代が中心なのかしら?」とか、
全然考えないよね。
糸井 ないよね、確かに。
井上 ま、ひとり、自分というチェッカーがいて、
「これは、あんまりにもひどい」
「ここを変えよう」とかさ。
そのあたりの段階になると、
「こういう状態なんだけど、
 この曲を発売すると、どうなんだろう?」
ってことは少し考えるかもね。
糸井 それね、作り手としては僕と同じですよ、
ほんとのこと言って。
だけど、それを引き受ける立場になる仕事が
もう一回あるんだな。ポール仕事だよね。
で、ポール仕事でギャランティーされてるのか、
ジョン仕事でギャランティーされてるのか、
わかんないんですよ。
井上 確かに、微妙なところだね。
で、糸井さんは、
「こういうふうにCF作ろうよ」ってときに、
作ってる途中の段階で、
クライアントとか、代理店の人たちが、
「これでいいんですけど、これ、今の女の子たちは
 どう感じるんでしょうかね?」
なんて言われて、
「ああ……そうだねえ。
 じゃあこの色にしちゃう?」
なんていう作業がねぇ……。
糸井 やりますよねえ。
そういう仕事もやるし、
そう言われて、僕が突っぱねるにしても、
そういう作業をやってるってことですよね。
言われた段階で、もう吟味に入っちゃうわけですから。
で、それを言われ始めたらキリがないなぁ、ってことで、
「そのあたりを言うのは、全部ダメねー」
という防御膜をはるのも仕事ですよね。
つまり、
「いいか悪いかの話をしてるときに
 赤か黒かの話なんかしないでくれ」と、
突っぱねるときもある。
でも、同時に、それは心に残ってますから、
夜、ひとりで、赤か黒かについて考えますよね。
井上 多くの人の意見を取り入れたら、
多くの人が望む結果になるか、って言ったら、
また別だからねえ。

(つづく)

2000-08-28-MON

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