井上 |
多くの人の意見を取り入れたら、
多くの人が望む結果になるか、って言ったら、
また別だからねえ。 |
糸井 |
ぜんぜん別です!
で、みなさんの仰せのとおりにやってると、
「つまーんなーい」って言われるわけですよ。
インターネットやってると、もっとそうだよ。
普通のメールと、楽しいメールを100通読んでる時に、
不愉快なメールが1通あったとしますよね、
で、それは、鈍いから意地悪なのか、
意地悪だから意地悪なのかは問わないです。
とにかく、「せっかく読んでるのに……」
とか書かれるだけで、胸に突き刺さるんですよ。
「がっがりです」って書かれたりするんですよ、
何かのことに対して。
たとえばさ、
「井上陽水さんのレコード買いました。
楽しみにして聴いたら、
ナニナニという歌詞がありました。
こんなこと考える人だとは信じられませんでした。
がっかりです」
というようなメールを直に読んでごらんよ。
それまでに、1000通の、ごきげんなメールを読んでても
なんかもう、その日1日おしまいよね。
つまり、楽しいパーティー会場で、
ひとりゲロ吐いた人がいるだけで、
思い出はみんなゲロになってしまう、みたいな(笑)。
でも、よくよく考えてみると、
そのメールはその人の愛情だったかもしれないし……、
という想像をしていくと、身がもたなくなるんですよ。 |
井上 |
うん、そうでしょうねぇ。 |
糸井 |
それを今、「ほぼ日」で毎日体験するわけですよね。
で、本当にこれは怒っていいんだな、ってときに、
怒ったりすると、またそれに反応しますよね。
じゃあ、どうしたらいいんだ? って考えると、
鉄面皮になるしかないんですよね。
つまり、「花礼二に学べ」になるんですよ(笑)。 |
井上 |
(笑)。 |
糸井 |
「あれはあれで、あの人生だね」
という距離の取り方みたいなのが……、
「もっと自分に自信を持て」とか、
よく言われるじゃないですか、僕らの世代。
でも、花礼二じゃない方法で、
しっかり自分を守れているのは? って考えると、
奥田民生くんとか……。
奥田くんはきっと悪口言われても平気でしょ、
って思えるんですよ。
あと、見ない……。そんなものは。 |
井上 |
見ない、ってのはあるかもしれないね。 |
糸井 |
イヤなものを見ないシステムを作る。
で、井上さんだったら、
「どーんなこと言われてるわけぇ?」とか、
「たまには1通見てさぁ、……水準を」
とか言って、見ちゃいそうな気がしますねぇ。
「いや、見ないんだけど、基本的には……」
とか言いながら(笑)。
……俺たちの、この弱さ!
つまり、なんかどっかのところで
サービスしたいって気持ちが
あるんですよね、たっぷりと。 |
井上 |
うん。 |
糸井 |
と同時に、そういうことじゃなく、
わがままに走らなきゃならない、という。
そこを、行ったり来たりしてるわけですよ。
僕らのそういう気持ちを見抜いたのが
Fさんなんですよね。仕事をしていくうちにね。
「花礼二に一瞬なれ!」と、
酔っ払って、肩をたたきに来る役だったんですよ。
「これ、いいじゃないか! いい! いい!」
ってFさんが言ったら、いいんだよね……それで。
そういうところを学んだことありますよ、僕。
「ストップ! ストップ、兄ちゃん」とか。
……昔、車のCMのときに、僕が陽水さんに言った、
「悪いようにはしないから」なんかも、
思えば、Fさんのテクですよね。
もう、考えてたらキリがないんだから(笑)。 |
井上 |
わっはっは(笑)。 |
糸井 |
テクというか、尊敬したんでしょうね。
だって、会議をさんざんさせといて、
Fさん来るはずだったのに、来ないんだよ。
「どーなってるんだ?」って電話もよこさない(笑)。
で、「もういいや、来ないからやめようか」って頃に、
本当に酔っ払って、千鳥足で、
折り詰めみたいなの持って、
「どう! できたー?」って来るんだよ。
Fさんがいないと困る会議で(笑)。 |
井上 |
わっはっは(笑)。 |
糸井 |
で、「うーん、だから、いいってことだ!」
なんて言って。 |
井上 |
ああ、やっぱ、すごいレベルだね(笑)。 |
糸井 |
で、それはねぇ、
自分では、なかなかできないのは、わかってるから、
もうほんとに困ったときには、
よく使う「時間切れ」と同じように、
後ろが断崖絶壁のときに、
何かを諦めるかどうかを決めるひと言が
あるわけですよ、つまり、
「もう、俺をいっそ嫌いと言ってくれ」
みたいな話ですよ、ラブのときに(笑)。
で、そういう言葉が、不意をついて出てくるわけだよ。
そういう局面ってあるでしょ?
いくら井上でも。 |
井上 |
え? ……どういう意味? |
糸井 |
ない、とは言わせたくないんだけど(笑)。 |
井上 |
なにそれ? |
糸井 |
「いっそ俺を嫌いと言ってくれ」みたいなさ。
……「どっちなんだ?」って決断を迫られたときに。 |
井上 |
俺って、そういう局面は……。 |
糸井 |
逃げに逃げた? |
井上 |
それって、なにか言わなきゃいけない、って立場?
それとも、相手の気持ちを本当に知りたい時? |
糸井 |
両方ありますよね。
(つづく) |