YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第19回 もう、考えてたらキリがないんだから



井上 多くの人の意見を取り入れたら、
多くの人が望む結果になるか、って言ったら、
また別だからねえ。
糸井 ぜんぜん別です!
で、みなさんの仰せのとおりにやってると、
「つまーんなーい」って言われるわけですよ。
インターネットやってると、もっとそうだよ。
普通のメールと、楽しいメールを100通読んでる時に、
不愉快なメールが1通あったとしますよね、
で、それは、鈍いから意地悪なのか、
意地悪だから意地悪なのかは問わないです。
とにかく、「せっかく読んでるのに……」
とか書かれるだけで、胸に突き刺さるんですよ。
「がっがりです」って書かれたりするんですよ、
何かのことに対して。
たとえばさ、
「井上陽水さんのレコード買いました。
 楽しみにして聴いたら、
 ナニナニという歌詞がありました。
 こんなこと考える人だとは信じられませんでした。
 がっかりです」
というようなメールを直に読んでごらんよ。
それまでに、1000通の、ごきげんなメールを読んでても
なんかもう、その日1日おしまいよね。
つまり、楽しいパーティー会場で、
ひとりゲロ吐いた人がいるだけで、
思い出はみんなゲロになってしまう、みたいな(笑)。
でも、よくよく考えてみると、
そのメールはその人の愛情だったかもしれないし……、
という想像をしていくと、身がもたなくなるんですよ。
井上 うん、そうでしょうねぇ。
糸井 それを今、「ほぼ日」で毎日体験するわけですよね。
で、本当にこれは怒っていいんだな、ってときに、
怒ったりすると、またそれに反応しますよね。
じゃあ、どうしたらいいんだ? って考えると、
鉄面皮になるしかないんですよね。
つまり、「花礼二に学べ」になるんですよ(笑)。
井上 (笑)。
糸井 「あれはあれで、あの人生だね」
という距離の取り方みたいなのが……、
「もっと自分に自信を持て」とか、
よく言われるじゃないですか、僕らの世代。
でも、花礼二じゃない方法で、
しっかり自分を守れているのは? って考えると、
奥田民生くんとか……。
奥田くんはきっと悪口言われても平気でしょ、
って思えるんですよ。
あと、見ない……。そんなものは。
井上 見ない、ってのはあるかもしれないね。
糸井 イヤなものを見ないシステムを作る。
で、井上さんだったら、
「どーんなこと言われてるわけぇ?」とか、
「たまには1通見てさぁ、……水準を」
とか言って、見ちゃいそうな気がしますねぇ。
「いや、見ないんだけど、基本的には……」
とか言いながら(笑)。
……俺たちの、この弱さ!
つまり、なんかどっかのところで
サービスしたいって気持ちが
あるんですよね、たっぷりと。
井上 うん。
糸井 と同時に、そういうことじゃなく、
わがままに走らなきゃならない、という。
そこを、行ったり来たりしてるわけですよ。
僕らのそういう気持ちを見抜いたのが
Fさんなんですよね。仕事をしていくうちにね。
「花礼二に一瞬なれ!」と、
酔っ払って、肩をたたきに来る役だったんですよ。
「これ、いいじゃないか! いい! いい!」
ってFさんが言ったら、いいんだよね……それで。
そういうところを学んだことありますよ、僕。
「ストップ! ストップ、兄ちゃん」とか。
……昔、車のCMのときに、僕が陽水さんに言った、
「悪いようにはしないから」なんかも、
思えば、Fさんのテクですよね。
もう、考えてたらキリがないんだから(笑)。
井上 わっはっは(笑)。
糸井 テクというか、尊敬したんでしょうね。
だって、会議をさんざんさせといて、
Fさん来るはずだったのに、来ないんだよ。
「どーなってるんだ?」って電話もよこさない(笑)。
で、「もういいや、来ないからやめようか」って頃に、
本当に酔っ払って、千鳥足で、
折り詰めみたいなの持って、
「どう! できたー?」って来るんだよ。
Fさんがいないと困る会議で(笑)。
井上 わっはっは(笑)。
糸井 で、「うーん、だから、いいってことだ!」
なんて言って。
井上 ああ、やっぱ、すごいレベルだね(笑)。
糸井 で、それはねぇ、
自分では、なかなかできないのは、わかってるから、
もうほんとに困ったときには、
よく使う「時間切れ」と同じように、
後ろが断崖絶壁のときに、
何かを諦めるかどうかを決めるひと言が
あるわけですよ、つまり、
「もう、俺をいっそ嫌いと言ってくれ」
みたいな話ですよ、ラブのときに(笑)。
で、そういう言葉が、不意をついて出てくるわけだよ。
そういう局面ってあるでしょ?
いくら井上でも。
井上 え? ……どういう意味?
糸井 ない、とは言わせたくないんだけど(笑)。
井上 なにそれ?
糸井 「いっそ俺を嫌いと言ってくれ」みたいなさ。
……「どっちなんだ?」って決断を迫られたときに。
井上 俺って、そういう局面は……。
糸井 逃げに逃げた?
井上 それって、なにか言わなきゃいけない、って立場?
それとも、相手の気持ちを本当に知りたい時?
糸井 両方ありますよね。

(つづく)

2000-08-30-TUE

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