よしもとばななさんのミコノスのとくべつな休暇

	ばななさんはハワイにもよく行かれてますよね。 ‥‥すみません、さきほどからセーターの文字が目に入っちゃって。
	（笑）やっぱり、聞いとかないとね。
	ハワイもすーごくいいところですよ。だけど、ギリシャほど独自の文化というものに触れられないように思う。
	あれ、でも、ばななさんはフラもなさってて。
	うん、フラはあるけど、一般の人はなかなかフラに接する機会がないですよ。日本舞踊をイメージしてもらえば一番いいかな。だってほら、普通に歩いていて日本舞踊の先生にも会わないし突然「少しだけやってみなさい」とも言われないし。それと同じ。
	なるほど。
	ハワイで文化に触れようと思ったら、自分が取りに行かないといけない。あと、いつも例に出してしまうけどカプリとか、サルデーニャとか、イビサとかも取りに行くとこだからね。何かを、自分から。
	「今日は、これを見よう」というふうに決めておかなくちゃいけないということですか？
	そう。「ここに行こう」とか、「こういうふうに過ごそう」というのをきっちり決めておかないとたのしめない。でもミコノスは行ったら行ったでなんとかなるような場所だし、そこがすごくいいと思います。
	そう言われてみると、そうですね。旅行に行く友人に「ミコノスで何したらいい？」と聞かれても「泳いだり、食べたり、歩いたり」というアドバイスしかできないかも‥‥。
	うん、ビーチ側に泊まってビーチ中心にするか、街に泊まって街中心にするかっていうのだけは選ばなきゃいけないけど、あとは、どんな人でも楽しめると思います。１日中ホテルにいる人もいっぱいいました。昼間、ホテルの部屋を掃除するときだけプールサイドに行って、またホテルに戻ってごろごろして‥‥というような。しかも、本当にダラッとしていられるっていうか。
	「これをしなきゃ」というのがとくにないですよね。
	そう、だからそれぞれの趣味に合った過ごし方ができますよね。クラブ好きはクラブに行けばいいし、ナンパしたければすればいいし。ただし男同士ばっかりだけど！
	（笑）
	ほかにもバリや沖縄など、いろんなリゾート地に行かれていますけど、これはミコノスだけ、というものはありますか？
	やっぱり「色」じゃないですか。あの白と青のコントラストはやっぱりすごいです。
	あぁ、白壁も、毎年ちゃんと塗り直してますし。
▲教会も真っ白です。
	塗り直してますよね。あれはもう、ギリシャならでは。あの冷たい海の色も鮮やかで。それから、港は港で、ビーチはビーチで、それぞれに景色がちがうからそういう意味で飽きないです。
	内陸のほうに車やバスで入っていくと、また景色も変わりますよね。
	うん、内陸には本当にふつうの村があったり。
	へぇ～。
▲内陸部には、羊も放牧されていて、のどかな風景が広がっています。
	まぁ、景色だけでいったらもっといいところもいっぱいあるんですけど、ミコノスは、すべてのバランスがちょうどいい。ミコノスに来る人たちのなかにはお金持ちもいっぱいいますけど、お金持ちのためだけにあるわけじゃないリゾート地。そんな場所だと思います。
	私も最初に行ったのが大学時代で、かなり貧乏旅行をしましたが、それでも十分に楽しめました。
	うん、そういう意味でいろんな過ごし方ができるから、幅が広くてどんな人も受け入れてくれる場所だなと思います。お金持ちも、ベタベタの観光客も、ゲイカップルも、家族連れも、すべてを受け入れてくれる。何ていうんだろう、緊張感がそんなになくてみんなが本当にリラックスしに来てるとこだなっていう感じがします。安全じゃないんじゃないか、って心配しなくていいし。
	はい。あの真っ白い空間にいると、人は悪いことできないんじゃないか、みたいな気分になります。
	この場所でだけはみんな、「いい人でいよう」という雰囲気があるのがいいですね。バカンスの時だけの、とくべつな期間だと割り切ってるような感じ。
	ずっといい話ばかり聞いているんですけど、ミコノスで、何か嫌な思いをされたことはありますか？
	それは、もちろんありますよ。レンタカーの馬力が足りなくて坂道をゆっくり登ったりしてると、「ゆっくり登ってんじゃねえよ」みたいな人もいたし。そういう意味では、嫌な思いもいっぱい。でも、だいたいは平和ですけどね。そうだ、これはあくまで私の印象ですけど、ギリシャ人、かなり嫉妬深いと思います。
	何かあったんですか？
	ビーチ側にいたときに、やることがなくてマッサージでも受けようと思ったんです。ホテルのスパにいた女性がかなりマッサージが上手で、みんなでその人のとこに通い続けていたら、他の店員さんが「なんであの人ばっかり指名するの？」「何よ。私だったら、今すぐ入れるのよ！」って、すごい怒りはじめちゃって。
	実力の差なのに。
	そうでしょ。なんかね、そういうのを平気でいう感じがしましたね。
	たしかに、思ったことをバッと言う国民性かも‥‥。
	もう言うだけ言って、怒って去って行った‥‥みたいな。フロントの人も、「あの人の指名が多くて、　みんな焼きもち焼くんだよ」って言っていた（笑）。アイリーンさんという人なんだけど、私たち、いつも順番にアイリーンさんに頼んでいました。もう天才かと思うくらい、上手で。
	へぇ～。
	ミコノスは、お友達も一緒に行かれてるんですよね。
	そうですね。イタリアの友人カップルやスペインから来た友達、それから前回は、イラストレーターの大野舞ちゃんも一緒に行きました。舞ちゃんは、ご両親が新婚旅行でミコノスに行った思い出の場所なんだそうです。それで、ご両親に、「これを着て同じ場所で写真を撮ってこい」と言われたそうで、「ミコノス」と描かれたご両親の古いＴシャツを着て写真を撮っていました（笑）。昔の写真を見ながら「これと同じポーズで撮らなくちゃ」って真剣にやっているのが、すっごくおかしかったです。でもなんか、そういうふうにずーっと同じ場所があるっていうのもいいなと思いました。
	そうですね。不景気のせいもあってお店の入れ替わりは激しいですけど、街の風景自体は何年経っても変わらないですね。
	うん。昔の写真を見せてもらったけど、まったく変わらない感じでしたね。きっとこれからも変わらないんだろうなという気がします。やっぱりギリシャ文化って奥が深いというか、あんなにたくさん哲学者が出たのもわかるなあっていうか、これはオリーブの木の下で語らい合いたくもなるよな、って思います。
（つづきます）

2014-03-20-THU

	ばななさんはハワイにもよく行かれてますよね。 ‥‥すみません、さきほどからセーターの文字が目に入っちゃって。
	（笑）やっぱり、聞いとかないとね。
	ハワイもすーごくいいところですよ。だけど、ギリシャほど独自の文化というものに触れられないように思う。
	あれ、でも、ばななさんはフラもなさってて。
	うん、フラはあるけど、一般の人はなかなかフラに接する機会がないですよ。日本舞踊をイメージしてもらえば一番いいかな。だってほら、普通に歩いていて日本舞踊の先生にも会わないし突然「少しだけやってみなさい」とも言われないし。それと同じ。
	なるほど。
	ハワイで文化に触れようと思ったら、自分が取りに行かないといけない。あと、いつも例に出してしまうけどカプリとか、サルデーニャとか、イビサとかも取りに行くとこだからね。何かを、自分から。
	「今日は、これを見よう」というふうに決めておかなくちゃいけないということですか？
	そう。「ここに行こう」とか、「こういうふうに過ごそう」というのをきっちり決めておかないとたのしめない。でもミコノスは行ったら行ったでなんとかなるような場所だし、そこがすごくいいと思います。
	そう言われてみると、そうですね。旅行に行く友人に「ミコノスで何したらいい？」と聞かれても「泳いだり、食べたり、歩いたり」というアドバイスしかできないかも‥‥。
	うん、ビーチ側に泊まってビーチ中心にするか、街に泊まって街中心にするかっていうのだけは選ばなきゃいけないけど、あとは、どんな人でも楽しめると思います。１日中ホテルにいる人もいっぱいいました。昼間、ホテルの部屋を掃除するときだけプールサイドに行って、またホテルに戻ってごろごろして‥‥というような。しかも、本当にダラッとしていられるっていうか。
	「これをしなきゃ」というのがとくにないですよね。
	そう、だからそれぞれの趣味に合った過ごし方ができますよね。クラブ好きはクラブに行けばいいし、ナンパしたければすればいいし。ただし男同士ばっかりだけど！
	（笑）
	ほかにもバリや沖縄など、いろんなリゾート地に行かれていますけど、これはミコノスだけ、というものはありますか？
	やっぱり「色」じゃないですか。あの白と青のコントラストはやっぱりすごいです。
	あぁ、白壁も、毎年ちゃんと塗り直してますし。
▲教会も真っ白です。
	塗り直してますよね。あれはもう、ギリシャならでは。あの冷たい海の色も鮮やかで。それから、港は港で、ビーチはビーチで、それぞれに景色がちがうからそういう意味で飽きないです。
	内陸のほうに車やバスで入っていくと、また景色も変わりますよね。
	うん、内陸には本当にふつうの村があったり。
	へぇ～。
▲内陸部には、羊も放牧されていて、のどかな風景が広がっています。
	まぁ、景色だけでいったらもっといいところもいっぱいあるんですけど、ミコノスは、すべてのバランスがちょうどいい。ミコノスに来る人たちのなかにはお金持ちもいっぱいいますけど、お金持ちのためだけにあるわけじゃないリゾート地。そんな場所だと思います。
	私も最初に行ったのが大学時代で、かなり貧乏旅行をしましたが、それでも十分に楽しめました。
	うん、そういう意味でいろんな過ごし方ができるから、幅が広くてどんな人も受け入れてくれる場所だなと思います。お金持ちも、ベタベタの観光客も、ゲイカップルも、家族連れも、すべてを受け入れてくれる。何ていうんだろう、緊張感がそんなになくてみんなが本当にリラックスしに来てるとこだなっていう感じがします。安全じゃないんじゃないか、って心配しなくていいし。
	はい。あの真っ白い空間にいると、人は悪いことできないんじゃないか、みたいな気分になります。
	この場所でだけはみんな、「いい人でいよう」という雰囲気があるのがいいですね。バカンスの時だけの、とくべつな期間だと割り切ってるような感じ。
	ずっといい話ばかり聞いているんですけど、ミコノスで、何か嫌な思いをされたことはありますか？
	それは、もちろんありますよ。レンタカーの馬力が足りなくて坂道をゆっくり登ったりしてると、「ゆっくり登ってんじゃねえよ」みたいな人もいたし。そういう意味では、嫌な思いもいっぱい。でも、だいたいは平和ですけどね。そうだ、これはあくまで私の印象ですけど、ギリシャ人、かなり嫉妬深いと思います。
	何かあったんですか？
	ビーチ側にいたときに、やることがなくてマッサージでも受けようと思ったんです。ホテルのスパにいた女性がかなりマッサージが上手で、みんなでその人のとこに通い続けていたら、他の店員さんが「なんであの人ばっかり指名するの？」「何よ。私だったら、今すぐ入れるのよ！」って、すごい怒りはじめちゃって。
	実力の差なのに。
	そうでしょ。なんかね、そういうのを平気でいう感じがしましたね。
	たしかに、思ったことをバッと言う国民性かも‥‥。
	もう言うだけ言って、怒って去って行った‥‥みたいな。フロントの人も、「あの人の指名が多くて、　みんな焼きもち焼くんだよ」って言っていた（笑）。アイリーンさんという人なんだけど、私たち、いつも順番にアイリーンさんに頼んでいました。もう天才かと思うくらい、上手で。
	へぇ～。
	ミコノスは、お友達も一緒に行かれてるんですよね。
	そうですね。イタリアの友人カップルやスペインから来た友達、それから前回は、イラストレーターの大野舞ちゃんも一緒に行きました。舞ちゃんは、ご両親が新婚旅行でミコノスに行った思い出の場所なんだそうです。それで、ご両親に、「これを着て同じ場所で写真を撮ってこい」と言われたそうで、「ミコノス」と描かれたご両親の古いＴシャツを着て写真を撮っていました（笑）。昔の写真を見ながら「これと同じポーズで撮らなくちゃ」って真剣にやっているのが、すっごくおかしかったです。でもなんか、そういうふうにずーっと同じ場所があるっていうのもいいなと思いました。
	そうですね。不景気のせいもあってお店の入れ替わりは激しいですけど、街の風景自体は何年経っても変わらないですね。
	うん。昔の写真を見せてもらったけど、まったく変わらない感じでしたね。きっとこれからも変わらないんだろうなという気がします。やっぱりギリシャ文化って奥が深いというか、あんなにたくさん哲学者が出たのもわかるなあっていうか、これはオリーブの木の下で語らい合いたくもなるよな、って思います。
（つづきます）