糸井 |
会社や組織って、
だんだんひとりの人間みたいに
ある種の人格を持つようになってくる、
ってぼくはよく言うんだけど、
国だって同じなんですよね。
御手洗さんのブログを読んでいると、
ブータンを「人」として
感じられるような気がしたんですよ。
だから、いい面もあって、
そうじゃない面もあって。
|
|
御手洗 |
はい。
|
糸井 |
たとえばぼくがなにも知らずにブータンに行って、
ホテルから美しい風景を見ていたとしたら、
「ここに左袖を切ったクリーニング屋があるぞ」
ってことは思わないわけです。
|
御手洗 |
ふふふ。
|
糸井 |
美しい風景も、袖を切っちゃうクリーニング屋も、
すべてが並行して存在している。
それが、あなたがブータンで働いたおかげで
ぼくらに伝わったんですよ。
|
御手洗 |
人間くさいところも、
一緒に存在している。
|
糸井 |
うん。
たとえば、ブータンに行ったとき、
とても熱心に「夜這い」の話を
してくれたおじいさんがいましたよね。 |
御手洗 |
はい(笑)。
|
|
糸井 |
もし、どこかの新聞社の人が
あのおじいさんを取材したとしたら、
「ブータンの農業を変えた西岡京治さんという
日本人に仕えたブータン人」
として紹介されるわけですよね。
伝統を守り、みんなに慕われていて、
ときどき日本人の訪問を受け、
国際交流している立派な老人‥‥なんですよ。
|
御手洗 |
立派な方ですが、
それだけではないですよね。
|
糸井 |
ねえ。
彼は、立派な農家であると同時に、
夜這いの話を、あんなにうれしそうに語る人で。
|
御手洗 |
あはははは。
|
糸井 |
よかったなぁ、あのおじいさんは(笑)。
|
御手洗 |
よかったですねぇ(笑)。
ブータンの人は、そういうふうに、
両面あるのが当然といいますか、
あんまり役割に徹しきらない気がします。
たとえばこの前国王が来日されたとき、
ブータンでお世話になった政府の方々もいらしていて、
かしこまった場のはしっこの方で
立ち話をしていたんですけど、
そのときの話というのは、
「たまこ、ブータンで彼氏できた? 夜這い受けた?」
とかで(笑)。
|
|
糸井 |
役割じゃなく、本音の方で。
|
御手洗 |
かしこまった場なのに、
そんな話をひそひそしながら笑っていて(笑)。
|
糸井 |
しょうがないねぇ(笑)。
だからぼくはブータンのことを
「老人の国」だなって思うんですよ。
だって、ジジイって、
本当はふざけたことばっかり考えていますよね。
|
御手洗 |
たしかに。
子どもがふざけているのとは違って、
わかっているのに、ふざけている。
|
糸井 |
そうなんです、ひと回りしているんです。
だからといって、ふざけてばかりいるわけでもない。
びしっとすばらしい仕事もする。
と同時に、ただのオヤジの面も見せちゃう。
|
御手洗 |
そうですね。
ブータンはまさにそんな感じかもしれません。
|
糸井 |
そういう意味では、御手洗さんは、
油断されたのがよかったんじゃないでしょうか。
ちっちゃいし。
|
御手洗 |
背が小さいからですか(笑)。
|
糸井 |
うん。それでトクしたと思う。
|
|
御手洗 |
(笑)たしかに、外国から来ているのに、
まったく気はつかわれなかったですね。
ブータンに着いたあと、すぐに社員旅行があって、
はじめて上司と話したんですけど、いきなり、
「たまこ、ブータンのMBAって知ってるか」
って訊かれたんです。
「なんですか?」って言ったら、
「Married But Available
(結婚しているけどお相手可能!)だよ」って。
|
糸井 |
最初から(笑)。
|
御手洗 |
はい。最初からなぜか、そういう仲間内の
ふざけた輪に入れてもらっていました。
それでも、仕事がはじまったら、
ものすごく真面目に働いている。
でも、仕事の話の合間に、
「それよりさ、たまこ、YouTubeに
おもしろい映像があるの見た?」
なんてはじまったりします。
ブータンのお役所ですから、
お城のなかで、ブータンの民族衣装を着て、
「YouTube見た?」「どれどれ」って(笑)。
|
|
糸井 |
「お城」っていうあたりがいいよね。
|
御手洗 |
真面目なときは真面目なんですけどねぇ‥‥。
(つづきます) |