糸井 ぼくらがブータンを訪れたのは、
震災からまだ2か月しか経ってないころで、
ほんとは、行くのをやめようかと思っていたんです。
つまり、「そんな場合か?」っていう
雰囲気がありましたから。
御手洗 はい。
糸井 そういう我慢をしてもしょうがないんだけど、
なかなか、流れとしてはきついものがあって。
でも、行って、ほんとによかったですね。
頭の中をチェンジするのにすごくいい機会でした。
御手洗 どういうふうにチェンジできたのでしょうか。
糸井 自分にとって発見だったのは、
「強くないものの生き延びかた」
とでもいうのかな。
ぼくらがふだん考えている「強さ」とは
ぜんぜん関係ないところで、生きている。
その当たり前な感じが、うれしかったですね。
それは、案内してくれた御手洗さんにも
同じように教えられた感じがしたんです。
だって、20代の日本人の女性が国家公務員として
たったひとりでブータンを紹介しているんだから。
御手洗 (笑)
糸井 だから、ブータンに行ったことをきっかけに、
強いものじゃない人の戦略というか、
いままでの「強さ、弱さ」とは違う文脈で
いろんなことをとらえることが
できるようになったと思います。
最近は、気仙沼に行ったりしているから、
そういうことを考えるのにすごく役だっている。
御手洗 私も帰国してから東北に行ってるんですけど、
ブータンの人たちと、
東北でがんばってる人たちって、
通ずるものがあるような気がするんですよ。
糸井 あ、そうかもしれない。
みんなじゃないけど、似てますね。
御手洗 はい。
気仙沼の方々にも、とても感じます。
堂々としていて、
本質的なところで前向きで。
それから、すごく地に足のついた、
実践的なものをもとに考えるのだけれど、
哲学的な部分もあり、
表面的な言葉でごまかさないところなど。
糸井 いい人はみんなそうだ、とも言えますね。
ぼくらがいま会っている、
復興のためにがんばってる人もそうで、
やっぱりリーダーシップを持っている人が
責任感を持って立ち上がっている。
御手洗 すばらしいですよね。
ただブータンの場合は、
なにもやってない人でも、
自信満々なんですけどね。
糸井 それもすごいですよね。
そのへんは学びたいなぁ。
御手洗 ブータン人の、あの自信は
どこから来るのかなぁと思います。
糸井 ある人が言っていたんですが、
「年を取っても元気で活躍している人に
 共通しているのは、激しいまでの自己肯定力」
だそうですよ。
「みんなが俺の話を聞きたがっている」という感じで。
でも、それは、恥ずかしいことみたいに
思い過ぎないほうがいいなって思うんです。
御手洗 そうですね。
糸井 御手洗さんも、
ブータンについて書いたことが本になり、
いろんな取材を受ける中で、戸惑ったり、
困ったりすることもあるかもしれませんが
しっかり自己肯定したほうがいいですよ。
御手洗 ありがとうございます(笑)。
困っているというか、なんだか、不思議な感じがしています。
自分としては、これまでに関わったいろんな仕事を、
すべて大事なことだと思っていますが
そのうちひとつだけが
急にピックアップされている気がして。
糸井 ああ、なるほど‥‥。
たまたまそれがブータンだったと。
御手洗 はい。
ブータンに行って、
そこには課題があり、自分が役に立てそうなことがあった。
これまでの仕事と同じように、
やるべきことを一生懸命やった。
それだけなんです。
でもそれは、ブータンの前にしていた仕事でも、
帰国して今している仕事でも、同じです。
個人的には、ブータンが大好きですし
特別な思い出なのですが、
仕事という意味では、すべての仕事が同じように大事で、
ブータンだけが特別ではないと言いますか。
‥‥‥‥いま、
「言っちゃった」と思いましたけど。
糸井 すーごく、流れるように言いましたね。
「さよなら」って言うときみたいでしたね。
御手洗 (笑)
糸井 「アイ・ミス・ユー」じゃなくて、サラッと。
御手洗 はい。
糸井 あの、御手洗さんのブータンについての本、
‥‥なんでしたっけ?
御手洗 『ブータン、これでいいのだ』です(笑)。
糸井 いいタイトルですね(笑)。
その本も、読む人次第では、
十分にビジネス本として読めると思いますよ。
ぼくにとってブータンへの旅は、
明らかに仕事の役に立っているもの。
御手洗 そうなんですか。うれしいです。
糸井 だから、その本のタイトルじゃないけど、
御手洗さんがブータンに行ったのは
ほんとによかったんじゃないかなぁと思いますね。
御手洗 ありがとうございます。
糸井 ま、ぼくと伸坊がやった
「黄昏 ブータン編」っていうコンテンツは
ビジネスにはまったく役立たないとは思うけど。
御手洗 (笑)
  (おわり)

 

2012-03-07-WED