自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

景ちゃんの自転車 その2

それから1年以上たって、
藤田さんは自転車屋を辞めて、
レストランで働くようになりました。
その頃の彼女は暗中模索だったようで、
自分が本当にやりたいこと、
それはオリジナルの3輪車を作ることなんですが、
そのためにどうするのか、という方法が見えない時期でした。
溶接の免許を取ろうとか、
やるべきこと、学ばなくてはいけないことと、
日々の生活の中で自分に可能なこととの、
折り合いが付けられず、苦しんでいたんです。
彼女のお姉さんが言うには、

「あの頃は、よく落ち込んでて、
 秩父の山奥にでも引っ越して
 のんびり暮らしたいって言ってたのよ。」

とのこと。
(この頃は、僕のところにも
 よく酔っ払って電話をかけて来て、
 何度も閉口させられたもんです)

でも、レストランで働いていることも、
決して彼女にマイナスではありませんでした。
そこで培った人間関係が、彼女の新しい局面を切り拓きます。
お店でバイトする若い女の子が、彼女の自転車姿を見て、
私も1台自転車が欲しいと言いました。
早速彼女は、知り合いのところに行って、
乗らなくなった自転車をもらい受けてきました。

昔から、古い自転車を直すのは好きだったし、
自転車屋さんで働くことによって、
自転車をキチッと調整する技術も手に入れていました。
ごくごく一般的な自転車に、大きな星のステッカーを貼り、
ハンドルには可愛いグリップを取り付けました。
そんな簡単なことだけど、
もう乗る人のいなくなっていた自転車は、
その女の子スペシャルな1台に生まれ変わったんです。
かかった費用は6000円。
藤田さんは実費のみを受け取りました。
でも、彼女はその金額以上に、
新しいアイデアの種も受け取ったのです。
それが、去年の10月のことでした。

古くて、もう乗る人のいなくなった自転車でも、
フレームなどの基本的なパーツがしっかりしていれば、
塗装を塗りなおし、安全に関わる部分を新しいものに換え、
グリップ、サドル、ペダルなどをセンス良く合わせれば、
その自転車を生まれ変わらせることができる。
今誰かさんが乗っている自転車だって、
買った時のまんまだったパーツを
ほんのちょっと交換するだけで、
もっとその人の雰囲気に合った自転車にすることができる。
彼女は、そういう点に関して
絶対的といっていいほどの自信を持っています。
これは、小さいけれど面白い商売になるんじゃないか?
そんなことを彼女は考え始めました。

その翌日、本当に幸運な偶然が彼女に舞い込みます。
以前勤めていた自転車屋さんの関係で、
まだまだ十分乗れるのにも関わらず、
廃棄処分になってしまう運命の自転車を手に入れたんです。
プジョーの、ごくありふれた自転車。
フレームには凹み1つなく、
車輪がダメになっているだけの状態でした。
これが、彼女の自転車再生計画、最初の1台となりました。

とりあえず、自転車を完全に分解し、
ハクリ材を使って塗装をすべて落とします。
作業は自分の部屋、小さな畳敷きのワンルームと、
そのアパートの敷地内、階段の下などで行われました。


BE−PAL3月号より転載
撮影:井上六郎氏

続きます。

Ride Safe!

2002-03-17-SUN

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