自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

(自転車)売れたよー!

1月のある日、
藤田さんが弾んだ声で僕の携帯に電話してきました。
第1号機が売れたのです。

買った人の話を聞いてみたいと思った僕は、
藤田さんに、一緒に飲む機会があったら教えて、
と連絡しました。
それから1ヶ月ほどたったある日、
ついにその人の話を聞ける時がきました。

少し遅れてお店に着くと、
もう奥のテーブルには藤田さんを含めた、
数人の人たちがいて、楽しそうに話しています。
自転車を置いてくれたお店のナナさんも
少し遅れて駆けつけてくれました。
奥に男性がひとり、
その人が彼女の自転車を買った人だと紹介されました。
似てる!
実は、藤田さんがこんな話をするのを聞いてたのです。

「スッゴイカッコいい人だった、
 ジャン・レノそっくり!!」

紹介された猿山さんは、確かにジャン・レノそっくり。
本人もそういわれることがよくあると言ってました。
六本木で外人の女性に声かけられたり、
浅草で弁当買おうとしたら、
お店のおばちゃんに言われたこともあるそうです。

猿山さんは、現在49歳。
アパレル関係の仕事をされていて、
参宮橋の自宅から恵比寿のオフィスまで、
自転車で通勤している、とのこと。
大体距離は4〜5キロでしょうか。
変速のない自転車の方が体力がつくと言って、
これまでは変速の無いママチャリに乗ってました。
メッセンジャーを抜いたことも何度かあると、
ちょっと自慢げに話してました。
(メッセンジャーだって、仕事を持っていない時は
 のんびり走ることもありますよぉ。)

「最初見た時に買おうと決めてたんだけど、1度待ってみた。
 売れてちゃってるかなぁ、と思って、
 1ヵ月後行ってみたら、まだそこにあったんだよ。」

猿山さんは、こんなことも言いました。

「モノを買っていうのは、
 人とのつながりを買うんだよね。
 この自転車を買うことで、
 人と出会える気がしたんだよ。」

うんうんうん!

猿山さんは、袖をまくって腕時計を見せてくれました。
大ぶりのアナログ時計に、幅広の皮ベルト。
そのベルトも、
ふと入った青山の皮製品のお店でオーダーしたもの。
とにかくその人の仕事振りが気に入ったそうです。

「義務としての消費もあるんだよ。」

そんなことを言う猿山さん。
横にいた奥さんが話し始めました。

「でも、歩いていると、本当に自転車が怖い。
 私は今日始めて景ちゃんに会って、
 景ちゃんのこと大好きになったけど、
 でも、東京みたいに人も自転車もいっぱいなところで、
 ハンドルの長い自転車は危ないと思うの。
 だから、そういう自転車も作って欲しい。」

あはは、まったくその通り。
厳しい発言だけど、否定はできません。
猿山さんも、奥さんの意見を取り入れたのか、
藤田さんに頼んで
自転車のハンドルを若干短くしてもらったそうです。
たぶん、猿山さんは家に持って帰った時、
その自転車のことをいっぱい話したんでしょうね。

一緒にテーブルを囲んでいた、
猿山さんの友人で、
やはりアパレル関係の男性がこう言いました。

「この人、ラフォーレに行っちゃうからね。」

確かに。
原宿ラフォーレは、10〜20代向けのお店がほとんどで、
40台の男性には、ちょっと入りにくいところです。
同業者の目から見ても、
猿山さんのフットワークはオドロキのようです。
そして、ラフォーレに行ったからこそ、
藤田さんの自転車を発見することになったんですね。

僕は猿山さんに聞きます。
職業柄、街に出て情報や、
その時の空気を知る必要がありますよね。
その時の移動ツールは、どうして自転車なんですか?

「クルマじゃあんまり寄り道できないし、
 歩けばもっと寄り道できるんだけど・・・、
 時間も大事だからね。」

寄り道したいが時間も大事、
折り合いつけることが可能な自転車というツール。
奥さんが話した、自転車の危険性の問題は、
今すぐに解決できることではありませんが、
猿山さんのようなバランス感覚の持ち主が
自転車の便利さ・楽しさに気づいていって、
ジンワリ変わっていくことなんじゃないか、
最近はそんな風に思えて仕方ありません。

気がつくと藤田さんが携帯電話を持って、
何やら嬉しそうに話しています。
BE−PALの記事を見て協力したいと言ってきた、
神奈川の塗装屋さんとの連絡がようやくついたそうです。
今作っているビーチクルーザー(もちろん中古)の塗装で
悪戦苦闘していた彼女にとって、願ってもない申し出です。

「私は幸せものだぁ。」

けっこう酔っぱらった藤田さんは、
何度もそんなことを言っていました。



Ride Safe!

2002-03-28-THU

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