HOBO NIKKAN ITOI SHINBUNHobonichi Books
書影 装画・ヨシタケシンスケ
糸井重里が1年間に書いた言葉から、こころに残ることばを集めてつくる本、小さいことばシリーズ最新作。 こどもは古くならない。糸井重里

『こどもは古くならない。』について

永田泰大

糸井重里のことばを集めた新しい本ができました。
いい本になりました。
今年の本も、手応えがあります。

タイトルは
『こどもは古くならない。』。

偶然ですが、今回の本は「こども」にまつわる
さまざまなことが重なりました。

本のタイトルはいつも糸井重里が決めます。
ただ、どのタイミングで決まるかわかりません。
編集作業がはじまる前に決まっているときもあるし、
もう、入稿が迫ってきました、というときに
えいやっ、と決まったりすることもあります。

この本のタイトルは、ひとまず、決まらないまま、
製作がスタートしました。
順を追っていうと、最初に決まったのは、
ヨシタケシンスケさんに装画をお願いすることでした。

ご存知のようにヨシタケシンスケさんの作品には、
いつもとびきりチャーミングなこどもが描かれています。
しかし、ヨシタケさんにお願いしたときは、
「こども」をキーワードにした本になるとは、
まだ決まっていなかったのです。

本のなかに収録される糸井重里のことばは、
彼が書いた1年分の原稿とツイートから選ばれます。
したがって、できあがる本には、
糸井重里の「ある1年」が
色濃く反映されることになります。

この本は、糸井重里の「2019年」が反映された本です。
その前年、糸井重里の娘さんに娘さんが生まれました。
2019年、赤ん坊はこどもに成長し、
きっとさまざまな発見があったのだと思います。
糸井重里は、孫に当たる彼女をテキストのなかで
しばしば「娘の娘」と表現します。

糸井重里が、その子について書くときのスタンスは、
つぎの一文によく表れています。

 しょっちゅうにならないように、
  気をつけながらも、
  娘の娘のことを書きたくなる。 

そう、あまり書きすぎないように、
というのが糸井重里の方針だったと思います。
ですから、彼が「娘の娘」について、
たくさん書いているという印象が
ぼくにはありませんでした。

ところが、1年分のことばを集めてみると、
糸井重里は、「娘の娘」について、
あるいは「こども」や「赤ん坊」について
思いのほかたっぷりと書いていました。

しかも、そのどれもがおもしろいのです。
エッセイとして、提言として、ユーモアとして、
どのことばもとても優れていて、
読んでいると、なるほどそうかと腑に落ちたり、
ついにやにや笑ったりしてしまう。

ひろく「こども」について書かれたそれらのテキストは、
はっきりとこの本のハイライトで、
ぼくはそれをまとめてこの本の真ん中に配置しました。

そして、本を編集しながら、
そうか、この本は、糸井重里が
「こども」という存在に向き合った本なのだな、
と感じはじめたころ、
糸井重里が本にタイトルをつけたのです。

『こどもは古くならない。』

そして、そのタイトルをすぐに
ヨシタケシンスケさんにお伝えしたところ、
ヨシタケさんは本のカバーを飾っている
あのチャーミングなこどもたちを描いたのです。

それで、この本のテーマは、
いつの間にか「こども」に決まっていました。

本を読んでいたければわかるのですが、
「こども」について考え、
「こども」について書くというのは、
「こども」に終始するどころか、
思いのダイナミックレンジを大きく広げます。

「こども」を考えることは、
「死」を考えることですし、
「命」や「ライフ」を考えることだと思います。
「未来」を考え、「成長」を考え、
「家族」を考え、「友だち」を考え、
この「世界」全体を考えることだと思います。

これまでの「小さいことば」シリーズ同様、
仕事のことばも、野球のことばも、
孤独についてのことばも、芸術についてのことばも、
冗談やダジャレも、詩や物語もたくさん掲載されています。
そのうえで、「こども」というきっかけから広がった、
糸井重里の豊かな世界がこの本には収められています。

毎年、同じことを言っているようで恐縮ですが、
でもやっぱり同じように言います。

とてもいい本ができました。
『こどもは古くならない。』を、
ぜひ、手にとって、読んでみてください。

2021年7月
永田泰大(ほぼ日刊イトイ新聞)

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