糸井重里がほぼ日刊イトイ新聞に書いた
1年分の原稿のなかから、
こころに残ることばを選りすぐってつくった本。
それが、去年出した『小さいことばを歌う場所』と、
今年発売した『思い出したら、思い出になった。』です。
この2冊の本にまつわる思い出を
いろんなかたちで取りあげていきます。
今回は、『小さいことばを歌う場所』について、
坂本美雨さんに書いていただきました。
お気に入りのことばをたくさん挙げてくださいましたよ。





このギンガム本が好きです。

手触りが好き。
横の水色が好き。

時折インクがまだらなところが好き。

糸井さんは、
いつだって歌ってるんだなっていう気がしました。

こんなに書いて、案じて、また書いて、って
糸井さんが毎日やってらっしゃることは、
頭の中のことでもパソコンの前のことでもなく、
散歩しながら
ふんふんふん、って歌っていること、なんですね。

それから、この歌われていることば達は、
糸井さんの「考えの、途中」という気もする。

だから、連想ゲームみたいに、自分の記憶とか、風景とか、
思ってることとかにつながっていく。

ふんふんふーん、
ってどっかから鼻歌が聞こえてきたら、
そのあとのメロディーを
勝手に自分でつけちゃったりする感じ。

(だから、結局自分のことを書いてしまうこと、
 お許しください。)


「ことばは、いつも気持ちに足りない。
 そんな気がしているから、みんなが
 ことばをトゥマッチにしたがるんでしょうね。」
(15ページより)

グサッときました。

自分の書く文章の中で、
気付いているんだけどやめられないことのひとつ。

「すごく」とか「ものすごく」とか
「とても」とか「ほんとうに」とか

そういう、強調の言葉を乱用してしまう。

どれだけ自分の気持ちが強いか、って
言い表せない、伝えきれないっていつも思う。

これだけ気持ちが溢れているのに、
普通に「好きです」だけじゃ悔しい。
こんなに好きって気持ちが暴れてるのに!
そんなもんじゃないよ?!

そこで、追っかけっこが始まります。


どうしたらいいのでしょうか。
青さなんでしょうか。

シンプルな研ぎすまされた言葉の中で、
想いがガツンと、ドシンと重みを持って伝わる、
もしくは
ストンと小石が落ちるように入ってくる、
そういう文章は確かにあるのに、
もどかしくてたまりません。

"すごくすごく病"、治るかなぁ。

追っかけっこには、いつも負けます。


「好き嫌い関係なく、
 叶姉妹が登場すると
 ついつい画面を見てしまう自分。」
(77ぺージより)

あ、同じです。

わたしは、速水もこみちさんもそうです。

なんか、全体的にロボットみたい‥‥
と思いながら、ついつい見てしまう。


「男って、ほめられたい一心で、
 たいがいのことはやるもんなんですよ。」
(194ぺージより)

本当ですか?!

なんて可愛い。

ごめんなさいあんまり褒めてなくて。

これからはいっぱい褒めます。

人を褒めるなんて偉そう‥‥
なんて思わずに、褒めたいと思います。


「問題は、吐くこと。
 吐けないと思ってから、さらに吐く。
 吐いて、吐いて吐き出しつくすと、
 しょうがなく吸うことになる。
 ここで、吸えということだ。」
(206ページより)

小学校の、体育のマラソンの授業の時、
先生が教えてくれました。

『細胞っていうのは、
 いっぱいになったままじゃもう入れないだろ。
 走っている時、ついいっぱい吸おうとするだろうが、
 まず吐け。
 苦しくなったら、まず、もう一回吐け。』

その言葉が、なぜかずっと離れない。

走るたび、泳ぐたび、
息苦しいと思うたび、
必ずよぎる言葉です。

あの時の先生は、
本当にいいことを教えてくれたとつくづく思う。

吸って、吐く。

「歌」もそれだけのこと。

才能あるとかないとか、
経験があるとかないとか。

自分はつくづく空っぽだなぁと思うけど、
だいたい自分の中身にあるものなんて
人に見せてもしょうがないものだなぁと思ってしまう。
(それでも見せようとする性分だから
 この職業なのかもしれないけど)

でもやはり歌は、吐いて、吸って、
息にのせてなにかが上に昇ってくだけのこと。

呼吸が、歌です。

だから、才能とかわからないけど、
体がある限り、たぶん歌ってていいんじゃないか、と思って
続けることにしました。

糸井さんもやっぱり毎日、歌っているんだと思いました。


「ぼくは、なぜだかわからないけれど
 『あいつを呼ぼうぜ』と言われる人がいいと思っている。
 結果はわからないけれど、自分の子どもにも
 そんなふうに育ってほしいと願ってきたし、
 知り合いの若い人たちにも、言う機会があれば、
 そう言ってきている」
(234〜235ページより)

糸井さんは、私にとって、
半分は“おさななじみのパパ”です。

だから、糸井パパは、
「あの子に、こんなことを思ってたんだ」って
知ったら無性に泣けてきた。

だって、本当にそうなっているんだもの。

パパへ。
娘さんは、
「あいつを呼ぼうぜ」って、
ほんとうにしょっちゅう、言われています。

彼女がくると、
とくに一気に盛り上がるということでもない気がします。

ものすごくギャグをやって笑かすとか、
とりあえずジョッキをイッキするとか、
もちろん、そんなんでもないです。

よくよく考えると、
必ずしも話の中心にいるわけでもないような‥‥
時々ヘンな格好はしてるけど、
どちらかというと静かなほうです。

なのに、ヤツがいないとなんだか欠けてる。
なんというか‥‥色合いが。

彼女がいると、ただ、みんななんだか素で
ポップでライトな自分になってしまうんです。

まわりの人のふかーい慰めになるポップ、
ってこういうことか!
と、いつも愕然とします。

国宝級のポップな女子です。
かっこいいです。

「こんな風に育ってほしい」って親が願ったことが
本当にそうなっているなんて、
珍しいケースだと思います。

(自分はぜったい、
 親が幼い頃の私に何か願っていたとしても
 今叶えてあげられてないと思うもん。)

娘さんはとても、希有なひとです。


坂本美雨さんの最近の情報

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坂本美雨さんのオフィシャルサイト、
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2008-04-10-THU






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