ことばというものは、
ひとつひとつの中に多くの情報を含むこと、
それをきちんと覚えておくというのは
たいへんなことだということは
先にお話ししたとおりです。
「火鉢」「馬車馬」「狛犬」といった、
ことばそのものは残っているけれども、
もの自体が身の回りから姿を消していることばは、
画像や体験などと密接に結びついていないため、
どうしても間違いやすくなる。
それで、古いことばが間違いやすくなる、
というのが前回お話ししたことでした。
同様のことが、新しいことばに関してもいえます。
「ヘクトパスカル」「キシリトール」といったことばは、
ここ数年で急速に浸透してきたことばです。
生活の中で耳にすることは増えましたが、
新しいぶん、きちんと認識できていないんですね。
時代とともにことばは移り変わります。
増えることばもあるし、なくなることばもある。
ある説によれば、千年後に残る日本語は、
現在の7割くらいではないかといわれています。
少し違った観点からの話になりますが、
現代の日本語というのは
「ヘクトパスカル」「キシリトール」といった
外来語を受け入れやすい言語なんです。
つまり、単語が増えやすい言語であるといえますね。
たとえば「コンピューター」などという
本来は外国で生まれたことばであっても、
発音をそのままカタカナに置き換えて
問題なく取り入れることができる。
ほかの言語では、こうはいきません。
わかりやすい例でいいますと、
中国語に外国産のことばを取り入れるときは
漢字を決めなければいけません。
その漢字を誰かが決めて、
それがメディアなどで頻繁に使用されて広まって、
はじめて言語の中に組み込まれるのです。
ドイツ語やフランス語であれば、
男性名詞、女性名詞といった「性」を
名詞に与えなければいけません。
ロシア語に至っては、名詞でも活用があります。
そういった言語では、
実用に至るまでのステップが必要ですから、
やはり、新しいことばが一般に定着するまでに
時間がかかってしまうんです。
以上のことを考えると、
「ヘクトパスカル」「キシリトール」といった外来語が
不確かな認識のまま、日常で使われるというのは
日本語ならではのことといえるでしょう。
そういった不確かな認識が上記のような
「言いまつがい」につながっていることを考えると、
「日本語というのは『言いまつがい』しやすい言語である」
というふうにいえるかもしれませんね。
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