そもそも、人はなぜ「言いまつがう」のか?
そのおかしな「言いまつがい」は、分析可能なのか?
「タモリのジャポニカロゴス」の客員教授として
日本語の奥深さをお茶の間にわかりやすく解説される
名古屋大学教授の町田健先生におうかがいした。
町田先生は静かに断言する‥‥
「この本を読んで笑うのは知的な行為である」と!
「言いまつがい」をテーマにした
町田先生の特別授業をお楽しみください。





まちだ・けん
名古屋大学教授。1957年生まれ。
日本語をはじめとする言語学に精通。
人間の言語一般が普遍的にもっている特徴を探求し、
それらの特徴を支配する原理を解明することを
研究の目的としている。
おもな著書に『言語学が好きになる本』(研究社出版)
『言語が生まれるとき・死ぬとき』(大修館書店)
『言語学のしくみ』(研究社出版)などがある。














この「言いまつがい」という本は、
ことばをよく知っている人ほど
楽しめるようにできていると思います。
それが間違いであるということをわかるためには、
正しいことばがなんであるかを
わかっていなければいけません。
また、読んで「ここが間違っている」とわかるだけでなく、
正しい意味と間違いのあいだの距離、ズレといったものを
感じ取れる人ほどおもしろく感じることができます。
たとえば、偶然に言い間違ったことばが、
別の意味に解釈できて、よりおもしろくなる。
そのためには、理解するという働きが必要ですので、
やっぱり、ことば、日本語というものについて
きちんとした理解がなければいけないと思います。

また、重要なことは、
投稿という形をとることによって、
この本におさめられたほとんどのテキストが
書き手が「間違い」を指摘するという
パターンになっていることです。
たとえば、日本には、漫才という形式がありますよね。
漫才における笑いがなぜ生じるのかということは
さまざまな要因がありますが、
ひとつには、ある意外なことをひとりが言って、
別のひとりがそれを指摘しつつ
別の意味を与えるというパターンが
観客を笑いに導くわけです。
あえて関係性を失わせるような発話や、純粋な間違い。
それを発見することが、おもしろさにつながる。
間違えた人と、間違えたことを指摘する人の
両方がいてはじめてこのおかしさは生まれるんです。
それは、ある種のサービスかもしれません。

この本は、ある意味では誤用例の集合体といえます。
通常、そういう本はありません。
ふつうの本は、正しい表現ばかりが並んでいるからです。
こういう誤用の連続を読み進めるためには、
かなり頭を使うのではないかと思います。
読みながら、ここは正しい、ここが間違ってる、と
いちいち判断しながら読まなくてはなりませんからね。
間違いを間違いだと認識するためには、
誤用を理解するとともに、正しく規範に従った表現も
同時に頭に思い浮かべなくてはなりません。
それはたいへんなことですし、
ある意味、脳に負担をかける作業であるともいえます。

そういった意味でいえば、
頭をよくする、頭がよくなるという表現を
軽はずみに使うわけにはいけませんけれども、
ことばに対する感覚を磨いてくれる本であり、
知的な本であるといえます。
『言いまつがい』を読んで笑うというのは、
かなり知的な行為なんです。






序論
「言いまつがい」を読んで笑うというのは知的な行為です。
2007-04-12-THU
ケース1「慣用句」 2007-04-13-FRI
ケース2「新しいことば」 2007-04-16-MON
ケース3「ひと文字違いで大違い」 2007-04-17-TUE
ケース4「逆転現象」
ケース5「ウルトラ逆転現象」
2007-04-18-WED
ケース6「前言に引きずられて」 2007-04-19-THU
ケース7「怒っている人々」
ケース8「緊張のあまり‥‥」
ケース9「新入社員」
2007-04-20-FRI
ケース10「似て非なる言葉」
ケース11「失敬な人々」
2007-04-23-MON
ケース12「時代劇でござる」 2007-04-24-TUE
ケース13「ミックス英会話」 2007-04-25-WED
ケース14「ごぼうのささがき」 2007-04-26-THU
ケース15「あたたたたたた!」 2007-04-27-FRI
ケース16「くり返す」 2007-04-30-MON
ケース17「地名なのか、人名なのか」 2007-05-01-TUE
ケース18「犬に言いまつがい」
ケース19「犬に英語で言いまつがい」
2007-05-02-WED
ケース20「違う!」
ケース21「ぜんぜん違う!」
ケース22「ぜんぜん違う!」
ケース23「ぜんぜん違う!」
2007-05-03-THU
総論
こういう知的な遊びが
どんどん
広まればいいと思います。
2007-05-04-FRI
2007-04-12-THU




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