私がゴボウをささがきにしていると、 横からオットが、 「それってさきがけだっけ?  ゴボウのさきがけ」 「‥‥違うよ」 「え? なんだっけ、さげかき?  じゃなくて、どぎぎり?」 と、どんどんドツボにハマっていきました。 (彼はまだ正解を知らない) 〜『銀の言いまつがい』52ページより〜





この「言いまつがい」は、
これまでのケースとちょっと違いますね。
つまり、「ささがき」という、ことば自体が
たいへん覚えづらいものなのです。

これまでに説明した、
「馬車馬」「狛犬」などのように
生活に頻繁に登場しないため、
使用頻度が低いということもありますが、
「ささがき」ということばが
イメージを連想しづらいんですね。

「ささがき」というのは「笹掻き」と書きまして、
ゴボウや大根を、笹のように薄く削ることなんですが、
一回聞いただけではその漢字を連想しませんし、
「ささ」と「がき」で分かれることもわかりません。
「ささ」ってなんだろうな、
「がき」ってどういうものだろう、
というふうになってしまうのがふつうだと思うんです。

たとえば「かさたて」ということばであれば、
漢字で書けば「傘立て」で、
「傘」を「立てる」ものだと予測しやすい。
意味を持つ単語に分解して、
全体がどういう意味になるのか予測がつくわけです。

ところが「ささがき」というのは、
単語で分けづらいし、分けても意味が予測しにくい。
となると、これはもう、
「知らない単語と同じ」ことになるわけです。
ですから、何度覚えようとしても、
つぎに使うときにまた不安になってしまう。

ですから、上に挙げた「言いまつがい」は、
これまでの「言いまつがい」のように
発言者がうまくことばを選べないのではなく、
ことばそのものに、「覚えづらい」という性質があるのが
ひとつの原因ではないかと思います。


・音から漢字や意味を予測しづらいことばは、  覚えづらく、結果的に「言いまつがい」やすい。


2007-04-26-THU



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