この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース16「くり返す」  新入社員のころ、祝電を手配することになりました。 超緊張状態で、電話をかけました。 一通り、宛先と差出人と文面を言った後、 「台紙はどうなさいますか?」と聞かれ、 そこまでスムーズに行きすぎて気を許したのか、 「押し花弁当でおねがいします」 と言ってしまいました。はっと気づき、 「すみません、押し花弁当です」と、 訂正するつもりがまた間違え、しまいには、 オペレーターの方が復唱するときも 「台紙は押し花弁当‥‥、  いや、弁当‥‥いや、いや、  ‥‥お・し・ば・な・で・ん・ぽ・うですね」と、 ふたりではまりまくってしまいました。 (匿名) 〜『金の言いまつがい』60ページより〜





一度間違ってしまったことばが
頭の中に残ってしまうのというのは、
脳の働きとしては自然なことです。
脳の知的な活動として、
「これは誤用である」ということを
正しく認識するためには、
間違った表現を頭の中に
きちんと残さなければならないからです。
正しいことを覚えるためには、
これは違うぞ、ということも
知っておかなくてはならないということです。

ですから、一度間違ってしまったことばは
誤用例として頭の中に格納されてしまう。
最初の誤用によって言った人が動揺していると、
また同じ誤用例を脳が拾ってしまうことも
十分に考えられるわけです。

上の「言いまつがい」の場合は、
その場で同じ間違いをくり返してしまった例ですが、
ケースによっては、一定の時間が経過したあとも、
「こう言ってはいけない」ということを
同じ状況になったときに再び言ってしまうことがあります。

先に述べたように、誤用したことばは、
正しいことばを覚えるために必要な知識ですから、
すぐに忘れてしまう短期的な記憶ではなく、
簡単にはなくならない場所に格納されています。
正しいことばと、誤用したことばの両方を
知識として記憶したあとで、
その人が同じような状況に置かれて、
「以前のように間違ってはいけない」と焦るあまり、
脳が正常に働かず、誤用例として格納したことばのほうを
使ってしまっても不思議ではないのです。


・誤用例を記憶するのは、  脳の知的な活動として自然である。 ・正しい知識のために頭の中に残った誤用例が  「間違ってはいけない」という  緊張によって選ばれてしまうと、  同じ「言いまつがい」がくり返されることになる。


2007-04-30-MON



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