この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース6「前言に引きずられて」  大学病院内の食堂でホール係をしている私。 ある日、お客様から 「チャンポンはどれくらいでできますか?」 と聞かれ、その場から厨房に向かって 思い切り大きな声で 「チャンポンは  なんポンでできますか〜っ?」 と、言いまつがいを‥‥。 「何分でできますか?」 と聞こうとしただけなのに‥‥。 (ひろみ) 〜『金の言いまつがい』30ページより〜  北口にあったケンタッキーが別の店に変わっていた。 「南口店は営業しておりますので、ご利用ください」 という貼り紙。夫に尋ねる。 「ねぇ、南口に  ケンタッキーなんてあったっき〜?」 夫よ、そこまで笑うか? (ソラシド) 〜『金の言いまつがい』31ページより〜




人は、これからしゃべることばを
つぎつぎと予測しながらしゃべっているということは
前回の「逆転現象」の説明のときにお話しいたしました。
言おうとする先のことばが頭をよぎるから、
未来に言うことばと、いま言っていることばが
混ざったり、入れ替わったりしてしまう。
そういう間違いは、めずらしくありません。

しかし、今回、上に挙げた例は、
ある意味で逆のパターンですね。
つまり、過去に言ったことばが、
いま言っていることばに影響してしまう。

たとえば、文字を書いているときは、
こういう間違いが起こりやすいんです。
そこに残ったことばが視認できるというか、
目に入ってくるし、書いたことで
はっきりと頭の中に印象づけられますから。

もちろん、この例の場合も、
「チャンポン」の「ポン」が頭に残っていて、
それが「何分」に影響してしまうというふうに
説明できなくはありません。
けれども、人というのは意外に
一回言ったことを頭の中に残さないものなのです。
というよりも、言ったことばを残すより、
つぎにしゃべることばを予測することのほうに
頭を働かせるんですね。

書いた文字は頭に残るけれども、
人は頭の中で、しゃべった文字を書いたりしません。
しゃべったことばは、
一度言うと忘れるというふうに働くのが
ふつうなんじゃないかと思います。

ですから、前回の「逆転現象」のほうが、
「言いまつがい」としては複雑に見えますが、
こちらの「前言に引きずられて」というパターンのほうが
ケースとしては、めずらしいのではないかと思います。
(言いまつがいの担当者から
 「逆転現象系の投稿は多いですが
  前言に引きずられるネタの投稿は少ないです」
 という報告を受けて)
ああ、そうですか。それはそうだろうと思いますね。





この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース5「ウルトラ逆転現象」  私が高校の時、担任のY先生はつい、 「すまん! ごめん!  みんなに言い忘れてた!」のことを 「ごまん! すめん!  いんなにみい忘れてた!」と言った。 (優) 〜『金の言いまつがい』90ページより〜





こちらも、たいへん複雑に思えますが、
基本的には先の「ロッテリア」と同じ原因です。
ただ、それが、ふたつ連続して起こってしまった、
並列になっているということですね。

「言いまつがい」の代表的なパターンは
ある種の緊張や瞬間的な混乱によって
ことばの選択を間違えてしまうというものです。
ですから、ひとつの「言いまつがい」によって、
頭の中がさらに混乱し、
新たな「言いまつがい」を生んでしまう、
ということも起こります。
ですから、この複雑な「言いまつがい」は、
「すまん! ごめん!」が
「いんなにみい忘れてた!」を
導いたということもいえるのではないでしょうか。

と、まあ、説明しようと思えばできますけれど、
「ごまん! すめん!
 いんなにみい忘れてた!」というのは
そうとうおもしろいですね(笑)。


・未来に言うことばは、いま言うことばに影響するが、  過去に言ったことばは、いま言うことばに影響しづらい。 ・文字を書く場合は、書いたことばが頭に残るが、  しゃべったことばは一度言うと忘れてしまう。


2007-04-19-THU



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN